富田 悦次 君

2019年度功績賞受賞者の紹介

富田 悦次 君 (とみた えつじ)

富田 悦次

 本会正会員富田悦次君(フェロー)は,永年にわたりオートマトン・言語理論,学習理論,組合せ最適化などの分野において研究と教育に携わり,先駆的で優れた業績を挙げられました.
 まず同君は,決定性文脈自由言語の等価性判定問題に対し,統一的でまったく新たなアルゴリズムを考案され,合わせて,国際的にも早い段階から計算論的学習理論の新方式を提唱されました.教科書『オートマトン・言語理論』(森北出版)は初版から改訂第二版にわたって計30増刷を重ね,当分野の教育に多大の寄与をされました.また組合せ最適化問題の中では,人と人とのつながりに代表されるような大規模なネットワークデータの解析において本質的な役割を果たす,クリークと呼ばれるグラフ構造に非常に早い段階から注目し,クリーク抽出に関する研究を永年にわたり先導してきました.中でも,極大クリーク全列挙のために考案した最適アルゴリズムは,アルゴリズム分野にとどまらず,幅広い分野から活用,引用され,世界的に高く評価されています.最大クリーク抽出問題についてもいくつかの高速アルゴリズムを次々と開発し,それらは多くの引用をされ,同問題の近年発展の国際的中心の一つとなっています.これらのアルゴリズムは,共同研究として多くの応用にも巧みに活かされています.
 以上に関連したいくつかの国際会議では,実行委員長,プログラム委員長,大会委員長,招待基調講演などを務められています.
上記の卓越した研究業績に対しては,船井情報科学振興賞(2003 年),電子情報通信学会フェロー(2003 年),および本会フェロー(2003 年度),などを授与されています.また極大クリーク全列挙論文は,理論計算機科学の著名論文誌であるTheoretical Computer Science から2005 〜2010 年最多被引用論文賞(2010 年)を受賞し,重ねて同誌の創刊40 周年に際しては,出版年(2006 年)論文中の最多被引用論文表彰(2015 年)も受けています.なお,同論文のGoogle Scholar 上引用文献数は700 件超であり,出版後10 数年でのこの値は理論計算機科学分野においては非常に高く,さらに現在も増加を続けています.
 本会においては,会誌編集委員会主査(基礎・理論分野,1982 年度~ 1983 年度),数理モデル化と問題解決研究会主査(1999 年度~ 2000 年度),コンピュータサイエンス領域委員会委員長(2003 年度~ 2005 年度),理事(教育/調査研究担当,2005 年度~ 2006年度)などを歴任され,特に若手研究者の育成,情報教育の充実に努められました.
 以上のように,同君が,国内外の情報科学分野,ならびに本会の活動の発展に尽くした功績は,まことに顕著であります.