2018年06月04日版:浅井 光太郎(副会長)

  • 2018年06月04日版

    「学会価値の訴求は学会の社会実装」

    浅井 光太郎(副会長)

     あなたは情報処理学会に満足していますか? 満足度を高めるために学会はどうしたらいいでしょうか? 筆者が副会長を拝命してほぼ1年になります。目前の課題に対処するだけで学会価値の向上が二の次になっているかもしれません。冒頭の質問は基本の再確認です。以下、学会の価値を高めるために前年度からの引き継ぎ事項を含めて議論していること、自分の考えていることについて、5つの点で書いてみます。

     第1は学会のグローバル対応です。出て行く、来てもらう、コラボする、の3方向で考えます。「出て行く」は会員が国際的に活躍するための支援です。たとえば有名国際会議について報告し、日本からの採択拡大を目指して協力する等のことが草の根的に行われています。こうした活動の支援や展開を進めたいと思います。本年はIEEE-CSとの共同表彰が始まり、ACMとの表彰も続きます。これらの表彰が会員の活躍を促進することを期待しています。「来てもらう」は会議の誘致や招待、また当会論文誌への投稿誘導や招待論文等が考えられます。「コラボする」は共同研究です。学会が共同研究を牽引することはできないでしょうか。たとえば懸賞テーマやコンテストを活用しては? また情報規格調査会の標準化活動は企業中心ですが、提案募集の情報を共有する等して大学の知見を活用できないでしょうか。機械学習の標準化等、目標が倫理を含めた合意形成であれば企業以外の見識も必要です。

     第2は情報科学・技術(以下、情報)「の/による」教育という課題です。当会は情報教育のカリキュラムや入試改革について文部科学省からの受託も含めて検討しています。現在、プログラミング教育や情報科目の導入決定に続き、入試における情報の採用が議論されるなど、情報はリテラシーの一部との認識が広がりつつあります。当会が従来から行ってきた教育関係の提言も奏功したのでしょう。ジュニア会員へのサービス提供、また社会人へのリカレント教育も当会の課題です。情報オリンピックもいずれ教育の課題に重なります。これら課題への対応について、奨励だけでなく選奨も検討すべきでしょう。

     第3は企業に対する学会の価値向上という課題です。学会として国内企業を意識することは当会のアイデンティティでもあると筆者は考えています。企業を想定した現行サービス、ITフォーラムやソフトウエアジャパン、ディジタルプラクティス、業績賞などの充実に加え、学会が機会を提供するインターンシップやジョブマッチング、ソフトウェア活用といった産学連携あるいは産産連携を推進したく思います。現在、企業内研究者向け表彰を準備中です。技術者向けにはディジタルプラクティス論文、その社会実装結果による業績賞という流れがあり得ると考えています。

     第4は情報科学・技術の先導という課題です。本課題に対する活動の一つ、IPSJイニシアティブは重要なテーマやキーワードを整理して学会が先導することを目指しています。これは継続的な活動と考えています。一方で、あるテーマが社会に大きく捉えられたとき、社会の要請や新たな枠組みへの要求に対応できる仕組みが必要です。近年の例にビッグデータや人工知能等があります。バズワード対応ではなく、既存の領域や研究会に横断的なテーマに対して動的なグループ設定を行う仕組みが必要ということでもあります。制度上の仕組みだけでなくメタな仕組みとしてのカルチャーも議論する必要があるでしょう。

     第5は情報科学・技術の進化と社会実装のための連携という課題です。リテラシー=共通基盤の進化に応じて利活用に重点が移行するのは必然でもあります。近年、◯◯インフォマティクスと呼ばれる研究分野が関心を集めているのは、情報のリテラシーが高いレベルで浸透しつつある証です。当会は境界分野・学際的分野で存在感を持つために連携を拡大する必要があります。人工知能学会や電子情報通信学会との連携はまだ身内同士です。より広範囲の連携は情報科学・技術の拡張につながります。さらに社会課題との大きな連携はSDGs(Sustainable Development Goals)に通じると考えています。

     ここでは5つの点に絞りましたが、課題とする点はほかにもたくさんあります。それらすべてに共通の課題は、学会が持つ価値をどう伝えるかということです。これが学会の社会実装における最大の課題かもしれません。