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最終更新日:2007年3月5日


情報専門学科カリキュラムJ07−その骨子

第69回情報処理学会全国大会 イベント企画                           
シンポジウム(1)  情報専門学科カリキュラムJ07−その骨子               

日時:2007年3月6日(火)10:00-12:30
会場:早稲田大学大久保キャンパス[第2イベント会場(57号館2階 202教室)]

全体概要

情報処理学会が情報専門学科のカリキュラム標準を策定したのは,直近では1997年のことであった.それから10年が経とうとしている.その間に,インターネットの爆発的な発展があり,ウェブサービスなど,IT分野での技術動向もおおきく変貌をとげてきた.
その中で,米国では,IEEE CSとACMとが協力して,CC(Computing Curriculum)2001を公表しCS領域に対する標準カリキュラムを提示したのを皮切りに,2002年にはIS領域,2003年にはSE領域, 2004年にはCE領域,そして2005年にはIT領域と,標準カリキュラムを公表してきた.この一連の標準カリキュラムに特徴的なことは,具体的なコース設定,科目設定などは例示にとどめ,その特定領域のカリキュラムにおいて扱うべき知識項目とその深さとを知識体系(Body of knowledge)として定めたことにある.さらに,それらの中で,最低限身に付けさせるべきものをcoreとして明示した.
日本においても,この新しい状況に対応した標準カリキュラムを定めるべきであると,大学側からも産業界からも強く要請を受けるに至り,学会としてJ97の10年後である 2007年度に改訂版を作成すべく,J07プロジェクトを発足させることとなった.2006年度は,知識項目・知識体系を整理する作業にあたった.ここにその成果を発表し,広く意見を求めるものである.
なお,現に情報専門学科では,そのカリキュラムによって,どのような知識・能力を卒業生に与えているかについてのアンケート調査を2005年度に引き続いて行った.その結果も合わせて報告し,今後の議論の材料を提供する.

基調報告:J07プロジェクトの設定                    
3月6日(火)10:05-10:20[第2イベント会場(57号館2階 202教室)]      資料:(328KB)

筧 捷彦(早大/J07プロジェクト連絡委員会委員長)

[報告概要]
情報処理学会は,数度にわたって情報専門学科向けの標準カリキュラムを検討し公表してきた.その最近のものは1997年に公表されたもので,J97の名前で知られている.それから10年が過ぎようとし,情報分野の科学技術はいちだんと進展をみた.その進展に見あった標準カリキュラムを策定するべく,J07 プロジェクトが進行中である.
この10年の間には,科学技術内容が進展したばかりでなく大学教育の質の向上を目指す活動も広がった.そこでは,何を教えるか,ということ以上に,何ができるように育てるのかという教育学習目標を明らかにすることが求められている.その目標を達成させる教育の方法も多様化してきている.プロジェクト中心の学習形式も採用されるようになってきた.
こうした動きに合わせて,J07では,それぞれの教育学習領域ごとに”知識体系(body of knowledge)”を定めることを中心において作業を進めている.つまり,何をどこまで達成させるかを,できるだけ明確にすることを作業の中核に据えている.今年度は各学習領域の知識体系を策定するところまでの作業とし,広くコメントを求めて洗練しつつ,2007年度末までにカリキュラム例を作成する予定である.

報告(1):情報専門学科での達成度調査                    資料:達成度調査
3月6日(火)10:20-10:35[第2イベント会場(57号館2階 202教室)]

佐渡 一広(群馬大/達成度調査WG)

[報告概要]
JABEE(日本技術者教育認定機構)による認定審査および情報専門教育カリキュラムに関連して,情報専門教育に関する内容の調査を行っている.学生が卒業時点においてどの程度のレベルを有するかを,「熟達している」,「活用できる」,「使用できる」,「説明できる」,「知っている」の5段階で回答してもらい,さらに具体的な内容について記載してもらうアンケート調査を行っている.
2005 年7月に理工系情報学科協議会会員学科を対象に最初のアンケート調査を行い,28学科から回答を得ている.22項目について,おおよその内容と達成度を記載してもらった.2006年はこの回答結果を比較検討のうえ,同じ22項目について対象範囲をより明確にし,また記載例を示す他,新たにJABEEに関係するCS,CE,SEおよびISの4分野についての達成度の調査を含めて行っている.この調査結果および状況について簡単に述べる.

報告(2):CS領域の知識項目                          資料:CSBOK
3月6日(火)10:35-10:50[第2イベント会場(57号館2階 202教室)]

疋田 輝雄(明大/CS委員会委員長)

[報告概要]
わが国の理系情報学科のカリキュラムモデル案は,J97までは,米国同様,CS(コンピュータ科学)として作成し提示していた.しかし情報分野の最近の拡大と多様化によって,SE,CEなど5分野それぞれにカリキュラム案を作成することになった.その中でのCSの占める位置はどのようなものだろうか.米国版CC2001CSは,知識項目からなる知識体系(BOK, Body of Knowledge)と,知識項目を組み合わせたカリキュラム例いくつかからなる.知識項目のうちでコアユニット(必修)がCSの特徴付けを与えていると言える.CSのコアを一言でいうと「情報とコンピュータの基礎技術」であろう.重視されているエリアは,コアユニット所要学習時間数で測ると,離散構造,プログラミング基本,アルゴリズム,アーキテクチャ,ソフトウェア工学などである.
日本版CSモデル案の作成にあたっては,この基礎技術中心の考え方を保ちつつ,日本固有の事情や特長を生かし,さらに国際共通性との調和をいかに追求するかが課題であると考えている.

報告(3):IS領域の知識項目                          資料:ISBOK
3月6日(火)11:00-11:15[第2イベント会場(57号館2階 202教室)]

神沼 靖子(IS委員会委員長)

[報告概要]
情報システム(IS)の専門家には,情報技術の解決手法と情報に関する企業のニーズを満たす業務プロセスに焦点をあてて,企業の目標を効果的かつ効率的に達成できることが求められている.このためISカリキュラムには,情報技術と称している技術的な側面,組織や管理などに注目した組織的な概念,および組織の情報システムの仕様・設計から実装・運用に焦点をあてたシステムの理論と開発などに関する知識項目(BOK)が組み込まれる.ISBOKはISモデルプログラム(IS '97)作成時に集大成され,知識項目は4階層まで詳細化された.以後,これを基に,時代の変化を反映して追加修正することになっている.
J07で検討しているISBOKは,ISJ2001(情報処理学会ISモデルカリキュラム;CC2001反映),IS2002(IS '97の改訂版;CC2005対応)を継承しており,我が国固有の教育環境で必要な知識が反映されている.

報告(4):SE領域の知識項目                          資料:SEBOK
3月6日(火)11:15-11:30[第2イベント会場(57号館2階 202教室)]

西 康晴(電通大/SE委員会幹事)

[報告概要]
我が国のソフトウェア産業,そして製造業や金融業などあらゆる産業において急務なのは,実践的なソフトウェアエンジニアリング(SE)を体系的に習得した技術者の確保である.その解決のためいくつかの大学では,経団連や文科省,経産省の支援のもとに実践的なSEの講義や演習を実施している.こうした取り組みをさらに発展させるためには,各大学の取り組みを教育体系として俯瞰的に把握し,産業界の現状やニーズ,将来像とのすり合わせを行っていく必要がある.
情報処理学会情報処理教育委員会SE教育委員会(旧アクレディテーション委員会SEアクレディテーション分科会)ではこれまで,SEの教育体系としてCCSEをベースにし,日本の高等教育の現状を反映させたカリキュラムモデルJpn1を検討してきた.
今回のJ07カリキュラムの策定では,Jpn1を軸に各大学の取り組みを俯瞰し,産業界の現状やニーズ,将来像とのすり合わせを行っていく.本講演ではJpn1の概要を紹介し,J07策定に向けた方針について議論を行う.

報告(5):CE領域の知識項目                          資料:CEBOK
3月6日(火)11:30-11:45[第2イベント会場(57号館2階 202教室)]

大原 茂之(東海大/CE委員会委員長)

[報告概要]
本CE領域はCE2004をベースに検討を行った.CE2004のコンピュータ工学の定義は概ね「現代のコンピュータシステムとコンピュータ制御機器に使用されているソフトとハードの要素の設計,組み立て,実装および維持する科学および技術を扱う分野」となっている.CE2004のBOKは,自動車の燃料噴射システム,医療機器などへのコンピュータの応用が主であり,組込み系に近い内容である.ただし,ややハード面に偏っており,日本で大量の不足が叫ばれている組込みソフト技術者を育成するには不十分である.委員会では,CE2004の骨子を生かしつつ,組込みソフト技術者を育成できる知識項目を追加することとした.
主たる追加項目は,リアルタイムOS,ソフトウェアメトリクス,デバイスドライバなどである.回路部品による回路設計などはコアから外す方針で臨み,日本版のBOKを作成した.コア時間もハードとソフトのバランスを考え,各大学の特徴を出せるように350時間程度までに減らす方針とした.

報告(6):IT領域の知識項目                          資料:ITBOK
3月6日(火)11:45-12:00[第2イベント会場(57号館2階 202教室)]

駒谷 昇一(NTTソフトウェア/IT委員会委員長)

[報告概要]
情報処理教育カリキュラムJ97の後継である『J07』は5分野で構成されるが,そのうち『IT(Information Technology)分野』について報告を行う.
情報処理学会情報処理教育委員会に新たにIT教育委員会を設置し,CC2005のIT2005をもとにIT分野のBOK(Body of Knowledge)およびカリキュラムを検討してきた.
IT 分野(IT学科)は,企業等の組織におけるIT基盤の構築・維持に関する技術を対象としている.BOKは,ネットワーク,セキュリティ,Web技術,情報管理などの12の知識分野に分かれている.IT教育委員会ではIT2005をもとにIT分野の日本語版BOKを作成した.IT分野はCC2005のなかでも最も新しい分野である.今後日本でもIT分野を教える学部学科が新設させる可能性があるが,講演ではIT分野(IT学科)の狙い,日本語化されたBOK の紹介などを行う.

質疑応答
3月6日(火)12:00-12:30[第2イベント会場(57号館2階 202教室)]