2020年04月06日版:伊藤 智(標準化担当理事)

  • 2020年04月06日版

    「国際標準化の遠隔会議(Virtual meeting)」

    伊藤 智(標準化担当理事)


     新型コロナウィルス感染症により亡くなられた方々のご冥福をお祈りするとともに、ご遺族の方々に謹んでお悔やみを申し上げます。また、感染されてしまった方々には、お見舞い申し上げるとともに一日も早く回復されることをお祈り申し上げます。

     残念なことに東京オリンピックの開催は1年程度延期となってしまいましたが、情報技術の国際標準化団体であるISO/IEC JTC 1においても、今回の感染症拡大の影響は大きく広がっています。3月に開催される国際会議からキャンセルが始まり、本原稿を書いている3月下旬には、6月30日までの対面での会議を開催しない、というトップダウンの決定が下されました。しかし、一方で、標準化活動は各国からの参加者を交えた検討や調整を行わなければ進めることができません。会議を開催できない状況では国際標準化の進行は停止せざるを得なくなります。

     一般の企業においては、今回の対策として、テレワークや遠隔会議の活用が始まっているようです。感染症の拡大が収まった後も、使い勝手の認識が広がり、コスト削減にもつながることが知れ渡れば、遠隔会議の利用はこれまで以上に促進するように思います。

     JTC 1の中では遠隔会議が以前より活用されていました。規格の種となるようなテーマについて調査や分析をするグループ(以前はスタディグループ(SG)と称していたが、現在はアドバイザリーグループ(AG)に改名)、規格の開発を具体的に実施するワーキンググループ(WG)、一時的な作業を実施するアドホックグループ(AHG)では、1回2時間を制限として遠隔会議を行っていました。開催の時刻としては、0500 UTC(1400 日本時間)、1300 UTC(2200日本時間)、2100 UTC(0600日本時間)の3つのタイムスロットが推奨されています。数年前までは欧米にとって比較的開催しやすい1300 UTC(ニューヨーク0900)と2100 UTC(ニューヨーク1700)だけでした。日本にとって通常勤務時間は外れるものの、起きていられる時間ですし、標準化以外の業務ミーティングがセットされにくいのでかえって遠隔会議に参加しやすいという面もあり、日本のメンバとしては、容認してきました。しかし、インドが分科委員会SC 7(Software and systems engineering)の議長になるなど、JTC 1の中でも活動が増えてくると、1300 UTC(インド1830)、2100 UTC(インド0230)だけでは、アジアの国々に不公平ではないかとの意見が強まり、0500 UTCを追加することになりました。

     上記で示したグループの参加者である各国のエキスパートは、国の代表ではなく、その分野の専門家であり、その専門性に基づいて活動しているものです。規格のプロセスを進行する際の決議や投票は分科委員会レベルとなり、国の代表が参加する形となります。この分科委員会レベルの会議はPlenaryと呼ばれますが、Plenaryへの遠隔からの参加は、現状のルールではプレゼンテーションを行う人がスポットで参加する場合に限られています。決議や投票にかかわろうとする国の代表が遠隔から参加することは認められていません。Plenaryでの遠隔参加については、さまざまな試行が行われたり、議論されたりしてきましたが、踏み込んだ活用には至っていませんでした。

     今回の感染症の問題で、対面での会議はキャンセルとなり、標準化の活動を止めないために、遠隔会議が推奨されました。そして、Plenaryを機能させるため、遠隔参加であっても国の代表に決議権を与えることになりました。これまで2時間が遠隔会議の上限でしたが、休憩を挟んで1日に複数回の開催も行われました。対面ならば9時17時で開催している会議を世界中の人が遠隔で継続して参加できるタイムスロットを見出すのは非常に困難であり、遠隔会議によるPlenaryの運用方法には課題があります。これまでなかなか進まなかった遠隔会議の本格運用が、感染症の拡大という世界規模の望ましくない事件によって、進展しています。多くの実績が積み上げられる中でプラクティスが抽出され共有されるとともに、残された課題についても必要に迫られる中で何かしらの解決が図られていくに違いないと期待しています。

     新型コロナウィルス感染症は、早急に収束してほしいですし、新たなパンデミックが発生することは決して起きてほしくないことですが、今回のような危機を契機に、ITを活用してさまざまな活動を継続できるように改革していくことが期待されていると感じました。私自身も、その改革に貢献していきたいと考えています。