「情報処理学会論文誌」査読制度の改善のお知らせ

「情報処理学会論文誌」査読制度の改善のお知らせ

論文誌編集委員会


 投稿者サービスの向上と、より大局的観点からの査読を目指して、査読制度が大きく改善されます。

 論文誌編集委員会では、論文誌の改善に関し、「査読の質の向上」、「投稿者へのサービスの改善」、「創造的研究の奨励」の3つの課題にまとめて、この1年余りの間、議論を重ねてまいりました。同時にアンケート調査も実施し、問題の所在を明らかにしました。
 近年、研究者が多忙となり、査読報告がかなり簡素になっていることが気になります。また、編集委員会では、査読結果に対して疑問を感じることもたまに起きています。評価基準に関しても、論文としての体裁や、成果の評価が完備か否かの議論が、アイデアの素晴らしさ、波及効果の大きさの議論に先行する傾向も見うけられるように思います。社会では価値の多様化が益々進み、インターネット上では多様なアイデアが次々と生まれ、多くの人々により試され育てられています。どのような論文が掲載され、どのような論文がリジェクトされるかは、単に論文誌の品位と権威の問題ではなく、若い研究者の生き様にも影響を及ぼし、次世代の教育や社会の繁栄にも影響を及ぼすことになります。
 論文投稿を一層促し、質の高い論文を集め、論文誌を情報処理分野における基幹論文誌として一層育てるには投稿者に対するサービスの改善が重要です。中でも査読期間の短縮がもっとも重要です。特に、査読辞退の続出や、判定が割れて第3査読者にまわることによって査読期間が長くなるケースを改善する必要があります。素晴らしいアイデアを、たとえそれがまだ萌芽的であって、十分に評価できる段階でなくとも、勇気をもって取り上げ、奨励することは大変難しいことです。しかし、それを行わないと、学会の指導力や競争力が急速に低下するでしょう。

 以上の問題を解決するには、査読制度の見直しと、査読基準の見直しが必要ですが、後者は価値観に関する問題であり、慎重な扱いが必要なことから、平成8年度は査読制度の見直しによって、以上の課題に関する改善を試みました。その結果、編集委員にメタレビューアの役割を果たしていただく改善策をまとめ、平成9年8月1日以降の受理論文から新制度を適用することにいたしました。
新査読制度の詳細は次号に公示されますが、投稿者から見た場合、以下のような点が改善されます。
(1)査読者の選定に関して担当編集委員が責任を持って当たりますので、査読辞退が生じた場合も速やかに対応することができます。
(2)2人の査読者の他に、担当編集委員も投稿論文を査読します。担当編集委員は査読者の報告に疑問があるときには個別に意見を求めることができ、これに基づき総合的に判断した結論を編集委員会に報告します。査読者の誤解や、判断基準のばらつきがこれにより改善され、より大局的な観点からの評価が行われることになります。査読の督促は事務局と担当編集委員の両者によって行われます。
(3)担当編集委員が判断に窮する場合には第2担当編集委員を選び、2人で査読者の意見を尊重しながら迅速に判定を下します。この際に重ねて著者への照会を行うことはありません。従来のように、第3査読者を立てることがありませんので査読期間が短縮されます。
(4)査読プロセスにおける各種連絡には電子メイルを活用し、連絡の迅速化に努めます。
査読制度の改善に加えて、以下のサービスも実施します。
(5)査読の進捗状況をウェブで公開し、投稿者へのサービスの向上を図ります。
(6)12月の編集委員会を1日に設定し、学位審査の手続きに間に合うようにします。
(7)学会がウェブ公開している掲載論文の抄録から著者のホームページへのリンクの設定サービスも既に開始しています。
論文誌編集委員会では、情報処理学会論文誌が情報処理分野における基幹論文誌として益々発展することを願って、今後も会員の皆様の意見を取り入れ一層の改善を図っていきます。

会員の皆様の投稿をお待ちしております。

以上
(学会誌38巻5号(1997年5月号)会告より抜粋)