会長挨拶

会長挨拶

徳田英幸 
徳田英幸
情報処理学会会長/情報通信研究機構 (NICT)

<目次>

会長就任にあたって

 

IPSJ2021ニューノーマル時代を切り拓く学会を目指して
—会長就任にあたって—

徳田英幸
情報処理学会会長/情報通信研究機構 (NICT)

 

(「情報処理」Vol.62, No.7, pp.322-324(2021)より) 

 このたび,江村前会長の後を継いで,第31代の会長に就任することとなりました.皆様とともに,本会の活動がより活発に,より価値あるものになるように努力したいと思いますので,どうぞよろしくお願い申し上げます.あらためて,これまで本会のさまざまな活動に多大なご尽力をいただいた,歴代会長,歴代・現在の役員,学生会員を含む会員の皆様,そして事務局の皆様に心から感謝申し上げます.ここでは,以下に述べることを大きな使命として,皆様とともに,ニューノーマル時代に向けて学会を発展させていく所存です.
 

新型コロナウイルス感染症対策とディジタル変革の加速

 昨年(2020年)は,年が明けて間もなく新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的大流行により,未曽有の危機に見舞われました.我が国でも,昨年4月7日に最初の緊急非常事態宣言が発せられ,不要不急の外出自粛,3密(密閉・密集・密接)回避,ソーシャルディスタンスの徹底など,これまでとは異なる生活様式に適応することとなりました.

 この間,リモートワーク,遠隔授業,遠隔医療,行政のオンライン手続きなどが急速に進展した一方,押印処理だけに出社したり,データ収集にFAXが利用されていたなど,データのディジタル化,業務プロセスのディジタル化やデータ連携,共有,流通などのシステム的な課題が数多く露呈しました.

 また,スマートフォンを利用した新型コロナウイルス接触確認アプリCOCOAにおいても,ソフトウェアの不具合に気づかず利用されていたといったソフトウェアのバグがもたらす社会的インパクトの影響なども体験しました.このようなWithコロナ期が長引く中,情報分野に携わる多くの専門家を擁する本会として,COVID-19の感染症対策とともに,社会のディジタル改革(デジタルトランスフォーメーション)を加速することに尽力する必要があります.

学会のディジタル変革

 社会のディジタル変革を推進するとともに,学会活動そのもののディジタル変革を加速する必要があります.昨年の第82回全国大会は,新型コロナウイルス感染症拡大防止のために現地開催を中止し,オンライン開催へとかたちを変えて成功裏に実施されました.多くの方々が移動コストゼロで,オンライン参加可能となったメリットも確認できましたが,参加者たちの懇親の場の減少や参加セッション内のつまみ食(“情報の偏食”)も容易になりました.また,その土地で体験できる食や地元文化に触れられるといった全国大会ならではの“身体性に満ちた体験”の機会を逸しましたし,今後もどのような価値が喪失されたかについては,丁寧な分析が必要です.今年もしばらくは,各種イベントやセミナー等も,感染拡大防止を実践しつつ,どのような開催形式が良いのか,どのように学会の価値向上につなげていくかについて,新しい技術の導入も検討しつつ,ニューノーマルへ向けて試行錯誤を続けていくのが重要な課題です.
 

SDGsを含む社会課題の解決と価値創造

 SDGs(持続可能な開発目標)に掲げられているさまざまな社会課題や地球温暖化の問題に対しても,学会として積極的に貢献していくことが重要です.特に,ICTを使ってのデータに基づく問題解決の方法論は,汎用的に貢献し得る手法の1つです.学会としては,これまで以上に,オープンデータやオープンサイエンスを進めて,他分野のスペシャリスト達と連携し,社会課題の解決に向けて積極的に関与していくべきと考えます.一方,AI, IoT, ビッグデータなどの利活用によって,データセンタでは非常に多くの電力が消費されています.JST(科学技術振興機構)の低炭素社会戦略センターによれば,現在の技術のまま,まったく省エネルギー対策がされないと情報関連だけで,2030年には年間消費電力が42PWhとなり現在の世界全体消費電力の約24PWhを大きく上回るという予測がされています.情報分野でのあらゆる側面からの超低消費電力化に向けた技術革新をリードし,CO2排出量に関して,“Computing and Communication for Carbon Neutral”を達成することも重要な課題の1つです.
 

学界や産業界への貢献と関連団体との連携強化

 本会の持っている大きな強みの1つは,情報学における広い分野をカバーする数多くの研究会で,研究者,技術者,学生が最先端の成果を議論する場を提供するとともに,新しい分野の創出にも貢献している点です.日本の大学の多くは,伝統的にディシプリンごとに学部が設立され,ディシプリンを跨いだトランスディシプリンやインターディシプリンのような研究教育が遅れていたと思います.一方,情報の分野は,メタサイエンスとしての性格を持っており,計算化学,材料情報科学,計算デザイン,計算社会学,計算公共政策学,計算倫理学など,これまでの学問分野との融合を加速し,新しい分野の創出に挑戦していくことが重要です.
 産業界との連携に関しても,本会は,これまでも「CITP認定技術者制度」を開設し,情報技術者のプロフェッショナルとしての能力の認定を進めてきました.今年度(2021年度)からは,IT団体の連合体「一般社団法人 日本IT団体連盟(IT連盟)」との連携が始まりますので,社会で必要とされる情報系のプロフェッショナルコミュニティとの連携を強化し,プロフェッショナルコミュニティのニーズを把握し,学会の魅力が感じられる新しい企画を創出していきます.

若手人材の育成と国際連携の推進

 本会は, 2015年度からジュニア会員制度を開始し,若手人材の育成に積極的に取り組んでいます.ジュニア会員向けの企画の強化もさることながら,学部・大学院レベルの若手研究者・技術者予備軍の方々への支援も強化していくことが重要です.それには,学生時代から国際会議やワークショップでの発表に加えて,海外でのインターンシップや国際会議などのステューデントボランティアの経験などを積める支援なども必要です.また,現役の先生方が欧米やアジアの研究者たちとの共同研究プロジェクトなどを実施し,積極的に若手を起用し,国際的に通用するトップクラスの若手研究者・技術者を持続的に育成していくことを支援することが大切であり,その研究コミュニティを支援する学会の役割は重要です.

 以上,コロナ禍での学会について,さまざまな制限をピンチと考えず,むしろチャンスと捉え,次の60年に向けてディジタル変革を推進すべきと考えます.会員だけの学会でなく,社会の中の学会であり,さまざまなコラボレーションを通じて新しい価値を創出し,社会に還元し,ニューノーマル時代を切り拓いていく所存です.

(2021年4月30日)


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