2021年度受賞者

2021年度コンピュータサイエンス領域功績賞受賞者

コンピュータサイエンス(CS)領域功績賞は,本領域の研究会分野において,優秀な研究・技術開発,人材育成,および研究会・研究会運営に貢献したなど,顕著な功績のあったものに贈呈されます.本賞の選考は,CS領域功績賞表彰規程およびCS領域功績賞受賞者選定手続に基づき,本領域委員会が選定委員会となって行います.本年度は9研究会の主査から推薦された下記9件の功績に対し,本領域委員会(2021年10月7日)で慎重な審議を行い決定しました.各研究発表会およびシンポジウムの席上で表彰状,盾が授与されます.

中野 美由紀  君 (データベースシステム研究会)
[推薦理由]
 本会正会員中野美由紀君(フェロー)は,我が国のデータベース分野に対して,大学における研究開発及び学会運営を通じて長年に渡って貢献されてきた.
 1980年代後半から関係データベース問合せ処理の高速化および並列処理技法に関する研究に携わり,ハッシュに基づく並列関係データベース処理の研究を中心に,並列計算機環境における大規模関係データベース・システムの高性能化,高機能化技法の先駆的な研究を行い,VLDBやICDEなどのトップ会議を含む世界的な学術的成果を挙げている.
 また,本会50周年記念大会では組織委員会副委員長として企画運営を,技術応用/国際担当理事としてセミナー推進委員会を立ち上げ,事業担当理事として本会60周年記念全国大会を運営し,日本データベース学会理事として表彰および男女共同参画・ハラスメント防止を担当する等,学会活動にも多大な貢献が認められる.
 このように,中野美由紀君は,我が国のデータベースコミュニティの興隆に極めて顕著な貢献をされており,CS領域功績賞に相応しい人物として推薦する.
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井上 克郎 君 (ソフトウェア工学研究会)
[推薦理由]
 井上 克郎氏(本会フェロー)は,「文部科学省 成長分野を支える情報技術人材 の育成拠点の形成事業(enPiT)」の推進を通じて我が国のソフトウェア工学を 含む高度IT分野の人材育成,ならびに,その教育の実施や普及といったFD側面で の多大な効果も生み出し,その発展を長年にわたり主導してきた.この功績によ り,ソフトウェア工学研究会では,同氏をコンピュータサイエンス領域功績賞受 賞者に推薦する.
 enPiTは,情報技術を高度に活用して社会の具体的な課題を解決できる人材の育 成機能を強化するため,産学協働の実践教育ネットワークを形成し,課題解決型 学習(PBL)などの実践的な教育を推進し広く全国に普及することを目的とした 事業である.同氏は2012-2016年度に,ビッグデータ・AI,セキュリティ,組込 みシステム,ビジネスシステムの全4分野における大学院生向けの高度IT人材の 育成を進めるenPiT事業の全体統括を務めた.加えて同氏は2016-2020年度に,学 部生向けのenPiT2事業の全体統括を務め,運営拠点の互いの連携を促進し,教育 ネットワークを形成することで裾野の広がりある人材育成を推進してきた.
 同氏は,長年のenPiT/enPiT2事業の統括と推進を通じて,大学・企業界の協力体 制のもとで推進されるリアリティの高い講義や演習など,特色あるプログラムを 通じて実社会においてイノベーションを起こすことができる人材輩出に顕著に貢 献した.加えてその推進にあたり,全国規模の産学官のネットワークを構築し, ソフトウェア工学を含む高度IT分野の人材育成上の知見の蓄積と共有,ならびに それらを通じた組織横断の教育方法の向上(FD)と教育者の成長・発展を推進し た点は特筆に値する.同氏の主導により得られた当該事業の成果は,事業期間終 了後に各分野・大学における人材育成の展開の重要な基盤を提供している.以上より,同氏によるソフトウェア工学研究会ならびにソフトウェア工学を含む 高度IT分野に対する貢献は極めて大きく,CS領域功績賞受賞候補として推薦するものである.
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田中 美帆 君 (システム・アーキテクチャ研究会)
[推薦理由]
 被推薦者である田中美帆氏は,2018〜2019年度にシステム・アーキテクチャ研究会の幹事を務め,当研究会の活性化に大いに貢献した.特に,産業界の立場から各種イベント企画や研究会活性化に尽力し,産業界と学術界の架け橋となった.従来にはない新しい視点でのコミュニティ多様性の拡大や,若手研究者・学生のエンカレッジに貢献した功績は極めて大きい.このような活動はコミュニティの拡大およびプレゼンス向上に大きく寄与するものである.以上のように,同氏によるシステム・アーキテクチャ研究会ならびにアーキテクチャ分野に対する貢献は極めて大きく,CS 領域功績賞受賞候補として推薦するものである.
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廣津 登志夫 君 (システムソフトウェアとオペレーティング・システム研究会)
[推薦理由]
 廣津登志夫氏は,2004〜2007年度にシステムソフトウェアとオペレーティング・ システム研究会の幹事を,2015〜2016年度には主査を努め,当研究会の運営に大 きく貢献した.また,当研究会が編集責任研究会の一つとして編集,運営に関 わっている情報処理学会論文誌コンピューティングシステム (ACS) の編集委員 を2005〜2008年度および2011〜2014年度に務め,編集副委員長を2009〜2010年 度,また2021年度からは編集委員長を務めており,当研究会の活動に貢献してき た.さらに特筆すべきは,質の高い査読プロセスを実現するためにACSが用いて いる独自開発の査読システムを,2008年から現在に至るまで長年に渡り管理運用 する責にあたり,研究会活動を支えてきたことである.このように,廣津氏によ るシステムソフトウェアとオペレーティング・システム研究会ならびにコン ピューティングシステム分野における貢献は極めて大きいため,CS領域功績賞受 賞者としてふさわしいと考え,ここに推薦する.
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佐々木 通 君 (システムとLSIの設計技術研究会)
[推薦理由]
 佐々木氏は2019年度のSLDM研究会運営委員会の幹事を務められ,円滑な研究会運営に大きく貢献された.また,2017年度から2018年度の2年間においてはSLDM研究会が主催するフラッグシップシンポジウムであるDAシンポジウムの実行委員を務められた.加えてSLDM研究会が発行する論文誌IPSJ Transactions on System LSI Design Methodologyの2019年度の副編集委員長を務められた.上記のように,佐々木は研究会の運営やイベントの開催など,多方面にて近年のSLDM研究会に多大な貢献をされており,SLDM研究会は佐々木氏をCS領域功績賞の候補者としてふさわしい者として推薦いたします.
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須田 礼仁 君 (ハイパフォーマンスコンピューティング研究会)
[推薦理由]
 須田礼仁君は, 数値解析や高性能計算の分野で優れた研究を行ってきた.特に,球面調和関数等の特殊関数の高速数値計算法は計算科学や数値解析分野への貢献が大きい.また,プログラムの自動チューニング技術における数理的なアプローチは当該分野における先駆的な研究として高く評価されている.東京大学,名古屋大学では,多数の学生の研究指導を行い,CS領域における人材育成への貢献も大きい.こうした研究業績に加え,須田君は情報処理学会ハイパフォーマンスコンピューティング研究会主査,同論文誌コンピューティングシステム編集委員長,同ハイパフォーマンスコンピューティングと計算科学シンポジウム実行委員長などを歴任し,CS領域の発展に顕著な貢献を行ってきた.これらの多年にわたる須田君のCS領域への貢献を評価し,同君をCS領域功績賞に推薦する.
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萩谷 昌己 君 (プログラミング研究会)
[推薦理由]
 萩谷昌己氏はプログラミング研究会初代主査を務められ,研究会の発足およびその形式の確立に多大な貢献をされました. 1995年に発足したプログラミング研究会は,1970年代より存在した「記号処理研究会」と,「ソフトウェア基礎論研究会」および「記号処理研究会」が統合されて1991年に発足した「プログラミング─言語・基礎・実践─研究会」の二つの研究会が,研究発表分野の重複を解消するために統合され発足した研究会です. プログラミングに関連する分野を広くカバーする研究会であり,現在もほぼ同じ形で継承されている特徴的な発表形式は,発足当時の議論をもとに確立されました. 萩谷氏は,プログラミング研究会発足後においても,研究会の存在意義やあるべき姿についてメーリングリストで問いかけを行い,議論に議論を重ねて現在の研究会の形態に至ったという経緯があります.
 プログラミング研究会の主催する研究発表会においては,前身の一つである記号処理研究会の伝統を継承した「発表25分質疑討論20分」という形式は現在もなお引き継がれでおり,十分な研究討論を行う場が提供されています. また,もう一つの前身であるプログラミング─言語・基礎・実践─研究会の伝統を継承し,他研究会との共催(現在のSWoPP)やシンポジウム(現在のFITやxSIGなど)にも共同主催を行ってきました.これらの伝統の継承は,初代主査である氏の先導した議論によって確立されたという功績から,萩谷昌己氏をコンピュータサイエンス領域功績賞に推薦いたします.
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渡辺 治 君 (アルゴリズム研究会)
[推薦理由]
 業績「日本におけるアルゴリズム,計算理論の研究の推進と教育」
 渡辺氏は,計算量理論分野における日本の第一人者であり,本学会からは1990年にベストオーサー賞,2009年にフェローを受賞されている.
 アルゴリズムと計算理論の研究分野への貢献としては,グローバルCOEプログラム「計算世界観の深化と展開」,新学術領域研究「多面的アプローチの統合による計算限界の解明」等の代表を務め,研究分野の発展に貢献された.また,教育では,高校生を対象としたスパコンでのプログラミングコンテスト等,スパコンの普及にも貢献されている.さらに,欧州理論計算機学会(EATCS) 日本支部会長や情報オリンピック日本委員会理事などを歴任するとともに,計算理論の国際雑誌 Theoretical Computer Science や Theory of Computing Systems などの編集委員を務めるなど日本におけるアルゴリズム,計算理論の研究の推進と教育に尽力した.
 以上のように,渡辺氏の日本におけるアルゴリズム,計算理論の研究の推進と教育への貢献は高く,CS領域功績賞に値すると考え,推薦いたします.
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北 栄輔 君 (数理モデル化と問題解決研究会)
[推薦理由]
 北 栄輔氏は,これまでICT農業,機械学習(ベイジアンネットワーク,深層学習),交通シミュレーション(隊列走行,交通渋滞,ロボット),ナチュラルコンピューティング(進化的計算,セル・オートマトン, Grammatical Evolution, PSO),人工市場シミュレーション,応用数学(有限要素法,境界要素法,Trefftz法)など幅広い分野で研究を行い,後進の指導を行われてきました.これらの功績はOutstanding Presentation Award, 32th JSST Annual Conference (JSST2013),2010年度電子情報通信学会CSTソリューションコンペティション最優秀賞,2010年度CSTソリューションコンペティション最優秀賞,
 2009年度情報処理学会コンピュータサイエンス領域奨励賞,2007年度情報処理学会コンピュータサイエンス領域奨励賞を受賞,FANインテリジェント・システム・シンポジウムでプレゼンテーション賞の受賞に結びついている.国際的にも,同氏はThe Second International Conference on Soft Computing Technology in Civil, Structural and Environmental Engineering Program comittee,International Symposium on Computing and Networking, 1st International Workshop on Applications and Fundamentals of Cellular Automata Scientific advisory,The 17th Asia Pacific Symposium on Intelligent and Evolutionary Systems Scientific advisory,1st International Conference on Data Management and Security Applications in Medicine, Sciences and Engineering Program comittee 等,当該分野の国際的な活動に携わってきた.
 また,同君は情報処理学会数理モデル化と問題解決研究会 主査を4年間勤め,この間,20回の研究会を開催,このうち4回は Int'l Conf on Parallel and Distributed Processing Techniques and Applicationsの中でMPSセッションとして開催するなど,研究会の国際化にも努めており,研究会への貢献も極めて大きい.このように,同君の果たした.また,情報処理学会トランザクション数理モデル化と応用(TOM)の編集長を4年間務めた.貢献は極めて大きく,CS領域功績賞受賞候補者として推薦するものである.
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