【講演概要】
筧 捷彦(情報処理学会情報処理教育委員会委員長,早稲田大学教授)
情報処理学会は,2008年3月に大学の情報専門学科向けのカリキュラム標準J07を定めて公表した。1997年に定めた標準カリキュラムJ97を10年ぶりに改訂したものである。その内容は,情報専門学科カリキュラムの国際的な同等性に重きをおき,米国IEEE-CS・ACMが先行して公表しているカリキュラム標準CC2005とも整合したものとなっている。
情報分野の広がりに呼応して,CS, IS, SE, CE, IT という5領域を設定して,それぞれに,学習対象となる知識体系を定め,専門学科において最低限学生に習得させるべき範囲(項目とレベル)をコアとして定めている。そのコアに対するカリキュラムの例が示してあるが,いずれも大学教育期間4年のうちのほぼ1年分に相当する
J07は,それぞれの情報専門学科がカリキュラムを組み立てるにあたって基準参照となることを意図したものであるが,産業界で活用されている情報処理技術者試験およびITスキル標準(ITSS, ETSS, UISS)の見直しの中でも参照されている。
情報専門学科の教育内容を審査し認定する仕組みとしては,2001年度から開始されているJABEEの認定があり,現時点で29の教育プログラムが認定されている。工学分野には認定された教育プログラムを国際的に相互承認しあう協定Washington AccordがありJABEEもこれに加盟しているが,情報分野を対象とする国際相互承認協定はまだ存在していない。情報分野の協定をSeoul Accord(仮称)として今年中に発足させようという作業が,ABEEK(韓国),ABET(米国),ACS(豪州),BCS(英国),CIPS(加国),JABEE(日本)の間で進められている。
産業界からは,大学での教育に対していろいろに注文が出てきている。大学側と産業界とが教育に関して意見交換を行う場が十分ではなかったとして,文部科学省・経済産業省の呼びかけに応じて産学人材育成パートナーシップが動き出している。その情報処理分科会でも,J07に対して産業界との意見交換・議論が行われた。さらに議論が進み産学の協力がいっそう深まることが期待されている。
ところで,大学における情報専門学科卒業生は,全卒業生の中のわずか数%にすぎないことに注意する必要がある。J07そのものは,このわずか数%の大学生に対してしか直接の影響を持ち得ない。情報産業へ進む大学卒業生が情報科学技術の基本的な知識・能力を備えているようにするには,情報専門学科以外での情報教育が重要になる。情報処理学会では,この事実をふまえて,大学生全員に対する教養としての情報教育のカリキュラム標準と,理工系にあってその専門に加えて情報科学技術も一定水準まで学ばせようとする学科(コース)向けのカリキュラム標準との整備を急ぎ,2008年度末までに公表する予定でいる。
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