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最終更新日:2007年2月2日

コンピュータ博物館設立の提言

 

会長 安西祐一郎

 このたび本会では,経済産業省に対し,以下の通り提言を提出いたしましたのでご報告いたします.


デジタル署名アイコンコンピュータ博物館設立の提言デジタル署名付PDF

情報処理学会情報セキュリティ委員会では、文書の改ざんや成りすましを検知・防止する技術であるデジタル署名の活用を推進しています。

平成19年2月2日

経済産業大臣官房
技術総括審議官 殿

〒101-0062
東京都千代田区神田駿河台1-5
化学会館4F
社団法人 情報処理学会

コンピュータ博物館設立の提言

歴史の展示物を見るとき, われわれは文明文化の発展の中での視座を得る. 同様に歴史的人工物を見るとき, 発明工夫の道筋を理解し将来の姿を予測し得る.特に工学教育においては, 過去の大きく重く単純な装置が果たす役割は大きい. 過去の装置は原理が簡単であり, 理解が容易であり, 身に付く知識になる. たとえば,昔のコンピュータではネオン管の明滅で計算の過程, ループの入れ子が見え, アーキテクチャが文字通りそこに実在した. かつてはこういう体験からコンピュータの勉強が始まったが,今はそれがない.

そういう点で, 情報の分野においても, 教育や研究のバックアップとして, 昔のコンピュータの収集と展示が不可欠である. しかしながら,昔のコンピュータは次々と失われている. しかも,それらは もう二度と作ることは出来ない. 過去の工作技術はすでに消滅しているからである. それゆえ,昔のコンピュータで生き残っているものは, 一刻を争って保護しなければならない.

1) 我が国の現状
昔のものを収集し, 展示し, さらに研究の対象としている国立の歴史系博物館はいくつもある. 国立民族学博物館, 国立歴史民俗博物館, 東京大学総合研究博物館など. これらには当然コンピュータは入っていない. コンピュータの分野からいえば, これらの博物館に相当する施設が必要であった.

東京農工大学, 東京理科大学に多少の収集物があり, また企業にも自社の製品を保存しているところがある. それらも組織的に保護しなければ, いつどうなるかわからない. 国立科学博物館には何台かのコンピュータが展示されており,現在も収集が続けられているが, ここではコンピュータは一般産業製品の一種として保管されており, コンピュータの体系的な展示ができるわけではない. 技術の系統的な発展過程を知ることによって技術革新の本質を学ぶためには, 各地に個別に保管されている機器を一堂に集め, 体系的に展示することが必要である.

情報処理学会では歴史特別委員会が中心となって我が国のコンピュータに関する貴重な歴史遺産の資料や写真を集めて情報処理学会ホームページの“コンピュータ博物館”(バーチャル博物館)に収録し, 展示してきた(http://www.ipsj.or.jp/katsudou/museum/index.html). これは貴重な資料として広く活用されているが, あくまでもバーチャルな展示であり,実物を見たいという要望には応えられていない.
また, 同委員会では歴史的コンピュータの保存を各方面に訴えるとともに, それらの所在地の調査を進めている.

2) 海外の状況
目を海外に転じれば, コンピュータの歴史を扱う博物館はいくつも見つかる.

米国
Computer History Museum, Mountain View, California
(http://www.computerhistory.org/)
The American Computer Museum, Bozeman, Montana
(http://www.compustory.com/)
Intel Museum, Santa Clara, California
(http://www.intel.com/museum/index.htm)
National Cryptologic Museum, Fort Meade, Maryland
(http://www.nsa.gov/museum/)

ドイツ
Heinz Nixdorf Museum, Paderborn
(http://www.hnf.de/index_en.html)

英国
Bletchley park
(http://www.bletchleypark.org.uk/)

3) 提言
わが国にコンピュータが誕生してからちょうど50年が経過し,初期の機器で保存されているものは極めて僅かになっている.古い機器を保存しておくことは,企業にとっても大学や研究機関にとっても,スペースや管理上の負担が大きく,数年前まで残っていた機器が所轄機関の移動や関係者の退任等に伴って廃棄されてしまったという話をあちこちで耳にする.初期の機器の開発に携わった研究者,技術者,利用者は既に高齢に達し,職を退き,あるいは他界した者も少なくない.関係者が不在になるとともに現在辛うじて残っている機器も散逸の危機に晒されている.今始めなければ, コンピュータ博物館の資料集めはますます困難になり, 博物館を作ることは絶望的になる.世界最先端のIT国家を目指す日本としては悔いを千載に残すことになろう.

国, 地方, 業界, 学会が連携して, 公的なコンピュータ博物館を早期に設立することを強く望むものである.

以上