2010年度長尾真記念特別賞

2010年度長尾真記念特別賞の表彰


越前  功 君(正会員)

「アナログホール問題を克服する不正コピー防止技術の研究」

1995年東京工業大学理学部応用物理学科卒業.1997年東京工業大学大学院理工学研究科応用物理学専攻修士課程修了.同年日立製作所入社,システム開発研究所 研究員を経て,2007年より国立情報学研究所コンテンツ科学研究系准教授.同年,総合研究大学院大学複合科学研究科情報学専攻准教授を兼務.2010年4月よりドイツ・フライブルグ大学 計算機科学・社会情報学研究所 客員教授.コンテンツセキュリティの教育研究に従事.2005年情報処理学会論文賞,2006年IEEE IIHMSP Best paper award,2008年電子情報通信学会ISS活動功労賞,2010年映像情報メディア学会藤尾フロンティア賞,2010年画像電子学会画像電子技術賞,2011年IFIP SEC 2010 One of the best papers等受賞.博士(工学)(東京工業大学).

[推薦理由]
情報漏えい防止やコンテンツの著作権保護のために,暗号を用いた不正コピー防止技術が広く利用されているが,デジタル情報を一旦アナログ変換することで,暗号を無効化するアナログホール問題が指摘されている.越前 功君は,この問題を克服する不正コピー防止技術の研究に取り組み,学術と産業応用の両面から顕著な業績を上げてきた.日立製作所では,映像アナログ出力や印刷物を経由した不正コピーを検知する電子透かしの研究に取り組み,優れた学術成果を上げるとともに実用化した.国立情報学研究所に着任後は,既存のビデオカメラに新たな機能を追加することなく,盗撮映像に直接ノイズを混入させる映像盗撮防止技術を世界で初めて確立した.このような優れた業績は,本賞を贈るにふさわしいものである.

 

杉山  将 君(正会員)

「確率密度比に基づく新たな機械学習パラダイムの創生」

1997年東京工業大学工学部情報工学科卒業.1999年同大学大学院情報理工学研究科計算工学専攻修士課程修了.2001年同博士課程修了.博士(工学).2001年より同大学助手,2003年より同大学助教授(2007年より准教授に改称),2003-04年アレキサンダー・フォン・フンボルト財団特別研究員としてドイツ・フラウンホーファー研究所に滞在.2006年欧州委員会エラスムス・ムンダス特別研究員として英国・エディンバラ大学に滞在.2007年非定常環境下での機械学習の研究に対してIBM Faculty Awardを受賞.情報処理学会,電子情報通信学会,日本神経回路学会,人工知能学会,IEEEの各会員.

[推薦理由]
データの背後に潜むデータ生成過程を確率分布としてモデル化する統計的機械学習において,処理すべきデータの著しい高次元化・複雑化に伴い,確率分布を直接推定することが困難であった.杉山将君はこの課題解決に対し,「確率密度比推定」を土台とする独創的な機械学習パラダイムを提唱し,密度比推定アルゴリズムの開発,密度比推定の数理的性質の解明,さらに,密度比に基づく様々な機械学習問題での有効性の実証研究を行ってきた.これらの成果は国内外で高く評価されており,本賞を贈るのにふさわしいものである.

 

山下 直美 君(正会員)

「協調支援システムのユーザビリティ評価手法の確立」

1999年京都大学工学部情報学科卒業, 同大学情報学研究科数理工学専攻修士課程修了.同年より日本電信電話株式会社入社,コミュニケーション科学基礎研究所研究員.2006年京都大学情報学研究科社会情報学専攻博士後期課程修了.博士(情報学).協調作業支援(CSCW)やヒューマンコンピュータインタラクション(HCI)の研究に従事.

[推薦理由]
高度な情報技術が身近に利用可能になる一方で,ユーザビリティの低さゆえ有効活用されないものが多い.高度な情報技術を有効活用できるようにするためには,ユーザに対する理解を深め,ユーザビリティを向上させることが重要である.山下直美君は,協調支援システムのユーザビリティ評価において,定量評価と定性評価を融合した複合的評価手法を確立し,この手法を様々なシステムに適用することによって単に工学的な性能を高めるだけでは解決できない問題を指摘し,改善案を提示してきた.一連の研究成果は国内外で高く評価されるとともに,実用面においても高い評価を受けており,本賞を贈るのにふさわしいものである.