「デジタル新時代への戦略(案)」に関するパブリックコメントの募集について(PDF268KB)に対し、情報処理学会および情報処理教育委員会より6月19日付けで以下の意見を提出いたしましたのでご報告いたします。
<提出団体名:社団法人情報処理学会>
■該当分野:A デジタル新時代への戦略(案)全般に係る意見
要旨
デジタル社会に向けての中長期的視点からの戦略策定は時宜を得ており、原案に記載された内容は、とりあげた項目、将来の検討の提言など、多くが適切な提言である。
本文
デジタル社会に向けて中長期的視点からの戦略をこの時点で策定することは、数多くの省庁等にわたる諸施策を円滑に遂行していく上でメリットが大きい。原案に記載された内容も、とりあげた項目、将来の検討の提言など、多くについて適切である。
教育について取り上げている諸点「客観的な効果測定の下で、子どもの学力の向上」「子どもの情報活用能力の向上」「 高度デジタル人財のミスマッチが生じない安定的・継続的な仕組みの確立」「大学等における情報教育、デジタル基盤、遠隔教育等の充実」は高く評価できる。産業活性に関する項目の中では、「デジタル情報の蓄積・分析を通じた、個々の消費者ニーズに適合した個人向けネット・サービスの市場の創出」はとりわけ高く評価できる。また、デジタル情報の流通・活用基盤基盤整備に関してあげられている「情報を分析・解析したり、様々な情報を組み合わせたりすることにより、新しい価値を生み出すことのできる基盤の整備」「学術分野等における研究・開発の進展の基礎となるネットワークその他の情報活用基盤の充実」は重要なポイントであり高く評価される。
また、グローバルビジョンの策定は極めて重要であり、今後のより精緻な議論を期待する。
■該当分野:A デジタル新時代への戦略(案)全般に係る意見
要旨
戦略策定の視野が短期的で、既存技術による既存情報資源の活用戦略に偏しており、新規の技術開発や情報の獲得の可能性に関する中長期的視点が不十分である。
本文
デジタル技術は進展が急速であり、2015年までを視野に入れるならば、新たな技術の開発、新たな情報の獲得も考慮する必要があるが、原案の記述は既存技術による既存情報資源の活用に偏している。
「三か年緊急プラン」との整合性も重要であるが、中長期的戦略には情報化投資水準の維持と雇用創出を目指す短期的戦略とは別の視点も重要であり、原案ではこの視点が不十分である。
重点分野の選定自体にこの問題があるだけでなく、分野別のビジョン、目標、方策についても、短期的な視点が目立ち、中長期的なより根本的なビジョンや方策の提言が十分に行われていない。
■該当分野:C II.我が国の将来ビジョンを実現するための本デジタル戦略の視点 (該当ページ:p.2)
要旨
中長期的戦略としては、制度整備やサービスの充実とともに、それらを利活用する国民の「情報水準」の向上が不可欠であり、このための戦略が重要である。
本文
デジタル技術の利活用には、制度面の整備、提供サービスの充実、利用の容易化などだけでなく、それらを利活用する国民の「情報水準」の向上が不可欠である。
このためには、学校教育・社会教育の双方において、情報教育の質と量を戦略的に向上させていくことが必要である。
■該当分野:D III.本戦略のスコープ (該当ページ:p.3)
要旨
重点分野の選定理由を明確に述べる必要がある。
本文
三大重点分野の選定理由として「三か年緊急プランとの整合性」があげられているが、中長期的戦略の観点からの選定理由が明示されていない。重点分野としてあげられているものは「三か年緊急プラン」の内容と一致しているが、中長期的視点からもこの選定が適切である理由が示されていない。たとえば新たなデジタル戦略をドライブするコンテンツの作成と普及の推進は、中長期視点から見て重要であると考えられる。
■該当分野:F (2)医療・健康分野 (該当ページ:p.9)
要旨
予防医療の推進には医療・健康分野の個人情報を機関・業種の壁を越えて連携・活用するための戦略が必要で、このためにはセキュリティ面での戦略が必要である。
本文
国民の健康と医療コストの削減のためには、予防医療の充実が有効である。そのためには医療情報だけでなく、広く健康サービス産業、日常生活の習慣、労働、食、運動、嗜好などさまざまな情報を連携させ、総合的に分析することが有効である。
これを実現するためには、個人情報の漏えいや不正な利用を防止しながら、業界の壁を超えるデータの共用を可能にするための、制度・技術両面での戦略が必要である。
■該当分野:G (3)教育・人財分野 (該当ページ:p.10-12)
要旨
整備される制度やサービスの利活用には国民の「情報水準」の向上が不可欠であるが、そのための初等中等情報教育や成人・社会人に対する教育の充実方策が不十分である。
本文
初等中等教育における情報教育の内容の充実について、具体的な方策が十分に述べられていない。短期的には「新しい学習指導要領」を踏まえた方策は適切であろうが、中長期的には指導要領自体についての再検討も必要になる可能性が高いであろう。この戦略により整備される制度やサービスの十分な利活用には、国民の「情報水準」の向上が不可欠であり、このためには踏み込んだ方策、たとえば情報教育の量的な拡充を明記するのが望ましい。
また、社会システムの情報化に伴ってのディジタルディバイドの深刻化を防止するためには、子どもに対してだけでなく、成人、社会人に対する情報教育や啓発についても、機会の充実や制度の整備を推進する必要がある。
なお、校務の情報化の推進については、子どもの情報活用能力の向上と直接的関係はなく、ここに述べるのは不適切と考える。
■該当分野:G (3)教育・人財分野 (該当ページ:p.12)
要旨
高度デジタル人財の認定・認証にあたっては、公的かつ国際的なものとし、社会的に敬意を持って受け止められる制度を設けることが必要である。
本文
高度デジタル人財の認定・認証にあたっては、社会的に敬意を持って受け止められ、就労先の企業や機関における評価や処遇に結び付くような制度とすることが必要である。このためには国際標準に沿った公的な制度を設けることが適切である。
■該当分野:G (3)教育・人財分野 (該当ページ:p.11-12)
要旨
新たなテクノロジーやイノベーションの創造にあたれる人財の育成は重要であり、そのための具体的な方策も必要である。
本文
中長期的戦略としては、既存技術を利活用して発展させていく人財のみならず、新たなテクノロジーやイノベーションの創造にあたれる人財の育成は特に重要である。
新たなテクノロジーを創出する人財の育成には、大学レベルの教育を終えた後に研究を継続できる環境を支援する方策が必要で、具体的には特定の応用にとらわれない先端的研究プロジェクトの推進や、こうした人財の育成にあたる機関への支援の充実が必要である。
イノベーションには個別の技術を統合して新たな方向を示すことが必要で、それを推進できる人財の育成には、個別技術を持つ人財の育成とは別に、学際的能力、総合化能力を養う教育を充実する方策が必要である。
■該当分野:H II.産業・地域の活性化及び新産業の育成 (該当ページ:p.14-16)
要旨
デジタル技術の活用による地球温暖化への対策はさまざまな可能性があり、推進すべき項目として独立に掲げるのが適切である。
本文
デジタル技術を活用による社会・産業の効率化は、地球温暖化対策として有効性が高く、ビジョン・目標の中でも独立項目として掲げるべきものである。案ではこれに関連してグリーンITと高度道路交通システムのみが方策にあげられているが、これらは一例に過ぎず、中長期的にみるとあらゆる産業、あらゆる社会システムにおいて、デジタル技術の活用によって大幅な効率向上が可能な局面が数多く存在する。方策としてもこうした効率化を推進するための制度的な支援等を掲げるのが適切である。
■該当分野:H II.産業・地域の活性化及び新産業の育成 (該当ページ:p.14-16)
要旨
第一次産業に対するデジタル技術の活用は不十分な段階にあり、中長期的には大きな効果をもたらすことが期待される。
本文
農林水産業へのデジタル技術の活用は不十分な段階にあるが、さまざまな活用の余地があり、推進すべき項目として掲げるのが適切である。
原案の記述では、情報発信によるニーズ開拓や需給マッチングといった流通面からの地域活性化については触れられているが、生産現場でもデジタル技術の利活用が生産性向上に有効な点が多く、食料自給率の面での安全保障にもつながる。また、流通面でも食の安全の確保などに有効であると考えられる。こうした農林水産業へのデジタル技術活用の支援も方策として考えるべきである。
■該当分野:I III.デジタル基盤の整備 (該当ページ:p.18-19)
要旨
デジタル基盤整備が既存の情報流通の面に偏しており、情報の収集や分析等デジタル技術の他の側面に関する基盤整備戦略が欠けている。
本文
短期的な戦略として既存の情報を流通させて利活用する点に重点を置くことは理解できるが、中長期的には実世界からの情報の収集から、情報を活用しての実世界への働きかけまでの一貫した戦略が必要である。
デジタル技術の活用にあたっては、情報収集のためのセンサーとネットワーク構築、収集した情報の分析による有益な情報の抽出、抽出した情報の流通、情報を総合して実世界にどのような働きかけを行うかのプラニング、そして実際の働きかけを行うアクチュエーションまでの一連の過程が必要である。しかし、原案の記述は情報の流通の面に偏しており、こうした過程を俯瞰した戦略が述べられていない。
■該当分野:I III.デジタル基盤の整備 (該当ページ:p.19)
要旨
情報セキュリティ対策の確立については、持続的な環境整備が必要である。また、コンテンツセキュリティの観点からの方策も必要である。
本文
情報セキュリティの確立はデジタル技術の利活用の前提として必須であるが、このためには既存の計画の着実な実施だけでなく、持続的に見直しと再整備を繰り返していく必要がある。また、生の情報を直接的に保護するだけでなく、コンテンツセキュリティの観点からの閲覧制限や改竄防止などの技術開発と普及促進の観点も重要である。
<提出団体名:社団法人情報処理学会 情報処理教育委員会>
■該当分野:C II.我が国の将来ビジョンを実現するための本デジタル戦略の視点 (該当ページ:p.2-3)
要旨
本戦略の目標達成のためには国民の「情報水準」の向上が不可欠と考えるので、新たな戦略の内容として「教育」に言及することを要望します。
本文
「(2) 新たな視点に立ったデジタル戦略」について:
この部分において、「教育」に言及がありませんが、とくにAとBに おいては、現在書かれていることに加えて教育サイドの支援がなければ、目標の達成は難しいものと考えます。このため、AとBにおいて、本文末尾付近をそれぞれ次のように修正することを提案します。
…を通じて突破するとともに、教育を通じた国民全体の「情報水準」の向上と併せることで、国民本位または顧客本位の…
…基本ルールを明確にするともに、情報教育の質の向上により国民各自の情報技術・情報セキュリティに対する理解度の向上・適切な態度の養成とあいまって、情報流出や…
■該当分野:G (3)教育・人財分野 (該当ページ:p.10)
要旨
子どもの情報能力活用向上は国民全体の「情報水準」向上を見据えたものであること、及び、これが大学教育にも適用されることを明記することを要望します。
本文
「(将来ビジョン及び目標)」について:
子どもの情報活用能力を向上させることは、国民全体の「情報水準」を向上させることでもあるので、そのように記述することが望ましいと考えます。具体的には、2のタイトルを次のように修正することを提案します。
2. 子どもの情報活用能力向上を通じて、国民全体の「情報水準」を長期的に上昇させる体制を確立する。
大学教育について「高度デジタル人財」のみに言及されていますが、高度デジタル人財が輩出される土台として、大学の学生全体の情報教育水準を高めることが必須であると考えます。具体的には、3の記述の冒頭部分を次のように修正することを提案します。
大学等における情報教育の水準を向上させるとともに、高度な教育拠点を…
■該当分野:G (3)教育・人財分野 (該当ページ:p.10-11)
要旨
高度デジタル人財育成の内容として、次の世代の同人財を育成する役割の人財を含めることが不可欠であると考えるため、そのような修正を要望します。
本文
「○高度デジタル人財について」について:
高度デジタル人財の継続的な育成のためには、「次の世代の高度デジタル人財を育成する役割の人財」を育成するという再生産を視野に入れることが必須であるにもかかわらず、現在の@〜Fには含まれていません。これは非常に重要なことなので、@の直後にAとして挿入することを要望します。具体的には、次のような内容の挿入を提案します(挿入後の番号は順に繰り下げる)。
A小学校・中学校・高校等で次の世代のデジタル人材の育成を中心となって推進する立場の「教育情報化推進リーダ教員」や、教育現場と社会の橋渡しとなって情報教育への社会からの関与を引き出す役割を担う「教育情報化コーディネータ」として活躍できる人財
■該当分野:G (3)教育・人財分野 (該当ページ:p.11-12)
要旨
教育・人財分野の方策としては、情報活用能力を含む子どもの学力向上と教育環境の情報化等の2つが柱となるべきと考えるため、そのような修正を要望します。
本文
「(方策)」について:
(2)の「子どもの情報活用能力の向上等」は(1)の「子どもの学力の向上」の一環であるのが自然と考えられます。一方で、(1)のA、(2)のAは教員の体制の整備であり、直接的には「子どもの情報活用能力の向上等」「子どもの学力の向上」ではありません。むしろこの部分は、 (情報活用能力の向上を含めた)「子どもの学力の向上」と (効果的な教育を進めるための)「教育環境の情報化等」の2つで構成するべきと考えます。具体的な差し替え提案を示します。
(1)子どもの学力の向上
@ 双方向でわかりやすい授業の実現
双方向でわかりやすい授業の実現に資するコンテンツと教育方法の整備充実を図るために、(ア)教育コンテンツの開発と活用、公的機関の保有するコンテンツの教育利用を推進するとともに、(イ)デジタル技術を活用した効果的な教育方法の開発・普及を行う。
A 教員のデジタル活用指導力の向上
教員のデジタル活用指導力のチェックリストを活用して、各学校や教育委員会等で、教員の実態に応じた研修を組織的・計画的に実施できるよう研修方法の開発を行ない、概ね全ての教員がデジタル技術を活用して指導できるようにする。
B 情報教育の内容の充実
課題や目的に応じて情報手段を適切に活用したり、必要な情報を主体的に収集・判断・表現・処理・創造したりする能力や、情報セキュリティと情報社会のモラル等の能力の育成を図るために、新しい学習指導要領を踏まえた情報教育の教育方法の開発と教材の整備を行なう。
(2) 教育環境の情報化等
@ 教員のデジタル活用をサポートする体制の整備
全ての教育委員会及び幼小中高等学校・大学等で、デジタル技術と教育両面に理解があり、教員と共にデジタル技術の活用法を考え、その向上を支援する人財「教育情報化推進リーダ教員」及び、統括責任者「学校CIO」を配置する。 また、教育情報化を推進する企業等と学校の間を適切に調整する「教育情報化コーディネータ」を各地域に置く。
A 双方向でわかりやすい授業の実現に資するハードの整備充実
学校における活用の実態や効果の検証も踏まえ、(ア)教育用コンピュータ、校務用コンピュータ、校内LAN、超高速インターネット接続について、IT 新改革戦略に沿って引き続き整備を進めるとともに、 (イ)電子黒板2等デジタル機器の教室への普及を進める。
B 校務の情報化
校務用コンピュータを活用した一層の校務の情報化を推進し、業務の軽減と効率化を図るとともに、教育の質の向上と学校経営の改善を図る。 |