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最終更新日:2009年1月29日

高等学校学習指導要領案(2008年12月22日公示)意見公募(案件番号185000357)のうち
専門教科「情報」部分に対する意見

 

高等学校学習指導要領案(2008年12月22日公示)意見公募(案件番号185000357) のうち専門教科「情報」部分に対する意見PDF


2009.1.20 情報処理学会情報処理教育委員会

要旨

専門教科「情報」の科目構成において、「人間的要因」「ソフトウェア工学」に属する内容が手薄だと考えます。これらは現代のソフトウェア/コンテンツ開発において重要な位置づけにあることから、これらに相当する科目の追加、あるいは既にある科目におけるこれらの内容の増強を要望します。

 

本文

情報処理学会情報処理教育委員会では、当学会の分野に関わりの深い高等学校教科「情報」の動向について関心を持って来ました。この度公表された新指導要領案のうち、専門教科「情報」部分につきまして、下記の通り意見を提出させて頂きます。よろしくお取り計らい下さいますよう、お願い申し上げます。

  • 専門教科「情報」の科目構成について、全般に増強され、現行指導要領と比較して現実のソフトウェア開発・コンテンツ開発により即した構成になっていることに賛成します。ただし、下記の2点についてはさらなる増強が必要であると考えます。
  • 「人間的要因」(human factors、human computer interaction)に属する分野の内容が手薄であるので、何らかの形で増強されることを要望します。理由は、システム設計・管理系、コンテンツ制作・発信系のいずれに進むとしても、人間的要因に対する配慮が不十分であると、使い難いシステムやコンテンツを開発してしまう危険があるため、この分野の学習が重要であると考えるためです。
  • システム設計・管理系科目の中で、「ソフトウェア工学」 (software engineering)に属する分野、とりわけ上流工程と呼ばれる「要求分析(開発するシステムに何が求められているかを明確化する工程)」、「システム分析(既存システムや開発システムの構造および周辺環境との接続をモデル化して検討する工程)」の部分の内容が手薄であるので、何らかの形で増強されることを要望します。理由は、これら上流工程部分の失敗がシステム構築の失敗につながる場合が極めて多く、これらの部分の基礎的手法を知っておくことが重要だと考えるためです。
  • 上記2点について、できれば専門の科目を設けて扱うことが望まれますが、科目数の増加が難しければそれぞれ「情報と問題解決」「情報システム実習」の内容に追加する方法もあると考えます。

(上記要望をまとめるに当たって検討した個別の改良案については、参考のため、以下に付録として添付します。)

 

付録: 個別に検討した改良案

情報産業と社会

○目標「情報産業と社会のかかわりについての基礎的な知識と技術を習得させ、」について、何の技術であるかが明確でないように思われます。「情報産業と社会のかかわりの技術」と解釈することは趣旨から見て整合性がなく、「情報産業の技術」と解釈するのも無理があると考えます。「情報技術と社会のかかわり、情報産業と社会のかかわりそれぞれについての基礎的な知識を習得させ、」と直すことを提案します。
理由: 情報技術と社会のかかわり、情報産業と社会のかかわり、ともに重要な事項だと考えるため。

○内容の取り扱い(1)イの「情報産業における情報モラルについて討議」について、「情報産業における」という限定がつかない方がよいように思えます。
理由: この科目で個人としての情報モラル、情報産業におけるモラルの双方を学ぶべきだと考えるため。

○内容の取り扱い(2)ウの「技術や情報の守秘義務や法令遵守」は「技術や情報に関わる守秘義務や法令遵守」とすることを提案します。
理由: 守秘義務も法令遵守も、技術に関わることと、情報に関わることを合わせた範囲から適切なものを学ぶべきと考えるため。

○内容の取り扱い(2)ウの「情報のセキュリティ対策にかかわる法規」は「情報セキュリティにかかわる法規」のような記述とすることを提案します。
理由: 「対策」に限定せず、セキュリテイ全般を対象とした法規について学ぶべきと考えるため。

情報の表現と管理

○内容の(1)アにおいて、「(1)ア 情報と表現の基礎」となっていますが、「情報」と「(情報の)表現」を並列に扱うことに違和感があります。「情報とその表現」とすることを提案します。
理由: ここでは、情報自体と、情報の表現についての、双方を扱うのが適切と考えるため。

○内容の取り扱い(2)アにおいて、「図形、文字、音などのコミュニケーションを行う際のメディアを取り上げ、それぞれの特性と役割について扱うこと。」となっていますが、メディアというのはこの場合紙と鉛筆やピアノなどを意味するように思えます。「図形、文字、音などの情報表現形態について取り上げ、…」とすることを提案します。
理由: ここでは、代表的な情報種別についてその表現を扱うのが適当だと考えるため。

○内容の取り扱い(2)イにおいて、「情報の記録、管理、伝達のために文書化することの重要性」となっていますが「情報を記録、管理、伝達するために文書化することの重要性」とすることを提案します。
理由: 「情報を扱うことを目的とした文書化」という目標を明確に表す記述が望ましいと考えるため。

○内容の取り扱い(2)イにおいて、「実践的な文書の作成方法」が何を意味しているのかが不明です。「定型書式を持つ文書を用いた情報の管理」とすることを提案します。
理由: ここでは、定型書式を用いることで各種の情報を効率よく扱えることを学ぶのが適切だと考えるため。

情報と問題解決

○内容の取り扱い(1)アにおいて、「情報手段を活用した問題の発見から解決までの過程において必要とされる知識と技術について理解させること」としていますが、(2)以降では「問題解決の手法が情報産業でどのように活用されているかを理解させる」となっていて、こちらでは情報手段を活用という限定がないため(むしろ紙と鉛筆で行うことが主となるように思えます)、不統一に思えます。「情報手段を活用した」を削除することを提案します。
理由: ここでは、まず前提なしに問題解決の枠組みを学び始めるのが適切だと考えるため。

○内容の取り扱い(2)イにおいて、「エについては、線形計画法や待ち行列などを取り上げ、問題解決の技法に関する基礎的な知識と技術について扱うこと」となっていますが、情報産業で実際に行われている問題解決の具体例として挙げるのであれば、PERTなどの方が適切ではないかと考えます。
理由: スケジュール管理などプロジェクト管理に属する技法を学ぶことによって、専門教科「情報」で多く用いられるプロジェクト学習に役立てられると考えるため。

情報テクノロジー

○科目名について「テクノロジー」と「技術」はどう違うのかが明確でありません。もし同義であれば、科目の目標で「情報テクノロジーの基礎的な知識と技術」と記されていますが、これを意訳すると「技術の技術」になってしまい、違和感があります。「情報技術」ないし「情報技術の基礎」とすることを提案します。
理由: 日本語の表現として自然だと考えるため。

アルゴリズムとプログラム

○プログラミング言語について、「情報システム実習」でオブジェクト指向設計を扱うのこととなっているのに対し、ここではオブジェクト指向言語を扱わないので、科目群全体のバランスとして不統一に思えます。最低限の対応として、両者で使う言語のレベルをそろえる(構造化設計⇔構造化言語、オブジェクト指向設計⇔オブジェクト指向言語)ように指示する注記を追加することを提案します。
理由: プログラミング言語と開発手法の対応に整合性が必要と考えるため。

○内容の取り扱い(2)ウにおいて、「内容の(3)のアについては、分散や標準偏差を取り上げ」とありますがこれは分散や標準偏差の「計算」を取り上げるという意味でしょうか。数値計算の具体例として挙げているのであれば、これらの値の計算よりも、収束による解の改良や桁落ち誤差を避ける計算法などのテーマが盛り込めるものが好ましいと考えます。
理由: 数値計算における誤差などの問題に気付かせる例題が好ましいと考えるため。

○「誤差の見積もり」「計算量の考え方と見積もり」についても内容に加えることを提案します。
理由: 誤差や計算量を見積もれないままプログラムを書くことは好ましくないと考えるため。

ネットワークシステム

○全般に、具体的な設計や運用に力点が置かれ過ぎているように思えます。「プロトコルの基本的な仕組みと機能」だけでなく、「経路制御」「エラー制御」「輻輳制御」などの機能と基本的なアルゴリズムについても知っておくことが重要だと考えるので、これらの内容を追加することを提案します。
理由: ネットワークにおける主要なアルゴリズムを学ぶことで、ネットワークの複雑さを実感し、また分散アルゴリズムの片鱗に触れることが望ましいと考えるため。

○内容の取り扱い(2)ウにおいて、「イについては、ネットワークの定期保守、事後保守などについて取り上げ」となっていますが、これにモニタリング(監視)を追加することを提案します。
理由: 稼働中のネットワークのモニタリングは安全性のために重要な内容だと考えるため。

データベース

○内容の取り扱い(2)イにおいて、「アについては、階層モデルやリレーショナルモデルなどを取り上げ」となっていますが、階層モデルの使用例は極めて少なくなっていることと、後から出て来る内容はすべてリレーショナルモデルを前提としていることから、、リレーショナルモデルだけでよいと考えます。どうしても別のモデルを挙げて対比させる必要があるのであれば、古典的な階層モデルよりオブジェクトモデルなどを紹介することを提案します。
理由: 階層型モデルを学ぶよりも、リレーショナルモデルを時間を掛けて学び、また新しいデータモデルについて知っておくことの方が重要だと考えるため。

○「アクセス制御機能」「トランザクション機能」「整合性管理機能」についても、ぜひ取り上ることを提案します。場所としては(3)イ「操作」に続いて(3)ウ「データ保全機能」を作り、そこで取り上げるのがよいと考えます。
理由: データベースのデータ保全機能は実務上重要であり、これについて学んでおくことが必須だと考えるため。

情報システム実習

○全般に用語としてプログラムを作成することを指すのに「プログラミング」が使われていますが、「開発」とすることを提案します。開発段階では、開発ツール(ソースコード管理、進捗管理、エラー管理) も併せて使われるため、プログラミングという限定された用語を使わない方がよいと考えるためです。
理由: 実務では用途として「プログラミング」より「開発」が一般的な用語であるため。

○内容の取り扱い(1)ウでは、「構造化設計とオブジェクト指向設計の考え方について理解させる」となっていますが、両方を扱うのは大変だと考えます。アルゴリズムとプログラムの箇所でも提案しましたが、構造化かオブジェクト指向のどちらかを選択させることを提案します。
理由: 複数の設計手法を学ぶのは負担が大きく難しいと考えるため。

○上記のように、プログラミング(開発)の段階では、そこで用いるツールについても扱うのがよいと考えます。
理由: 今日の情報システム開発では各種のツールが使われるので、それについて体験しておくことが必要だと考えるため。

情報メディア

○「情報メディア」が何を意味するかが指導要領本文だけでは分かりません。情報メディアの意味についても記すことを提案します。
理由: 指導要領本文を見ただけで内容が読み取れるようにするため。

○メディアに関する科目ですから、(たとえば(2)イなどに)「メディアリテラシー」という用語を入れてあるのがよいと考えます。
理由: メディアリテラシーは重要な教育内容であり、それを扱うことを明記するのが望ましいと考えるため。

情報デザイン

○内容の取り扱い(2)イでは、「形態、色彩、光などの」としていますが、科目「情報の表現と管理」の記述では「レイアウト」という言葉が使われています。統一ないし何らかの関連づけをすることを提案します。
理由: 用語はできるだけ統一することが望ましいため。

○内容の取り扱い(2)イでは、「作者が伝えようとしている考えや意味について扱うこと」としていますが、これは後で出て来る「意図」と同じように思えます。どちらかに統一することを提案します。
理由: 用語はできるだけ統一することが望ましいため。

○内容の取り扱い(2)ウでは、「作者の意図を効果的に伝達するために、社会や情報産業における情報デザインの具体的な活用状況について扱うこと。」としていますが、「…伝達するための、」が適切と思われるので、そのように変更することを提案します。
理由: 意図の伝達が最終的な目的であり、そのための学習であることを明示するために、このような記述の方が望ましいと考えるため。

○内容の取り扱い(2)ウでは、「簡単に操作できる工夫」「利用を容易にする工夫」について述べていますが、その理論的土台である人間の特性(運動特性、認知特性など)について扱った上でこれらの内容に進むのがよいと考えます。これは、この科目より前に学ぶ科目に何らかの形で人間的要因を盛り込むことで達成できると考えますが、それが難しいようであれば、この科目のどこかに入れることを提案します。
理由: 操作の簡単さや利用の容易さの評価には、人間の特性自体についての知識が不可欠であると考えるため。

表現メディアの編集と表現

○「表現…表現」という重複感の多い題名であり、違和感があります。「表現メディア」という用語をもっと分かりやすいものに言い替えることが望ましいと考えます。
理由: 用語はできるだけ意味の分かりやすいものとするべきと考えるため。

○内容の取り扱い(2)イでは、「ア(コンピュータグラフィックス)については、写真やイラストレーションなどを取り上げ」となっていますが、それだけでは2次元の画像加工だけに思えてしまいます。モデリングやレンダリングなども例示に含めることを提案します。
理由: 今日のグラフィクスでは3Dのモデリング、レンダリングが大きな位置を占めていることを反映した内容にすべきと考えるため。

情報コンテンツ実習

○内容の取り扱い(1)イでは、「適切な規格、…」とありますが、科目「情報テクノロジー」の記述では「国際標準」「業界標準」など標準という用語が使われています。統一することを提案します。
理由: 用語はできるだけ統一するのが望ましいと考えるため。