2020年06月01日版:中川 八穂子(副会長)

  • 2020年06月01日版

    「コロナ禍転じて福となす」ためには
    中川 八穂子(副会長)

     副会長に就任してから約1年となります。ここ2カ月は私の勤務する会社も学会事務局もテレワークが基本となり、私自身も在宅勤務を続けていて、新型コロナウイルスの社会(特に経済)影響の大きさを実感しています。この「コロナ禍」を転じて福となすために、情報処理学会ひいては情報通信技術(ICT)が何ができるのかを考えてみました。

    ワークスタイル変革withコロナを推進するオンライン自動化技術

     在宅勤務ではご家族の世話で集中が途切れる、阿吽の呼吸で仕事が頼めないので効率が下がるという方もいらっしゃるかと思いますが、ミーティングは下記理由等でむしろオンラインの方がよいという意見も聞かれます。

     たとえば、複数拠点の大人数が集まる会議は、移動時間が不要、また予定終了時刻超過で切断される場合、参加者努力により時間内で終了可なため、オンラインの方が良いという意見です。現に海外企業では同一拠点内であってもオンライン参加が普通でそれが許容されます。

     一方でエッセンシャルワーカといわれる実働が必要な方々も多くいらっしゃいます。たとえばEC(Electronic Commerce)利用増により運搬物が増加している物流関係の方々、患者数が大幅に増加している医療・看護関係の方々です。こういったエッセンシャルワーカのご負担を軽減させるために、法律改正等が必要な場合もありますが、荷物受取用の共用ロッカーや人口過疎地への宅配ドローン、PCR等事前検査可能な施設を各地に増設しオンライン診療で相談する等、設備増強とICT貢献のオンライン化で負荷軽減が可となるケースは多数あるはずです。

    行動を変容させるコミュニケーションに役立つデータ収集分析力

     今回のウイルスは症状がない感染者からも飛沫/接触で感染するため、感染拡大防止には外出自粛など各個人の行動変容が必要です。しかし行動変容には納得性が重要であり、根拠となるデータ収集分析とコミュニケーション力が重要です。感染者数等公表Webから20分ごとにデータ収集し可視化しているJohn Hopkins大のCoronavirus Resource Center☆1は2人の中国人博士課程学生が最初は手作業から始めたそうですが、納得性があります。

     国内では、LINEが厚生労働省と協定を締結して実施した「新型コロナ対策のための全国調査」を4月に2回実施し、LINEユーザ約3割が情報提供に応じましたが、感染拡大の予兆分析に活かせる可能性があります。一方で東京都での感染者数/死亡者数の保健所から都への報告書類が手書きファクス送付であったためカウントミスがあった☆2のは残念ですが、こういった事例がデジタルトランスフォーメーション(DX)推進の起爆剤となることを期待します。

    日本の高度な教育・医療技術を活かしきれていないICTサービス

     日本は教育現場の各先生方の教える技量は高いのですが、教育現場のICT活用度はOECD諸国中で日本は最下位です☆3。ブロードバンド普及率は世界トップクラスなのに、現時点でもオンライン授業ができない学校が多いというのは大変残念なことです。

     日本の新型コロナ感染症死亡率が0.05人/10万人と低い理由は明らかではありませんが、日本の医療技術レベルは高評価であり、がんの5年生存率が高いといわれています。5G普及により遠隔医療が可能になれば、さらに高度技術利用のメリットが出てくると期待されます。

     いずれの現場もメリットは分かっているけれどもスキル不足や投資抑制もありICTサービス導入が遅れてきました。Withコロナで対面感染リスクが高まることから、導入が進み費用対効果が実証できれば、コロナ禍後、教育や医療分野でのICTサービスが進むことが期待されます。

    コロナ禍転じて福となすために学会ができること

     いままで述べてきた通り、コロナ禍を機にDXが進みより良い社会の仕組みができていくことが期待されますが、そのためには現場の方々のICT利活用スキルを高めることも重要です。情報処理学会もICT人材育成用に著作物を解放☆4などの取り組みを始めていますが、継続して貢献するための施策を練っております。会員各位やご家族のご健康を祈念するとともに、この禍を機に社会を良い方向に変えるため情報処理学会が貢献できることについて会員の皆様からもご意見をいただければ幸いです。

    ☆1 https://coronavirus.jhu.edu/
    ☆2 https://www.jiji.com/jc/article?k=2020051100650&g=soc
    ☆3 https://www.nier.go.jp/kokusai/pisa/pdf/2018/06_supple.pdf
    ☆4 https://www.ipsj.or.jp/release/teigen20200410.html