大学入試センター試験における教科「情報」出題の要望

大学入試センター試験における教科「情報」出題の要望

  このたび本会は,大学入試センター試験における教科「情報」出題の要望(以下)を4月5日付けで独立行政法人大学入試センター理事長宛提出いたしました.

会長  白鳥 則郎


2011年4月5日

独立行政法人 大学入試センター
理事長 吉本高志 殿

大学入試センター試験における教科「情報」出題の要望

 

一般社団法人 情報処理学会
会長 白鳥則郎

私ども情報処理学会は、情報処理分野における日本最大の学会として、わが国の将来にわたる持続的な発展のために、すべての国民を対象とした情報教育の拡充が必須であることを、継続して訴えてきています。その柱の一つが、高等学校における必履修教科である普通教科「情報」(次期学習指導要領では共通教科「情報」)の学習の充実です。

上記の観点から、次期(平成21年度告示)学習指導要領における教科「情報」の2科目「社会と情報」および「情報の科学」を大学入試センター試験の出題科目として頂くことをここに要望致します。

本要望に至る経緯と理由の詳細等については、附記をご参照ください。

附記1: 本要望に至る経緯と理由の詳細

大学入試センター試験は、「大学(短期大学を含む。以下同じ。)に入学を志願する者の高等学校段階における基礎的な学習の達成度を判定することを主たる目的」(文面はセンターWebサイト)とされ、またその目的を果たすために「難問奇問を排除した、良質な問題の確保」(同上)を指針として運営されています。そして、「良質な問題の確保」は、「高等学校等の関係者からも高い評価を受けています」(同上)からも分かるように、センター試験は大学を志願する者への学習到達度の判定に留まらず、高等学校の教育そのものに対して責任ある地位にあるといえます。

ところで、今回の東北地方太平洋沖地震(東北関東大震災)で情報の重要性が多くの地域・分野から報じられたことに象徴されるように、情報に関する適切な理解は広く国民が身につけておくべき基本的素養であり、高等学校の必履修教科として教科「情報」が取り入れられたゆえんであります。さらに、「情報」に関する学習は、高等教育に進む生徒にとっても、社会に出る生徒にとっても、その進路や専門に関わらず、「土台」としての必要性が極めて高い分野であると言えます。

私どもは上記の観点から、2002年8月に貴センター宛に、また2002年9月に日本ソフトウェア科学会と共同で国立大学協会宛に、教科「情報」をセンター試験の出題科目とすべきであるという意見と要望を提出して来ました。

これに対し、2003年6月の段階で貴センターでは「高等学校における教育の実態等を十分に踏まえる必要があるため、出題の可能性について引き続き検討することとし、平成18年度から当分の間は出題の対象としない」こととされましたが、これは現行指導要領には「情報の科学的な理解」と「情報社会に参画する態度」に関する内容が極めて少ない科目「情報A」が選択必履修に含まれ、なおかつこの科目で全時間のうち1/2以上を実習にあてることとなっていたことが大きな要因であったものと理解されます。

然るに、次期(平成21年度告示)学習指導要領では、「義務教育段階において情報手段の活用経験が浅い生徒の履修を想定して設置した『情報A』については発展的に解消」(文面は学習指導要領解説・情報編による)され、「情報」の他の科目にもあった実習時間の制約に関する記述も廃止されました。このことは、次期学習指導要領における「情報」の教科内容(「社会と情報」「情報の科学」2科目から選択必履修)が、全ての高校生に対して、高等教育に進むにあたっての土台としてふさわしい体裁と学習内容を備えるに至ったことを意味します。

具体的には、「社会と情報」「情報の科学」どちらを選択した場合でも含まれる項目のうち、とくに重要と思われるものに、下記のものがあります。

  • コンピュータにおける情報の扱い、ネットワークの原理と仕組み
  • ネットワーク上のコミュニケーションとモラル、セキュリティ
  • 社会における情報システムの役割や仕組みと安全性
  • 問題解決のプロセスと共同作業および情報手段の活用

これらの事項を含む教科「情報」の内容について、貴センターが基礎的な学習の達成度を判定する手段を提供され、高等教育に進む上での基本的な水準を示されることは、私どもの強く望むところであるのみならず、貴センターの社会的役割にかなったことであるものと、固く信じるところです。

附記2 OECDにおける「キー・コンピテンシー」と教科「情報」の関連

今回の指導要領改訂においても参考にされた、OECDのキーコンピテンシーにおいて重要と評価されている「社会・文化的、技術的ツールを相互作用的に活用する能力」、特に、「知識や情報を活用する能力」「テクノロジーを活用する能力」は、教科「情報」を中心とする情報教育の目指すところと重複するところが多いと考えられます。この点からしましても、教科「情報」を通じた「情報の科学的な理解」「情報社会に参画する態度」の教育拡充は急務であり、これに掛かる貴センターの責務は重大であると考えます。

以上