会長挨拶

会長挨拶

徳田英幸 
徳田英幸
情報処理学会会長/情報通信研究機構 (NICT)

<目次>

創立記念日に寄せて

2023年4月22日
 
情報処理学会は、本日、創立63周年を迎えました。
創立記念日を迎えるにあたり、63年前に学会が誕生したころの情報技術の持つ社会的な役割と現在における情報技術の果たす役割は、大きく変わりました。私たちの社会経済活動や日々の生活に欠かせないものであり、社会課題の解決や経済活動を支える上で最も重要な技術の1つとなりました。

最近、人々の利用が増えている自然言語から画像、動画、音楽、ストーリー、プレゼン資料など新しいコンテンツやアイディアを生成してくれる生成型AIサービスの利用が活発です。特に、昨年11月にOpen AI社によって公開されたChatGPTは、自然言語で利用できる高度なAIサービスです。サービス公開後、2カ月という非常に短い期間で世界中のアクティブユーザが1億人に達し、新たな生成型AIブームを起こしています。
 
ChatGPTは、さまざまな目的に使用でき、情報収集、学習支援、会話相手、発想支援、プログラミングやデバッグ支援、自然言語処理、エンタテインメントなど非常に広範囲な応用分野での利用が可能です。基本的には、膨大な言語データを学習させた「生成可能な事前学習済み変換器(GPT : Generative Pretrained Transformer)」に基づくチャットボットであり、人間が自然と感じる回答も生成できるのが特徴です。一見それらしい回答に見えますが、事実とは異なる回答を生成することもあるので、信憑性に関しては注意が必要です。また、入力したテキストは、そのままOpen AI社によって利用されることがあり、個人情報や機密情報の入力には注意が必要です。実際、イタリア政府は、EU一般データ保護規則(GDPR)に違反する疑いがあるとして、使用を(一時)禁止しています。
 
ChatGPTが利用している膨大な言語データを学習させた大規模言語モデルは、従来のチャットボットや翻訳サービスなどで使用されているモデルと一線を画しています。たとえば、従来のGoogle翻訳で「ほんまでっか?」という関西弁を翻訳すると「Really?」ではなく「Really Big?」となってしまいます。一方、ChatGPTに「ほんまでっか?の英訳は?」と尋ねると「ほんまでっか?は、関西地方で使われる方言で、『本当ですか?』という意味があります。英語に直訳すると、"Is it really big?"となりますが、そのままでは意味が通じませんので、『本当ですか?』というようなニュアンスになるように訳すことが一般的です。」ととても丁寧な回答が返ってきます。
 
また、プログラミングコードも大量に学習しているので、C言語で素数を求めるコードやIBM Q用の量子プログラムのコードなども生成してくれます。プログラミング支援ツールとしては、非常に期待できる反面、本会に所属する多くの大学の先生方がプログラミング入門コースの宿題やレポートなどの課題をどのように設定するかで頭を悩ませています。大学によっては、レポート作成には、使用を禁止する措置をとっている例も報告されていますが、インターネット検索エンジンが公開された時と同様、これら新しいツールのメリットやデメリットだけでなく、その限界を正しく理解し、使い倒すスキルセットを身につけることが大切です。
 
これらの応用事例を見るに、シンギュラリティに近づき、汎用人工知能(AGI : Artificial General Intelligence)の出現に一歩近づき、かつその成果がフィードバックされ、研究開発が加速していることが実感できます。一方、ChatGPTは、その能力において弱点があり、ChatGPTに「123123123の文字列の中に12は何回出現しますか?」という質問をすると「文字列 "123123123" の中に "12" は2回出現します。最初の "12" は文字列の先頭から2文字目と3文字目に、2番目の "12" は文字列の4文字目と5文字目に出現します。」と誤った回答をします。さらに繰り返し質問していくと「すでに同様の質問があったため、回答を再利用いたします。」と答えてきます。
 
本会では、2015年情報処理1月号で、レイ・カーツワイル(Ray Kurzweil)氏に代表されるシンギュラリティ論者によって予想されるシンギュラリティに到達する2045年の30年前にちなんで「人類とICTの未来:シンギュラリティまで30年?」という特集号を組んで議論をしていました。私自身も「シンギュラリティをめぐる論点 〜Ray Kurzweil氏との対談を通じて~」*1 という記事を書かせていただきましたが、改めて最近のAI技術の進化が加速している現象を見るに、カーツワイル氏が主張している「収穫加速の法則」の原理を垣間見ているようにもとれます。
 
よりよい未来社会を実現していくためには、本会、そして学会メンバの一人ひとりが、汎用人工知能とどう向きあうか? 人とAIの共生、共創は、どうあるべきか? 社会に必要とされる新しいルールや倫理は、どう構築すべきか? などをあらためて考えていかなければいけないと思いをめぐらしています。


*1 人類とICTの未来:シンギュラリティまで30年?:3.シンギュラリティをめぐる論点 ~Ray Kurzweil氏との対談を通じて~
 http://id.nii.ac.jp/1001/00107440/

Beyond 5GとCPSが拓く未来社会のかたち(2022年10月4日講演ビデオ)

第6回情処ウェビナー「Beyond 5GとCPSが拓く未来社会のかたち」の講演を30分にまとめました。
協力:(株)XYOU ( https://xyou.co.jp/ )

こちらからご覧ください⇒https://youtu.be/dMKZV1p0L20

新年のご挨拶

2023年1月5日
 
新年明けましておめでとうございます。
 
 昨年は、まだ続くコロナ禍に加えて、ロシアによるウクライナへの侵攻があり、国際情勢が激動した年となりました。ロシアによる攻撃により、ウクライナ側のケータイ基地局が破壊され、多くの人々がインターネットへのアクセスができない状況に陥りましたが、ウクライナの副首相がイーロン・マスク氏へTwitter経由でスターリンク社の衛星サービスの利用を要請し、昨年5月時点で15万人以上のユーザがインターネットや行政サービスを続けることが可能となりました。もし、ウクライナからの情報が遮断され、ロシアからの一方的な情報(フェイクニュース等)だけが発信された世界を想像すると、世界の認識は誤ったものになっていたと思います。また、ウクライナの政府機関や銀行へのサイバー攻撃も続いており、サイバー空間内での戦いも続いているのが現状です。
 改めて、自国の情報インフラの堅牢性、強靭化や地上ネットワークだけでなく、非地上系ネットワークの重要性や物理空間における安全保障と同時にサイバー空間における安全保障の重要性を再認識した年となりました。
 
 学会活動においても、行動制限の緩和とともに、ハイブリッド開催の機会が増えるとともに、IPSJバーチャルホールの活用、見逃し配信、懇親会の復活などより豊かなコミュニケーションの場を提供する試みが行われました。恒例のアドバイザリーボードの際には、終了後にリアル参加された方々と会食できたことは貴重な機会でありました。ボードでは、JST-CRDSから木村座長をむかえ、メンバーからはITエンジニア向け活動の強化、広報活動のさらなる強化や非IT部門に対するITリテラシーの底上げ、情報学との関係性、他の国際的な学会との比較、市民社会のエンパワーメント、アカデミック・ロビーに対する透明性の確保、研究開発力の強化など大変貴重なアドバイスを頂きました。学会の持つ社会的役割や情報発信の重要性を再認識するとともに、コロナ禍以降しばらく停止状態にある海外の学会とのリアルな場での連携を再開していかなければならないとの意を強くしました。
 
 また、2年目となった「デジタルの日」に向けては、特設ページの設置や記念イベントなどが各支部の協力により進められ、個人的にも情処ウェビナーに貢献できました。情報教育に関しては、大学入試に教科「情報」を入れるための様々な啓蒙活動だけでなく、多くの関連する提言をタイムリーに発信することができました。また、学会創立60周年宣言「More local and more diverse for global values」に基づき、ダイバーシティ宣言の公表、倫理綱領の改定、全国大会やFITを通じた様々な取り組みが実施されたとともに、地方支部と本部との連携も強化されました。若手研究者の支援やジュニア会員を対象としたイベントが各支部でも活発に実施されました。
 
新しい年を迎え、学術的な深化や研究力の強化、産業界との連携、社会課題の解決を意識しつつ、新しい試みや学会活動/事務のさらなるDXを推進できる年になることを祈念しています。情報分野の進展は、学術的な新しい分野やパラダイムの創出だけでなく、未来社会における日々の生活やあらゆる産業の発展に直結していますので、今後とも学会の活動にご支援、ご協力をお願い申し上げます。
 
最後になりましたが、本年が皆様にとって素晴らしい年となりますように祈念して、年頭の挨拶とさせていただきます。

創立記念日に寄せて

2022年4月22日

情報処理学会は、本日、創立62周年を迎えました。
学会が生まれる1年前の1959年頃には、学会の名称に関していろいろな議論があったようで、当時の様子が情報処理学会創立60周年記念書籍『情報処理技術遺産とパイオニアたち』の和田弘氏のオーラルヒストリーの中で触れられています。当時は、計算機のハードウェアを作る真っ最中であったので、学会名も計算機学会という案があったそうですが、「それなら電気学会と言わなければ発電機学会と言ったらどうだ」*1との意見とともに、「情報処理学会」という名称に収まったそうです。 最初の会員数は300人、記念すべき「情報処理」創刊号は、1960年7月に発刊されています。
 
現在、情報処理学会は、アカデミアと産業界からほぼ半々の約20,000人が所属する情報処理分野における日本最大の学会にまで成長しています。これまでの62年間、いろいろな困難を乗り越え、ここまで学会を成長させ、健全なコミュニティを育ててこられた多くの先人たちにあらためて会員とともに感謝したいと思います。また、1990年頃の全盛期より総会員数は減少したものの、次世代を担う若手を対象としたジュニア会員制度の導入や中高生情報学研究コンテストなどの活性化活動により、ジュニア会員が増加しており、これからのジュニア会員の活躍が期待されます。
 
また、学会を取り巻く社会環境も62年前には想像もつかなかったような大きな変動期にあります。COVID-19によるパンデミックは、学会活動の根幹であった対面での活動をオンラインへと大きくシフトさせ、今後のウィズコロナ・アフターコロナ社会に向けての新しい対応を迫られています。また、直近のロシアによるウクライナ侵攻は、力による一方的な現状変更の試みであるとともに、国際社会の秩序を根底から揺るがす暴挙であり、今後の国際社会の様相を大きく変貌させ、予測することが困難な時代へと向かわせています。ハイブリッド戦におけるAIによるディープフェイク動画やフェイクニュースなど、ますます情報の信憑性が問われています。
 
さて、情報処理に関しては、社会のデジタルトランスフォーメーションが進み、あらゆる分野においてICTの活用による新たな価値創造が実践されつつあります。情報処理のユーザコミュニティに対しては、学会としてまだまだ貢献できる余地があり、新しいサービスの提供などにCMO *2の活躍を期待しています。教育においても2025年より大学入学共通テストへ「情報」が出題されることが決まりましたが、今後とも、学会として情報教育の推進に全面的に協力していきます。行政に関しても、デジタル庁がスタートし、「誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化」の実践にも学会として貢献していきます。情報の技術的な側面だけでなく、情報倫理や制度的な課題に対しても積極的に取り組み、発信していきます。
 
 情報処理の学会として、創立60周年宣言の「More local and more diverse for global values」を実践しつつ、会員相互間および関連学協会との交流を活性化し、会員の皆様とともに魅力ある学会へと発展させていきたいと考えております。
 
今後とも学会の活動にご支援、ご協力をお願い申し上げます。


*1 古機巡礼/二進伝心 : オーラルヒストリー 和田弘氏インタビューより
 http://id.nii.ac.jp/1001/00069850/
*2 Chief Marketing Officerの略:最高マーケティング責任者

新年のご挨拶

2022年1月5日

  新年明けましておめでとうございます。

  昨年は、2020年から続く新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大を防ぐために、人々の働き方は大きく変化し、アナログ・対面からデジタル・リモートへと大きくシフトしました。在宅勤務で使うWeb会議システム、ワクチン接種予約システム、新型コロナウイルス接触確認アプリなどこれまで以上にICTが身近に利用されるようになりました。同時に、既存の就労規則や業務フローの課題、導入されたシステムの使い勝手や相互運用性の悪さといった課題も広く認識され、社会のデジタルトランスフォーメーションがますます重要だと感じさせられた1年であったと思います。

  学会活動においても、昨年6月の総会、9月の理事会、支部長会議、10月のアドバイザリーボードまですべてオンラインで開催し、11月の理事会で初めてハイブリッド開催となり、新しい理事の方々と対面でお会いすることができました。アドバイザリーボードでは、永井良三座長から学会創立60周年宣言の「More local and more diverse for global values」に対して賛同のコメントをいただき、グローカル公共哲学と共通な考え方であり、「一人ひとりが孤立し無縁社会になるのではなく、他者への慈しみや地域社会への貢献を重視する」姿勢が重要であるとのご指摘をいただきました。またボードメンバーからは、情報倫理の問題、社会的なAI活用の問題、フェイクニュースの問題などさまざまな課題についても議論していただきました。学会が、情報の技術的な側面だけでなく、制度的、社会的な課題に対しても積極的に取り組み、発信していかなければならないとの意を強くしました。

  また、昨年10月にはデジタル庁が、「誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化を」をミッションにスタートしました。学会でも、「デジタルの日」に合わせて、「社会全体でデジタルを思い出す・感じる」といった趣旨に沿った記念講演会をIT連盟と共催しました。1回だけのイベントに終わらせることなく、「デジタルの日」のたびに社会のデジタル化を推進し、災害に強いレジリエントなスマートシティやカーボンニュートラルな持続可能社会の発展にも大きく貢献していきたいと思っています。

  学会活動の新陳代謝を測るバロメータの1つに、新しい研究会や研究グループの創設が挙げられますが、昨年は、41研究会(コンピュータサイエンス領域11研究会、情報環境領域16研究会、メディア知能情報領域14研究会)+5研究グループが活動していました。最も若い研究会は、2020年に設置された量子ソフトウェア(QS)研究会ですが、会員の皆様のニーズに合わせて、より容易に議論する場が提供できればと思っています。また、ジュニア会員だけでなく、シルバー世代の方々にも学会での活動にいろいろな形で参加いただければと考えています。

  また、情報教育関連に関しては、大学入試センターが2025年に実施する大学入学共通テストへ「情報」が出題されることが決まりましたが、学会として初等中等教育から大学•大学院までの情報教育にかかわる人々を支援する体制、環境整備を強化してまいります。本年8月には、IFIPのWCCE 2022 (World Conference on Computers in Education)も8月に予定されており、未来を創造していく人たちの教育において情報教育、Computational Thinking、学習/トレーニングのためのデジタルテクノロジーの重要性や課題などが議論されることを期待しています。

  情報処理の学会として、学術的な懐の深さや学際的な広がり、産業界との連携、社会課題の解決を意識しつつ、新しい試みや学会のDXを推進できる年になることを祈念しています。情報分野の進展は、学術的な新しい分野やパラダイムの創出だけでなく、社会のあらゆる産業の発展に直結していますので、今後とも学会の活動にご支援、ご協力をお願い申し上げます。

  最後になりましたが、本年が皆様にとって素晴らしい年となりますように祈念して、年頭の挨拶とさせていただきます。

会長就任にあたって

 

IPSJ2021ニューノーマル時代を切り拓く学会を目指して
—会長就任にあたって—

徳田英幸
情報処理学会会長/情報通信研究機構 (NICT)

 

(「情報処理」Vol.62, No.7, pp.322-324(2021)より) 

 このたび,江村前会長の後を継いで,第31代の会長に就任することとなりました.皆様とともに,本会の活動がより活発に,より価値あるものになるように努力したいと思いますので,どうぞよろしくお願い申し上げます.あらためて,これまで本会のさまざまな活動に多大なご尽力をいただいた,歴代会長,歴代・現在の役員,学生会員を含む会員の皆様,そして事務局の皆様に心から感謝申し上げます.ここでは,以下に述べることを大きな使命として,皆様とともに,ニューノーマル時代に向けて学会を発展させていく所存です.
 

新型コロナウイルス感染症対策とディジタル変革の加速

 昨年(2020年)は,年が明けて間もなく新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的大流行により,未曽有の危機に見舞われました.我が国でも,昨年4月7日に最初の緊急非常事態宣言が発せられ,不要不急の外出自粛,3密(密閉・密集・密接)回避,ソーシャルディスタンスの徹底など,これまでとは異なる生活様式に適応することとなりました.

 この間,リモートワーク,遠隔授業,遠隔医療,行政のオンライン手続きなどが急速に進展した一方,押印処理だけに出社したり,データ収集にFAXが利用されていたなど,データのディジタル化,業務プロセスのディジタル化やデータ連携,共有,流通などのシステム的な課題が数多く露呈しました.

 また,スマートフォンを利用した新型コロナウイルス接触確認アプリCOCOAにおいても,ソフトウェアの不具合に気づかず利用されていたといったソフトウェアのバグがもたらす社会的インパクトの影響なども体験しました.このようなWithコロナ期が長引く中,情報分野に携わる多くの専門家を擁する本会として,COVID-19の感染症対策とともに,社会のディジタル改革(デジタルトランスフォーメーション)を加速することに尽力する必要があります.

学会のディジタル変革

 社会のディジタル変革を推進するとともに,学会活動そのもののディジタル変革を加速する必要があります.昨年の第82回全国大会は,新型コロナウイルス感染症拡大防止のために現地開催を中止し,オンライン開催へとかたちを変えて成功裏に実施されました.多くの方々が移動コストゼロで,オンライン参加可能となったメリットも確認できましたが,参加者たちの懇親の場の減少や参加セッション内のつまみ食(“情報の偏食”)も容易になりました.また,その土地で体験できる食や地元文化に触れられるといった全国大会ならではの“身体性に満ちた体験”の機会を逸しましたし,今後もどのような価値が喪失されたかについては,丁寧な分析が必要です.今年もしばらくは,各種イベントやセミナー等も,感染拡大防止を実践しつつ,どのような開催形式が良いのか,どのように学会の価値向上につなげていくかについて,新しい技術の導入も検討しつつ,ニューノーマルへ向けて試行錯誤を続けていくのが重要な課題です.
 

SDGsを含む社会課題の解決と価値創造

 SDGs(持続可能な開発目標)に掲げられているさまざまな社会課題や地球温暖化の問題に対しても,学会として積極的に貢献していくことが重要です.特に,ICTを使ってのデータに基づく問題解決の方法論は,汎用的に貢献し得る手法の1つです.学会としては,これまで以上に,オープンデータやオープンサイエンスを進めて,他分野のスペシャリスト達と連携し,社会課題の解決に向けて積極的に関与していくべきと考えます.一方,AI, IoT, ビッグデータなどの利活用によって,データセンタでは非常に多くの電力が消費されています.JST(科学技術振興機構)の低炭素社会戦略センターによれば,現在の技術のまま,まったく省エネルギー対策がされないと情報関連だけで,2030年には年間消費電力が42PWhとなり現在の世界全体消費電力の約24PWhを大きく上回るという予測がされています.情報分野でのあらゆる側面からの超低消費電力化に向けた技術革新をリードし,CO2排出量に関して,“Computing and Communication for Carbon Neutral”を達成することも重要な課題の1つです.
 

学界や産業界への貢献と関連団体との連携強化

 本会の持っている大きな強みの1つは,情報学における広い分野をカバーする数多くの研究会で,研究者,技術者,学生が最先端の成果を議論する場を提供するとともに,新しい分野の創出にも貢献している点です.日本の大学の多くは,伝統的にディシプリンごとに学部が設立され,ディシプリンを跨いだトランスディシプリンやインターディシプリンのような研究教育が遅れていたと思います.一方,情報の分野は,メタサイエンスとしての性格を持っており,計算化学,材料情報科学,計算デザイン,計算社会学,計算公共政策学,計算倫理学など,これまでの学問分野との融合を加速し,新しい分野の創出に挑戦していくことが重要です.
 産業界との連携に関しても,本会は,これまでも「CITP認定技術者制度」を開設し,情報技術者のプロフェッショナルとしての能力の認定を進めてきました.今年度(2021年度)からは,IT団体の連合体「一般社団法人 日本IT団体連盟(IT連盟)」との連携が始まりますので,社会で必要とされる情報系のプロフェッショナルコミュニティとの連携を強化し,プロフェッショナルコミュニティのニーズを把握し,学会の魅力が感じられる新しい企画を創出していきます.

若手人材の育成と国際連携の推進

 本会は, 2015年度からジュニア会員制度を開始し,若手人材の育成に積極的に取り組んでいます.ジュニア会員向けの企画の強化もさることながら,学部・大学院レベルの若手研究者・技術者予備軍の方々への支援も強化していくことが重要です.それには,学生時代から国際会議やワークショップでの発表に加えて,海外でのインターンシップや国際会議などのステューデントボランティアの経験などを積める支援なども必要です.また,現役の先生方が欧米やアジアの研究者たちとの共同研究プロジェクトなどを実施し,積極的に若手を起用し,国際的に通用するトップクラスの若手研究者・技術者を持続的に育成していくことを支援することが大切であり,その研究コミュニティを支援する学会の役割は重要です.

 以上,コロナ禍での学会について,さまざまな制限をピンチと考えず,むしろチャンスと捉え,次の60年に向けてディジタル変革を推進すべきと考えます.会員だけの学会でなく,社会の中の学会であり,さまざまなコラボレーションを通じて新しい価値を創出し,社会に還元し,ニューノーマル時代を切り拓いていく所存です.

(2021年4月30日)


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