教育ビジョン2011「誰もが情報技術に主体的に向き合う社会の実現をめざして」

教育ビジョン2011「誰もが情報技術に主体的に向き合う社会の実現をめざして」

2011年12月27日
一般社団法人 情報処理学会

本ビジョンは、情報処理学会がこれから教育に取り組んでいく際の基本的な考え方を宣言するものです。

2011年は、科学技術の使用に対して大いなる警告がなされた年となりました。3月11日の大震災は、科学技術を社会に適用する際には、これまで以上にさまざまな視点から問題を認識し、その解決を図っていく必要があることを明らかにしました。特に、これからは、誰もが専門家と手を携えつつも「科学技術に主体的に向き合う」こと、具体的には、科学技術がどのような利便性をもたらしリスクを伴うかを考えた上で、何を社会に取り入れ何を取り入れないでおくかを判断していくことが、求められると考えられます。

同じことが、情報技術にもあてはまり、それが社会に及ぼす影響もまた、極めて重大なものであり得ます。これまで情報処理学会は、専門家集団として情報技術そのものの研究・開発に注力しつつ、その結果を社会に適用することを推進してきました。その結果、情報技術が社会基盤として普及し、われわれの生活に欠かせないものとなりました。一方、その進歩のスピードがあまりにも速いために、多くの人は、世の流れに任せ、やむを得ず、よく分からないまま、情報技術を使っている状況も明らかになってきています。これにより、情報技術の持つ力を十分に活かせていないのみならず、そのリスクが十分に管理されておらず、自らの利益を損なったり、他人に迷惑や損害を与えたりすることが現実に起きています。

このような状況を打破し、情報技術がすべての人に恩恵をもたらすような情報社会に到達するためには、技術者・研究者による「知識の発展・集積」だけでは不十分であり、加えて、誰もが「情報技術に主体的に向き合う」こと、すなわち、情報や情報技術がどのようなものであり、その利用が社会にどのような利便性やリスクをもたらすかを考え判断した上で、情報技術を取り入れ利用していくことが必要であり、それを実現する手段は各自の「学び」と、それを促す「教育」をおいて他にありません。情報処理学会は専門家集団としてあらためて「教育」に注力し、このことを最大限にサポートしていく必要があります。

以上を踏まえて、情報処理学会は、次の目標を掲げます。

目標: 誰もが主体的に情報技術に向き合う社会を実現する

前述したように、「主体的に情報技術に向き合う」とは、「情報や情報技術がどのようなものであり、その利用が社会にどのような利便性やリスクをもたらすかを考え判断した上で、情報技術を取り入れ利用していく」ことを意味します。これは、情報技術を「世の流れに任せ、やむを得ず、よく分からないまま」使っている、という現状に対する反省から必然的に導かれたものです。

ただし、このことは「ソフトウェアの使い方や具体的な情報技術について、これまで以上に学んで欲しい」という意味ではありません。既に現在の教育課程において、必要以上に多くの時間が「ソフトウェアの操作方法を教える」ことに割かれているのが現状です。われわれはこの時間を、より根本的な「情報や情報技術の本質」を学ぶ時間に振り向けることで、児童・生徒・学生の意識や考え方をより望ましい方向に向かわせ、「主体的に情報技術に向き合う社会」を実現できると考えます。

またその実現も、「誰かに頼む」のではなく、われわれが専門家集団として先頭に立って「学ぶのに適した教材・教具や教育方法」の開発に注力するとともに、教育そのものについては、これに取り組む人や他組織と協働し、その活動を直接的にサポートしていく所存です。

われわれは、本目標に向けた学会と学会員の活動の指針を、次の3つとします。
  • 情報および情報技術に関わる研究開発において、「誰もが主体的に情報技術に向き合う社会」の実現に向けて努めるとともに、それに向けての人材育成と研鑽の推進に努めます。
     
  • 情報および情報技術の分野を目指す学生の教育において、「誰もが主体的に情報技術に向き合う社会の実現」を目指し、他分野の人と協働していける力の育成に努め、またそのような活動の推進に努めます。
     
  • 「誰もが主体的に情報技術に向き合う」ことを可能とするために、情報および情報技術について広く社会に説明するよう努めるとともに、教育に携わる諸部門とのさまざまな形での協働の推進に努めます。
     
 「誰もが主体的に情報技術に向き合う社会」を実現することは、もちろん容易ではありません。私たち会員すべてが、専門とする分野・方面の違いに関わらず、等しく努力を重ねて行かなければなりませんし、同時に、情報や情報技術と人間や社会との関係に関心を持つ人やコミュニティとのさまざまな協働が行えてはじめて、この目標に向かって進んで行けると考えています。

本目標に向けての、会員各位ならびに関係各位のご理解とご協力をお願い申し上げます。