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最終更新日:2003.11.28

平成14年度業績賞の表彰

 

 本会では,平成13年度から,産業界における顕著な業績を顕彰するため「業績賞」を設けております.

 本賞は,情報技術に関する新しい発明,新しい機器や方式の開発・改良,あるいは事業化プロジェクトの推進において,顕著な業績をあげ,産業分野への貢献が明確になったものを選定し,その貢献者に贈呈するものです.

 本年度の受賞者は,「業績賞候補者推薦用紙」により推薦された候補のうちから,表彰規程および業績賞候補選定手続きに基づき,林副会長を委員長とする選定委員会において厳正な審査を行い,第484回理事会(平成15年3月)の承認を得て,下記の3件の業績の貢献者8名に決定されました.

 受賞者には,本会表彰規程により,5月20日に開催された第45回通常総会において,受賞者に表彰状および賞牌が授与されました.


 

◆「大規模集積回路網の大域的求解法の開発とその実用化に関する研究」

[推薦理由]
 LSI設計においては「大規模アナログ回路の数式モデルである非線形連立方程式の解の非収束問題」が大きなボトルネックとなって,世界中の設計者を悩ませていた.受賞者達は,この課題を理論面・実用面の両方から捉えて解決し,新しいアルゴリズムを開発し,アナログ回路としては最大級である1万素子クラスのLSIを世界で初めて収束の保証付きで解くことに成功し,業界に先駆けてこのクラスのLSIの製品化にも成功した.これによって,LSI設計期間の短縮や民生機器の高度化・低価格化に大きく貢献したことになる.また国外でも,欧米で使われている回路シミュレータのプログラムに簡単な修正を施すことにより大域的収束性が保証されることを証明した論文を発表し,国際的な評価を受けた.このアルゴリズムはIEEEのNG-SPICEプロジェクトでも採用され,全世界に公開されている.このように受賞者達の研究はLSI設計技術とそれに関連する情報産業の発展に多大な貢献をしている.

 

山村清隆

山村 清隆 君(正会員)

 1987年早稲田大学大学院博士課程修了(工学博士).1988年群馬大学工学部情報工学科助教授.1999年中央大学理工学部電気電子情報通信工学科教授.非線形システムの数値解析を中心とする情報数理工学の研究に従事.日本IBM科学賞,電子情報通信学会論文賞,電気通信普及財団テレコムシステム技術賞(3回),オーム技術賞,丹羽記念賞,電子情報通信学会篠原記念学術奨励賞,井上研究奨励賞等を受賞.学会委員等多数.

 

井上靖秋

井上 靖秋 君(正会員)

 1964年東京三洋電機(株)(現三洋電機)入社.アナログLSI設計・開発,LSI設計CADシステム研究・開発に従事.同社LSI事業部CAD技術部長,メモリ開発部長を経て,2000年東亜大学教授.2003年より早稲田大学大学院情報生産システム研究科教授.1997-1999年IEEE回路とシステム論文誌編集委員,EIAJ/EDA技術委員会幹事.1988年石川賞,1999年科学技術庁長官賞(科学技術功労者),2002年電気通信普及財団テレコムシステム技術賞各受賞.博士(工学)早稲田大学.

 

◆「仮名漢字変換技術の実用化研究と,それを実装した日本語ワードプロセッサの開発」

[推薦理由]
 極めて困難とされていた仮名漢字変換技術を実用化できる方式を研究開発し,それを実装した本邦初の日本語ワードプロセッサJW-10を世に送り出した.それまで,全文字配列キーボード方式,2ストローク方式,タブレット方式など,特殊技能を要する入力方式しか用いられていなかった日本語入力の世界に,誰もが,簡単な訓練で使うことができる日本語入力方式を登場させ,普及させた功績は大きい.この研究により,現在では,パーソナルコンピュータ,携帯電話など,あらゆるIT分野で日本語入力が簡単に行えるようになった.

 

天野眞家

天野 眞家 君(正会員)

 (株)東芝 研究開発センター.1973年京都大学大学院・工・電気・修士.日本語ワードプロセッサー,機械翻訳システム等の自然言語処理の研究開発に従事.ICOT,EDRプロジェクトに従事.全国発明賞,特許庁長官賞,科学技術庁長官賞.博士(情報学).

 

河田勉

河田  勉 君(正会員)

 1971年九州大学修士課程卒.1978年,日本で最初に発売された「日本語ワードプロセッサ:JW-10」制作を成功させた.今までの研究で着目されていなかった「キーボードからのカナ漢字変換入力」「ワープロ用語彙辞書」「使用語彙の学習機能」に注目.その後,研究成果の評価をうけ,研究はもとより様々な新規事業構築(主にインターネット関連)に携わる.お出かけ情報検索の駅前探険倶楽部(http://ekitan.com),ビジネス情報配信サービスのニューズウォッチ(http://www.newswatch.co.jp)など.現在は,東芝で,より様々な分野におけるビジネス構築を行い,インターネット業界の先駆者として活動をすすめている.工博.

森健一

森  健一 君(正会員)

 1962年東京大学工学部応用物理工学科卒業.同年,東京芝浦電気(株).パターン認識,文字認識,自然言語処理,画像処理の研究に従事.1996年同社常務取締役,1999年東芝テック(株)代表取締役社長.工博.

 

 

 

◆「第3世代携帯電話W-CDMA用国際標準暗号の開発」

[推薦理由]
 受賞者らは,線形解読法という独自の暗号解読技術らをベースに新たな安全性基準に基づく安全で小型・低消費電力を実現する暗号MISTYを開発し,そこで培われた技術に基づき第3世代携帯電話W-CDMAの国際標準暗号KASUMIの開発に多大な成果をあげられました.またKASUMIは現(第2)世代携帯電話GSMの国際標準暗号にも採用が決定しています.日本発の暗号技術が,唯一の暗号として,国際標準に採用されるのはこれが初めてであり,日本の暗号技術の国際的価値を飛躍的に高めたという点でも大きな意義があります.

松井  充 君(正会員)

 1987年京都大学大学院理学研究科数学専攻修士課程卒.同年三菱電機(株)入社.以来,誤り訂正符号化技術,暗号と情報セキュリティ技術に関する研究開発に従事.1999年欧州にて第3世代携帯電話(W-CDMA)システムの暗号設計作業に参加.2000年よりCRYPTREC暗号技術検討会委員.平成6年電子情報通信学会論文賞.第35回(平成14年度)市村産業賞本賞.IACR,IEICE,SITA各会員.

山岸篤弘

山岸 篤弘 君(正会員)

 1980年横浜国立大学大学院工学研究科修了.1983年三菱電機(株)入社.入社以来,誤り訂正符号化技術,暗号と情報セキュリティ技術に関する研究開発に従事.平成6年電子情報通信学会論文賞.第35回(平成14年度)市村産業賞本賞.IACR,IEICE,SITA各会員.

 

時田俊雄

時田 俊雄 君(正会員)

 1989年横浜国立大学大学院工学研究科修了.同年三菱電機(株)入社.当初は誤り訂正符号化技術の研究開発に従事.1995年頃より本格的に暗号と情報セキュリティ技術に関する研究開発に従事.2000年より国内電子政府推奨暗号の評価機関であるCRYPTREC共通鍵暗号技術評価委員会委員.2003年に横浜国立大学にて博士号(工学)を取得.第35回(平成14年度)市村産業賞本賞.IACR,IEICE,SITA各会員.