平成16年3月25日
企画政策委員会
はじめに:検討の趣旨と背景
本会の会員数は依然減少し、正会員の本年度末の数は平成3年度のピーク時に比して10,000人の減少*となる。これは金額に換算すると、単純計算では1億円の収入減少に相当し、財政面から健全な学会運営に明白な影響を与え得る状況にある。(*正会員数 平成3年度ピーク時:31,164人、平成15年度末:21,689人)。
一方で、情報社会の発展とともに、学会がカバーすべき分野は多様化し、担うべき役割も広く、また大きくなっている。「情報処理」の未来に魅せられ、志と意欲に溢れた方々が1960年に学会を創立してから既に44年が経ち、日本と世界は、情報処理に関連した分野や活動だけでも大きな変化を遂げている。
こうした状況の中で、情報処理に関する日本と世界の将来を見据えるとともに、本会の財政や、会員数の推移等の状況を踏まえて、本会に関する具体的な企画・政策を立案することは、現時点での本会にとって最も重要なことの一つである。
これらの背景、ならびに「第21代-第22代会長間業務引継書(平成15年5月20日)」に鑑み、本委員会では、本会の今後の在り方を示し、理事会が可能な限り速やかに実効ある施策に取り組めるよう、また、本会が曲り角にある現在、今後の本会の拡大のためには、過去の学会の慣習に囚われず、思い切った新しい学会の方向を提示する必要もあることを念頭に、過去の関連委員会の検討経緯も踏まえつつ検討を行って来た。
8回にわたる委員会の開催、ならびに中間報告に対する役員各位からの意見も踏まえ、提言を取り纏めたので、ここに学会運営に関する検討報告書として提出する。
なお、本委員会における検討と並行して、総務財務運営委員会(委員長:松田晃一副会長)においては中長期的な財政改善のための精力的な検討が行われ、まず一つ目の具体的な施策として、事務局固定費削減のための事務所の移転ならびに人件費に関する諸規程の改定を年度内に完了 した。さらに、引き続き、第二、第三の財務改善のための具体的な諸施策の検討がなされていることを簡単ながらここに併せて記させていただく。
[企画政策委員会構成] (「*」は総務財務運営委員会と重複)
- 委員長 安西祐一郎 (副会長)
- 副委員長 松田 晃一*(副会長)
- 委 員 中田登志之*(総務)、筧 捷彦*(総務)、上原三八*(財務)、菊池純男*(財務)、丸山 宏(会誌)、石田 亨(論文誌)、萩谷昌己(調査研究)、宮部博史(電子化)、村上篤道(事業)、山本 彰(国際)
各理事
T.情報処理学会の今後の在り方について
本会の会員数は、社会環境の急激な変化と、この間の学会活動の時代への対応の遅れなどから平成3年度をピークに年500〜800人相当の減少が継続している。
中でも会員の減少は、産業界の会員において顕著に見られる。その理由は、バブル崩壊以降に産業界全般を襲った不況を含めて複合的なものであろうが、とりわけ以下のことが考えられる。第一に、コンピュータ分野が隆盛になっていった過去の過程で拡大した大手計算機メーカの研究者・技術者等が、汎用機の時代から、パソコン、ネットワークの時代を経て、さらに新たな情報化の時代を迎える中で、その変化への対応に遅れた本会から離れていったこと。第二には、情報産業が情報サービス産業へと移行する中で、情報サービス産業に携わる膨大な数の技術者、関係者にとっては、本会の活動内容は距離があり過ぎて入会には至っていないこと。第三には、インターネットの普及などによるグローバル化の影響、特に産業界の目は欧米を注視していることである。
大学、国立研究所等を含めた学界の会員は減少しているとは言えない(むしろ微増傾向にある)が、それは学会活動の内容が、大学、国研が昔から遵守してきた伝統的なテーマに合致したままだからかもしれない。このことについては定量的な評価は困難であるが、大学等に長く在籍してきた会員にとっては暗黙のうちに了解できることであろう。
いずれにしても、産業界、学界ともに本会の存続自体が懸念される状況にあるとの現状認識が重要である。
また、依然として減少傾向にある会員数は、財政面から学会運営に大きな影響を与えつつあり、戦略的な取組みが急務である。
他方、多様な形で拡大し続ける情報の新たな時代の中にあって、減少したとはいえ未だ24,000人の会員(内、15年度末正会員数:21,689人)を有する本会は日本の情報関係分野のフラッグキャリア学会であり、その役割は、世界がNPOとコミュニティの活動を重視する傾向の中では、学会の新たな理念とそれを実現する活動基盤を新しい時代に向けて立ち上げていけば必ず大きくなるはずである。
本会にとって、このような積極的な姿勢こそが、危機を乗り越えて新しい発展を遂げるために最も求められていることであろう。とりわけ、 社会が、従来の情報科学や情報工学に加え、さらに人間と社会をターゲットにした技術や研究を求めている現在、本会は、コンピュータを直接 対象とする分野のみならず、マルチメディア・情報環境・人文科学・社会科学・生命科学・医学・芸術・教育、その他、情報の概念と方法が浸透しつつある分野など、情報に関連するあらゆる新たな活動を内包し、日本の情報関連分野全体をカバーするフラッグキャリア学会として、企業、大学、研究所をはじめ、様々な背景を持つ人々それぞれに対応できるような、魅力的な発展を遂げられる新たな組織に生まれ変わらねばならない。
こうした背景を踏まえて現実を直視するとき、現在の日本の情報産業の問題として、現場でソフトウェアを作っている技術者(実務家)と研究者が遊離し、双方の間に大きな壁があることがあげられる。本会においても、産業界会員(実務家)の著しい減少は、本会の活動が産業界のニーズと遊離していたことに起因するものと大きく反省する必要がある。その一方で、本会が、情報分野のトップレベルの学術研究コミュニティとしても積極的に活動を持続し、向上すべきことはもちろんである。
以上のことから、これからの情報処理学会は、「実務の焦点(Focus for Practice)」と「学術の焦点(Focus for Academia)」の二つの焦点を持ち、それぞれの焦点が単独で伸びるとともに、ダイナミックな緊張感をもってバランスするような、二つの中心(焦点)を持つ「楕円構造(Oval
Structure)」の運営を行うべきである。
とりわけ、実務家と研究者の間にある壁を取り除き、双方の橋渡しとなるような活動を積極的に展開する必要がある。研究者に対しては、学会の本流であるアカデミックな学術基盤の一層の充実を支援する一方で、実務家に対しても、学会の活動が充分に価値あるものとなるような場を提供していくことが肝要である。
研究者と実務家の双方にとって居心地良く、各々が目標に向かって充実した活動ができ、さらにお互いがコミットすることでシナジー効果を生み出し、新しい多様な価値を創造、許容しつつ、ダイナミックに発展できるような新しい学会の姿を創っていくべきである。
同時に、産業界や学界だけでなく、また、実務家や研究者だけでなく、会員予備軍まで含めた多様性を考慮し、広く情報関連分野に興味を持つ人々が、お互いに新しい情報を享受でき、自分の将来に役立て得るような、裾野の広い活発な情報流通の場を創り出していくべきである。
目 次
I.情報処理学会の今後の在り方について(※前述内容)
II.運営改善に向けた具体的な提言と今後の課題
- 実務家に向けた学会活動の活性化について
- 新規分野を獲得する仕組みについて
- アカデミアの一層の充実について
- 英文論文誌と国際的な情報発信について
- 関連分野を取り纏めるアンブレラ型組織の可能性について
- 学会の社会貢献について
- 情報処理学会としての標準化活動について
- 今後のFITの在り方について
付録:委員会議事録ほか
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■付録:委員会議事録はこちら(PDFファイル)