2017年度詳細

2017年度(平成29年度)山下記念研究賞詳細

  山下記念研究賞は,研究賞として本学会の研究会および研究会主催シンポジウムにおける研究発表のうちから特に優秀な論文を選び,その発表者に 贈られていたものですが,故山下英男先生のご遺族から学会にご寄贈いただいた資金を活用するため,平成6年度から研究賞を充実させ,山下記念研究賞としたものです.受賞者は該当論文の登壇発表者である本学会の会員で,年齢制限はありません.本賞の選考は,表彰規程,山下記念研究賞受賞候補者選定手続および 山下記念研究賞推薦内規に基づき,各領域委員会が選定委員会となって行います.本年度は36研究会の主査から推薦された計51編の優れた論文に対し,慎重な審議を行い,決定されたうえで,理事会(2017年8月)および調査研究運営委員会に報告されたものです.本年度の下記受賞者には,3月13日に早稲田大学で開催される第80回全国大会の席上で表彰状,賞牌,賞金が授与されます.

<コンピュータサイエンス領域>
DBS SE ARC OS SLDM HPC PRO AL MPS EMB

<情報環境領域>
DPS HCI CG IS AVM GN DC MBL CSEC UBI IOT SPT CDS DCC ASD

<メディア知能情報領域>
NL ICS CVIM CE CH MUS SLP GI EC BIO CLE

コンピュータサイエンス領域

●コンテンツの人気度を考慮したN次創作活動のモデル化
[2016-DBS-163(2016/9/13)](データベースシステム研究会)
tsukuda

佃 洸摂  君 (正会員)

2010年3月 京都大学工学部情報学科 卒業.
2011年9月 京都大学大学院情報学研究科社会情報学専攻 博士前期課程 修了.
2014年9月 京都大学大学院情報学研究科社会情報学専攻 博士後期課程 修了.博士(情報学).
2014年10月 京都大学大学院情報学研究科社会情報学専攻 日本学術振興会特別研究員(PD).
2015年4月 産業技術総合研究所情報技術研究部門 研究員.現在に至る.
特に音楽,ユーザ生成コンテンツに関する情報検索,情報推薦,データマイニングの研究に従事.
2010年度コンピュータサイエンス領域奨励賞受賞.2010年度「未踏IT人材発掘・育成事業」スーパークリエータ認定.

[推薦理由] 本論文では,人々のコンテンツ創作活動のモデル化に取り組んでいる.本研究の独創的な点は,N次創作活動と呼ばれる,あるコンテンツを基に新たな派生コンテンツを創作し,さらにそれが次のコンテンツに派生していくという,近年のオンラインコミュニティを特徴づける創作活動を研究対象としている点にある.また,提案モデルを実データに適用することで,コンテンツの特性やその時間的推移などがN次創作活動に与える影響を分析しており,コミュニティにおける創作活動の分析という点でも有用な知見を示している.今後は,さまざまなオンラインコミュニティにおけるN次創作活動の分析への展開が期待される.以上より,山下記念研究賞にふさわしい論文として推薦する.
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●クラウド環境におけるデータベースライブマイグレーションミドルウェア
[Webとデータベースに関するフォーラム(WebDB Forum 2016)(2016/9/14)](データベースシステム研究会)
mishima

三島 健  君 (正会員)

1971年生.
1994年 筑波大学情報学類 卒業.
1996年 同大大学院 修士課程 修了.
同年 NTT 入社.
2010年 東京大学大学院 博士過程 修了.博士(工学).
2010年 上林奨励賞授賞.日本データベース学会会員

[推薦理由] 本論文では,クラウド上にあるデータベース(DB)の負荷分散手法が示されている.近年,DBサーバが一つのクラウド(仮想マシン)上に複数存在することは珍しくなくなっている.このときに,あるDBのアクセス負荷が増大した際,別のDBのパフォーマンスに悪影響を及ぼすことが問題となる.本研究の特徴は,トランザクション理論に基づいて,DBを停止させることなく,また,矛盾なく,他のクラウドに移動させる方法を理論的に導いていることにある.実験によっても,その有効性を検証している.提案手法は既存のDBMS(データベース管理システム)を改変する必要がないという点において極めて実用性が高く,独創的である.よって,山下記念研究賞にふさわしい論文として推薦する.
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●編集スクリプトへのコピーアンドペースト操作の導入によるコード差分の理解向上の試み
[ソフトウェアエンジニアリングシンポジウム(SES2016)(2016/9/1)](ソフトウェア工学研究会)
higo

肥後 芳樹  君 (正会員)

2006年 大阪大学大学院情報科学研究科 博士後期課程修了.博士(情報科学).
2007年 同助教.
2015年 同准教授.
ソースコード分析,特にコードクローン分析,リファクタリング支援,ソフトウェアリポジトリマイニング,自動プログラム修正に関する研究に従事.

[推薦理由] ソースコードのレビューや版管理システムにおける競合の解消においては,過去に行われた変更を理解する必要がある.このため,2つの版のソースコードの抽象構文木から,版間に行われた編集スクリプトを効率的に自動抽出する手法が,以前から提案されている.しかしながら,既存手法では,コピーアンドペースト操作を考慮しておらず,抽出された編集スクリプトは人間にとって理解しやすいとはいえなかった.本研究では,クローン解析により,過去のコピーアンドペースト操作を推測することで,人間の理解コストの削減に結びつく,より短い編集スクリプトの抽出に成功している.提案手法は洗練されており,また実験によりその有用性が確認されている.以上より,山下記念研究賞にふさわしい論文である.
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●ソフトウェア保守のためのデータアクセス可視化技術の検討
[ソフトウェアエンジニアリングシンポジウム(SES2016)(2016/9/2)](ソフトウェア工学研究会)
yano

矢野 啓介  君 (正会員)

1996年 北海道大学工学部情報工学科 卒業.
1998年 北海道大学大学院工学研究科システム情報工学専攻 修士課程修了.
1998年 (株)富士通研究所 入社.
以来,企業間電子商取引,業務プロセス管理,ソフトウェア分析・可視化等の研究開発に従事.

[推薦理由] ソフトウェア保守において,ソフトウェアシステムを構成するプログラムをクラスタに分割する手法が有効である.本研究では,従来のようにプログラム内に存在する依存関係だけでなく,プログラムとデータの依存関係を同時に扱うクラスタリング手法を提案している.また,分割されたプログラム断片から,各データがどのように利用されているのかを示す指標を提案し,その値に基づくデータアクセスを3次元モデルで可視化している.さらに,提案手法を実際に企業で運用されている業務システムに適用した事例が示されている.実際の業務での利用を強く意識して構築されたソフトウェアクラスタリング手法は興味深く,ソフトウェア保守への効果的な適用が期待できる.以上より,山下記念研究賞にふさわしい論文である.
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●電力性能効率に優れた二値化ディープニューラルネットワークの FPGA 実装
[2017-ARC-224(2017/1/24)](システム・アーキテクチャ研究会)
yonekawa

米川 晴義  君 (学生会員)

2016年 東京工業大学工学部情報工学科 卒業.
2016年 東京工業大学工学院情報通信系 入学.
ニューラルネットワークに関する研究に従事.
IEEE,情報処理学会学生会員.

[推薦理由] 二値化ディープニューラルネットワークを組込み機器,特に FPGA に 実現する際認識精度を維持するためにバッチ正規化を実現する必要があったが,追加ハードウェアと処理速度低下が生じていた.本論文は,二値化の活性化関数が活性・非活性の2状態であり浮動小数点精度の活性化関数とは異なる点に着目し,バッチ正規化と等価な処理をバイアス項で実現する方法を提案した.提案手法をFPGA に実装し,二値化ディープニューラルネットワークを認識精度劣化を数%に抑えつつ,GPU, CPU よりも高速かつ低消費電力であることを確認している.実用的に有用な提案,および実証を行っている点を高く評価し,本論文を山下記念研究賞に推薦する.
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●自然エネルギーによる低電力リコンフィギュアラブルアクセラレータの動作
[2017-ARC-224(2017/1/25)](システム・アーキテクチャ研究会)
azegami

畔上 佳太 君 (学生会員)

2017年3月 慶應義塾大学理工学部情報工学科 卒業.
2017年4月 慶應義塾大学大学院理工学研究科開放環境科学専攻 博士前期課程 進学.

[推薦理由] 本発表は,太陽電池によりアクセラレータを動作させるという独創性の高い研究に関するものである.アクセラレータに適用できる電力や性能を求めるモデル式は,太陽電池の内部抵抗の影響でそのまま使用することができなかった.このモデル式を内部抵抗の影響を内包するように拡張し,そこから使用するアクセラレータの性能を算出した.実際のチップを計測した結果とそのモデル式から得られた結果とを照合することによって,特に太陽電池に与えられる照度が小さい場合にモデル式が適用可能であることを示した.今後はマイクロコントローラに対してそのモデル式の適用を試みるなどの発展的な研究が期待され,山下賞の受賞にふさわしいものとして推薦する.
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●リソース分離アーキテクチャのためのアクセラレータミドルウェアVictreamの提案
[2016-OS-138(2016/8/8)](システムソフトウェアとオペレーティング・システム研究会)
suzuki

鈴木 順 君 (正会員)

2003年 東京大学工学部電子工学科 卒業.
2005年 東京大学大学院工学系研究科電子工学専攻 修士課程 修了.
2005年 NEC入社.
2012年-2013年 カリフォルニア大学バークレー校 客員研究員.
現在 NEC システムプラットフォーム研究所 主任,東京大学大学院情報理工学系研究科電子情報学専攻 博士課程 在学中.
情報処理学会会員.

[推薦理由] 大規模データ処理の際には演算子がDAG構造を取る.DAGにおける物理レベル最適化としてGPUへのオフロードは有効なアプローチだが,GPUへの転送コストが性能劣化要因になる.本研究で提案しているVictreamはデータに属性を付与することにより物理レベル最適化を透過的に実現するフレームワークを設定し,その上で貪欲法とI/OスケジューリングによりGPUへの転送コストを削減した.実験結果は従来手法に比べて145%の性能改善を示した.データ処理基盤はデータに溢れる現代において不可欠な基盤システムであり,先進的ハードウェアを活用した最適化は現代のホットトピックである.このように重要課題に時宜を得た方針で切り込んだ本研究は,山下記念研究賞に相応しいと判断し,ここに推薦する.
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●順序回路の時間展開を用いた前方順序的クロックゲーティングの自動挿入について
[DAシンポジウム2016(2016/9/15)](システムとLSIの設計技術研究会)
kimura

木村 晋二  君 (シニア会員)

1985年 京都大学大学院工学研究科 博士課程 退学.
1985年 神戸大学工学部 助手.
1993年 奈良先端科学技術大学院大学 准教授.
2002年 早稲田大学大学院情報生産システム研究科 教授.
現在に至る.工学博士.
VLSI 設計最適化および検証の研究に従事.
情報処理学会,電子情報通信学会,IEEE,ACM各会員.

[推薦理由] 本論文は,過去の信号を制御信号として用いる前方順序的クロックゲーティングを自動挿入する手法を提案している.具体的には,レジスタの現在の値と新しい値の排他的論理和を更新条件として候補を判定する手法を時間展開された回路に用いることで,過去の信号を含めて最適な制御信号を選ぶ手法である.この手法により,過去の信号候補と共に,これまで発見できなかった現在の信号も候補として発見でき,クロックの停止確率の最適化が実現できている.これらの結果は,LSIにおける低消費電力動作の根幹を与えるものであり,非常に有意義なものである.また,論文構成,及び,発表内容も非常に優れていた.以上より,本論文を山下記念研究賞受賞論文として強く推薦するものである.
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●ネットの特徴量を用いた多層ニューラルネットワークによるハードウェアトロイ識別
[2017-SLDM-179(2017/3/9)](システムとLSIの設計技術研究会)
hasegawa

長谷川 健人  君 (学生会員)

2016年3月 早稲田大学基幹理工学部情報理工学科 卒業.
2017年3月 早稲田大学基幹理工学研究科情報理工・情報通信専攻 修士課程 修了.
2017年4月 早稲田大学基幹理工学研究科情報理工・情報通信専攻 博士後期課程 進学.
現在に至る.

[推薦理由] 本論文は,ゲートレベルネットリストに対し,機械学習を用いてハードウェアトロイを構成するネット(トロイネット)とそうでないネットとに分類する手法を提案する.11種類の特徴を各ネットから抽出し,多層ニューラルネットワークを用いて機械学習することで,ネットがトロイネットか否かを分類する.その結果,既存手法よりも高い判定率を実現できており,非常に有意義なものである.また,論文構成,及び,発表内容も非常に優れていた.以上より,本論文を山下記念研究賞受賞論文として強く推薦するものである.
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●Flashを用いたOut-of-coreステンシル計算のための最適ブロッキングパラメタ自動チューニングシステム
[2016-HPC-155(2016/8/10)](ハイパフォーマンスコンピューティング研究会)
midorikawa

緑川 博子  君 (正会員)

慶応義塾大学工学部電気工学科(藤岡知夫レーザ研究室)卒業.
日本電気(株) 中央研究所 (C&Cシステム研究所 パターン認識研究部など)を経て
成蹊大学工学部経営工学科 助手.
2009年 筑波大学大学院システム情報工学研究科コンピュータサイエンス専攻 博士後期課程修了,博士(工学)取得.
2010年より 成蹊大学理工学部情報科学科 助教.
現在は,クラスタコンピューティング,ソフトウエア分散共有メモリ,並列処理アプリケーションインターフェース(API),ユーザレベル遠隔メモリページング,分散大容量仮想メモリ,不揮発性メモリ利用による大規模データの高性能計算などの研究に従事.

[推薦理由] 本研究は,Out-of-coreとなるような規模のステンシル計算にflash SDDを利用して計算を行う際に,flashとDRAM間のデータ転送量を最小にするブロッキングパラメタの最適値を動的に決めるシステムを提案したものであり,ユーザの計算機環境に応じたシステム性能を引き出すことを可能にしたものである.計算サーバのメモリ容量が不足する場合に有効な手段であると考えられ,ハイパフォーマンスコンピューティング分野の研究開発のひとつの方向性を示すものとして重要な成果である.このため,山下記念研究賞にふさわしい研究発表として推薦する.
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●直接天然水冷コンピュータへの第一歩
[2017-HPC-158(2017/3/8)](ハイパフォーマンスコンピューティング研究会)
fujiwara

藤原 一毅  君 (正会員)

2002年 東京工業大学工学部制御システム工学科 卒業.
2004年 東京工業大学大学院理工学研究科機械制御システム専攻 修了.
2004年~2008年 株式会社日立製作所情報制御システム事業部.
2012年 総合研究大学院大学複合科学研究科情報学専攻 修了.博士(情報学).
2012年 国立情報学研究所アーキテクチャ科学研究系 特任研究員.
2014年 同 特任助教.
2015年 同 特任准教授.
2016年~現在 情報通信研究機構ユニバーサルコミュニケーション研究所 主任 研究員.

[推薦理由] 本研究は,スーパーコンピュータで問題となっている冷却問題に対し,自然環境中の水を冷媒かつ冷熱源として用いることにより,冷却に係るエネルギーをゼロにすることをめざし,天然水冷コンピュータシステムの試作機を製作し,実験により概念実証を行ったものである. 近年のスーパーコンピュータは,電力や熱に対する問題が顕在化しており,提案されたシステムは,今後のハイパフォーマンスコンピューティング分野の研究開発のひとつの方向性を示すものとして重要な成果である.このため,山下記念研究賞にふさわしい研究発表として推薦する.
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●Concurrent Program Logic for Relaxed Memory Consistency Models with Dependencies across Loop Iterations
[(2016/6/9)](プログラミング研究会)
abe

安部 達也  君 (正会員)

2002年3月 京都大学理学部 卒業.
2007年9月 東京大学情報理工学系研究科 退学.
2007年10月 産業技術総合研究所システム検証研究センター テクニカルスタッフ.
2008年4月 産業技術総合研究所システム検証研究センター 特別研究員.
2009年4月 京都大学学術情報メディアセンター 特定助教.
2011年4月 理化学研究所計算科学研究機構 特別研究員.
2013年4月 理化学研究所計算科学研究機構 研究員.
2015年11月 千葉工業大学人工知能・ソフトウェア技術研究センター 上席研究員,現在に至る.
プログラミング言語の理論と実装,プログラム検証の研究に従事.情報処理学会,ACM,日本ソフトウェア科学会各会員.博士(情報理工学).

[推薦理由] 本論文は,relaxed memory consistencyモデルのもとで動作する並行プログラムを検証できる並行プログラム論理を提案するものである.提案手法は,命令間の依存関係を表によって簡潔に表現していること,ループ間の依存関係の取り扱いを可能にしていることなどが特徴的である.スーパーコンピュータ向けのプログラミング言語の設計を理論面で支援するなど,提案手法の今後の展開が大いに期待できる.以上の理由により本論文を推薦する.

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●グラフ部分構造列挙のためのゼロサプレス型項分岐決定図の効率的な構築法
[2016-AL-159(2016/9/23)](アルゴリズム研究会)
nishino

西野 正彬  君 (正会員)

2008年3月 京都大学大学院情報学研究科知能情報学専攻 修士課程 修了.
2008年4月 日本電信電話株式会社入社.NTTサイバーソリューション研究所配属.
2014年9月 京都大学大学院情報学研究科知能情報学専攻 博士後期課程 修了.博士(情報学).
現在,NTTコミュニケーション科学基礎研究所 研究主任.
アルゴリズム,自然言語処理に関する研究に従事.

[推薦理由] 本研究では,グラフ部分構造の集合を表現するゼロサプレス型項分岐決定図 (Zero-suppressed Sentential Decision Diagrams, ZSDD) を高速に構築する方法を提案している.ここで,グラフ部分構造は,マッチングや点素パスの集合などの,特定の性質を満たす辺の集合のことを表している.また,ZSDD は近年提案された集合族を表現するためのデータ構造であり,その簡潔な表現により様々な演算の効率的な実行を可能としている.本研究では,ZSDD の高速な構築法を提案するとともに,グラフの Branch Decomposition から ZSDD の頂点数が見積れることを示しており,ZSDD の活用に大きな貢献を与えている.以上の理由により,山下記念研究賞にふさわしいものとして本研究を推薦する.
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●Memoryとフェロモンに関するルールの改良を行ったMAX-MIN Ant System with Memory
[2016-MPS-111(2016/12/12)](数理モデル化と問題解決研究会)
isozaki

磯崎 敬志  君 (正会員)

2015年3月 東京都市大学知識工学部経営システム工学科 卒業.
2017年2月 情報処理学会MPS研究会ベストプレゼンテーション賞 受賞.
2017年3月 情報処理学会第79回全国大会学生奨励賞 受賞.
2017年3月 東京都市大学大学院工学研究科システム情報工学専攻修士課程 修了.
2017年4月 富士通株式会社 入社.
現在に至る.

[推薦理由] 本研究論文は,進化計算分野における,新たなアントコロニー最適化 (ACO) 技法を提案し,その有効性を確認した.ACO技法はアリの採餌行動をモデル化したメタヒューリスティクスであり,最適化問題の近似解を求めることが可能であり,本研究で用いたMAX - MIN Ant System (MMAS) は高い精度で近似解を求めるが可能である.その一方で,MMASを用いたACO技法は収束が遅いなどの欠点がある.本研究では,MMASに解状態を記憶させるMemory機構等を改良し,新たなアルゴリズムとして提案している.性能評価実験で提案手法は従来手法とくらべて,解の精度と収束能力の両方が向上したことが確認されており,今後の更なる発展が期待できる.また MPS 研究会会員に対しても,改良手法の着眼点や方法論に対しても影響を与えることが予想される.以上の理由により山下記念研究賞に推薦するものである.
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●制御性能要求情報に基づいたエンジン制御ソフトの並列性向上手法
[組込みシステムシンポジウム(ESS2016)(2016/10/22)](組込みシステム研究会)
fukuda

福田 毅  君 (正会員)

2007年 九州大学理学部物理学科 卒業.
2009年 九州大学大学院理学府基礎粒子系科学専攻 博士前期過程 修了.
同年 株式会社日立製作所 入社.現在に至る.

[推薦理由] 本論文はマルチコアプロセッサによるエンジン制御ソフトウェアの性能向上手法を提案した.提案手法ではコア間通信データを分類し,一貫性や同時性,遅延などの要求に基づき不要なコア間同期を行わないことで,複数のタスク間で複雑なデータ依存関係を持つ制御ソフトの性能向上を行う.また,提案法を用いて既存のエンジン制御ソフトウェアの分析を行い,従来プログラム解析で除去できない不要な同期処理の多くが不要であることを確認し,またシミュレーションにより並列動作を確認している.これらの結果は性能向上が必要とされるエンジン制御システムにおけるマルチコア化,並列化技術の向上に重要であることから本論文を山下記念研究賞に推薦する.
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情報環境領域

●仮想化された機器監視アプリケーションの計測時刻の誤差推定手法
[2017-DPS-170(2017/3/2)](マルチメディア通信と分散処理研究会)
kaneko

金子 雄  君 (正会員)

2003年3月 大阪大学工学部電子情報エネルギー工学科 卒業.
2005年3月 大阪大学大学院情報科学研究科 博士前期課程 修了.
同年 株式会社東芝入社.
2015年4月 大阪大学大学院情報科学研究科 博士後期課程に社会人博士として入学.
社会インフラ・産業システムに関する研究開発に従事.

[推薦理由] 本発表では,遠隔ビル管理システムにおいて,ネットワークを介して機器の状態を計測するクローラのソフトウェアを,計算機の仮想化によって実行した場合の課題を解決するために,物理マシンとクローラとVMの動作のモデル化を行い,シミュレーションによって計測時刻の誤差を推定する手法を提案し,基礎的な実機評価の結果と比較している.今後の発展が期待できる実用性の高い研究である.以上より本論文を山下記念研究賞に推薦する.
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●ボロノイ図を用いた移動センサノードのための巡回経路探索アルゴリズムの提案
[2017-DPS-170(2017/3/3)](マルチメディア通信と分散処理研究会)
yamamoto

山本 眞也  君 (正会員)

2009年3月 奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科 後期課程 修了.博士(工学).
2009年4月 山口東京理科大学工学部電気工学科 助教.
2015年4月 同 講師.現在に至る.
ユビキタスシステム,ワイヤレスセンサネットワーク,分散仮想環境に関する研究に従事.
情報処理学会,ACM 各会員.

[推薦理由] 本発表では,スマートホームやスマートオフィスなどの間取り図と,そこに固定配置されたセンサの数と配置が既知である環境において,移動センサノードを用いて,固定配置されたセンサだけでは観測できないことをセンシングすること想定し,複数のタスクを一つの移動ノードに集約して,一度の巡回で複数のタスクを解決できるように効率化したシステムを提案し,さらに,間取り図やセンサ配置図から生成したボロノイ図によって効率的な巡回経路を決定するための経路探索アルゴリズムを提案している.今後の発展が期待できる実用性の高い研究である.以上より本論文を山下記念研究賞に推薦する.
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●導電繊維編み込み手袋を用いた指の曲げ計測手法
[2017-HCI-171(2017/1/24)](ヒューマンコンピュータインタラクション研究会)
takada

高田 崚介  君 (学生会員)

1993年 兵庫県生まれ.
2013年 神戸市立工業高等専門学校電子工学科 卒業.
2015年 同校専攻科電気電子工学専攻 修了.
2017年 筑波大学大学院システム情報工学研究科コンピュータサイエンス専攻 博士前期課程 修了.
同年 同大学大学院 博士後期課程に進学.現在に至る.
2016年 ヒューマンインタフェース学会 学術奨励賞 受賞.
2017年 HCI研究会貢献賞,学生奨励賞受賞.IPA 2017年度未踏事業 採択.
情報処理学会,ヒューマンインタフェース学会 各学生会員.

[推薦理由] グローブ型の指の曲げ計測手法に関して,導電繊維編み込み手袋を用いた新たな計測方法を提案しており,実験を通してその実現性を示している.導電性の物体を持った場合の測定精度に疑問は残るが,利用状況を限定すれば軽量で可搬性の高いという意味で本提案手法の価値があると考える.また同時に,計測手法の発展性を示しており,追加実験等を行うことで,学術界への貢献はさらに大きくなると見込める.
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●連結した直線経路をステアリングする動作の分析とモデル化
[インタラクション2017(2017/3/2)](ヒューマンコンピュータインタラクション研究会)
yamanaka

山中 祥太  君 (正会員)

2011年 明治大学理工学部情報科学科 卒業.
2013年 明治大学大学院理工学研究科 博士前期課程 修了.
2015年 日本学術振興会特別研究員DC2.
2016年 明治大学大学院理工学研究科 博士後期課程修了.博士(工学).
同年より,日本学術振興会特別研究員PD(明治大学総合数理学部).
2017年 ヤフー株式会社に入社.データ&サイエンスソリューション統括本部 Yahoo! JAPAN研究所にて主任研究員,現在に至る.主にユーザインタフェースに関する研究に従事.

[推薦理由] イラストレーションソフトのラッソ操作(投げ縄ツールのような自由選択操作)などで必要となる,連結経路を通過するタスクにおける操作性能を検証するために,ステアリングの法則をモデル化し,さらに3つの実験を行っている.その結果,ユーザの挙動変化は,経路の連結点を通過するよりもかなり前に決められてることを示すとともに,経路全体の通過時間を高精度に予測できることを示した.問題設定の明快さ,直感にあった現象のモデル化,十分練られた実験内容,結果の面白さ,調査結果の限界も明確に示されているなどの点から,新規性・有用性ともに高く評価された.
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●折りたたみ可能な切開辺を含む立体形状の設計
[Visual Computing / グラフィクスとCAD合同シンポジウム2016(2016/6/18)](コンピュータグラフィックスとビジュアル情報学研究会)
kase

加瀬 悠人  君 (正会員)

1990年生.
2014年 筑波大学情報学群情報科学類 卒業.
2016年 筑波大学大学院システム情報工学研究科コンピュータサイエンス専攻 博士前期課程 修了.
同年,ミズノ(株)入社,現在に至る.

[推薦理由] 本研究では,折りたたみと展開が可能な切開辺を含む立体形状の設計を支援する手法を提案し,アプリケーションの出力結果から実際に折りたたみ可能な立体形状を作成している.立体形状の天頂面と底面,および断面を構成する折れ線を入力して多面体を生成し,側面を構成する断面線を修正することにより,不使用時に小さく収納した状態を瞬時に大きく広げることが可能な立体形状の設計手法を提案している.これはCGのモデリング技術を実物体の機能拡張に応用する技術であり,今後の発展と波及効果が大いに認められる.研究会運営委員内で昨年度の優秀研究発表賞に選ばれた全発表に対して厳正な審査と投票を実施し,上記の研究発表を本研究賞への推薦対象として最も適格であると判断した.
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●熊本地震における避難所の同定手法の提案とそれを用いた支援政策に関する研究
[2017-IS-139(2017/3/3)](情報システムと社会環境研究会)
 

舩越 康希  君 (正会員)

2015年3月 京都大学文学部 卒業.
2017年3月 京都大学大学院情報学研究科社会情報学専攻 前期博士課程 修了.
2017年4月 西日本電信電話株式会社 入社.
現在に至る.

[推薦理由] 地震災害時などにおいて,行政が把握していない「指定外避難所」を同定し,支援格差を解消することが求められる.本報告では,熊本地震をケースとして,携帯電話の位置データから,500㎡のメッシュでの人口の「異常な増加」を手がかりに推定する方法を提案し,現地調査やSNSデータによって推定結果の裏付けを取った.さらに,メッシュ別の人口動態データからの検討,地理的特性からの避難所の可能性の推定などと合わせて,推定精度を上げる工夫をした.今後想定される大規模災害時における避難のあり方の多様性を考えるとき,車中泊も含めた指定外避難所を同定する本手法は非常に有効である.報告書の書きぶりも,論旨が整理されていてよかった.
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●画素毎の動き推定に基づく時間外挿フレームを用いた複数参照フレーム動き補償予測
[2016-AVM-95(2016/12/9)](オーディオビジュアル複合情報処理研究会)
kameda

亀田 裕介 君 (正会員)

2006年 千葉大学工学部情報画像工学科 卒業.
2009年 日本学術振興会特別研究員DC2.
2010年 チェコ工科大学電気工学部 Center for Machine Perception, Research Visitor.
2012年 千葉大学大学院融合科学研究科情報科学専攻 修了.博士(工学).
2012年 民間企業 博士エンジニア.
2013年 東京理科大学理工学部電気電子情報工学科 助教,17年より講師.
映像の高能率符号化および動き推定に関する研究に従事.
映像情報メディア学会第47回鈴木記念奨励賞,電子情報通信学会第79回学術奨励賞等受賞.

[推薦理由] 本論文は,映像符号化の効率向上に寄与する新しい動き補償を提案しており,理論に基づき手法を導出し,評価実験による基本特性を解析している.オプティカルフローに基づき外挿フレームを生成する際の最適化を工夫して,符号化器と復号器で同じ画像を生成可能とし,最適化パラメータを伝送するのみの少ない符号量で画素単位の微細な動きを表現する動き補償を実現した.実験により符号化効率が良いことも示されている.国際標準H.265を超える符号化方式の研究が進められるなど映像符号化の向上が望まれている背景のもと,本論文の成果は,飛躍的な同分野の進歩を導くことが期待されることから,山下記念研究賞に相応しい論文として推薦する.
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●調理履歴に基づくユーザのレシピ選択モデルの提案
[マルチメディア,分散,協調とモバイルシンポジウム(DICOMO2016)(2016/7/7)](グループウェアとネットワークサービス研究会)
yamamoto

山本 修平  君 (正会員)

2012年3月 筑波大学情報学群知識情報・図書館学類 卒業.
2014年3月 筑波大学大学院図書館情報メディア研究科 博士前期課程 修了.
2015年4月 日本学術振興会特別研究員(DC2).
2016年3月 筑波大学大学院図書館情報メディア研究科 博士後期課程 修了.博士(情報学).
2017年4月 筑波大学 図書館情報メディア系 特別研究員.日本学術振興会 特別研究員(PD).
2017年10月 NTT入社.NTTサービスエボリューション研究所配属.現在に至る.
Webデータ、時空間データマイニングに関する研究に従事.

[推薦理由] 本論文は,ユーザの連続するレシピの調理過程を考慮したレシピ推薦を目的に,ユーザのレシピ選択行動を複数の観点の組み合わせとしてモデル化すると共に,ユーザの過去の調理経験から次回に選択するレシピの推定手法を提案した.提案手法は,ユーザが観点を切り替える頻度をユーザ毎にパラメータとして推定し,確率的にコントロールする.そして,実際の調理履歴を用いた評価実験では,単一の観点からのレシピ推定に比べ,複数の観点を組み合わせたレシピ推定が高い精度を得られることを示した.以上のことから,本研究は,ユーザへの連続的な情報推薦の研究の発展に大きく貢献していることから,山下記念研究賞にふさわしい論文として推薦する.
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●ISO22320に基づく組織の危機対応力の可視化と考察
[2017-GN-101(2017/3/11)](グループウェアとネットワークサービス研究会)
kokogawa

爰川 知宏  君 (正会員)

1993年 大阪大学大学院基礎工学研究科 博士前期課程 修了.
同年 日本電信電話株式会社 入社.
現在,NTTセキュアプラットフォーム研究所 主任研究員.
情報共有,公共サービス基盤,危機管理に関する研究開発に従事.
2013年 和歌山大学大学院システム工学研究科 博士後期課程 修了.
博士(工学).
情報処理学会,IEEE各会員.一般社団法人レジリエンス協会 幹事.

[推薦理由] 本研究は,組織の危機対応力の総合評価を行うために,危機対応の国際標準であるISO22320に基づき,その要求仕様を分解するとともに再構築してチェックリスト化し,それを様々な組織に適用して各組織の危機対応力の現状と特徴を明らかにしたものである.従来は組織ごとにバラバラで,経験に依存していた危機対応を,国際標準による共通の尺度で定量化し,組織間や立場の違いによる差異を可視化することで,自組織の危機対応力の強みや弱みの理解を深めることができる.危機対応の標準の普及を進め,あらゆる組織での危機対応力の向上に資する,きわめて社会的価値が高い取り組みであり,山下記念研究賞にふさわしい論文として推薦する.
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●ドキュメントとしてのオープンデータ
[2016-DC-103(2016/11/18)](ドキュメントコミュニケーション研究会)
 

本田 正美 君 (正会員)

2003年 東京大学法学部第3類 卒業.
2007年 東京大学大学院学際情報学府学際情報学専攻 修士課程 修了.
2013年 東京大学大学院学際情報学府学際情報学専攻 博士課程 単位取得退学.
2015年 島根大学研究機構戦略的研究推進センター 特任助教.
2017年 東京工業大学環境・社会理工学院 研究員.現在に至る.

[推薦理由] 公共機関等が保有するデータを,二次利用可能な形式で公開する取り組みであるオープンデータが着目されつつある.本研究は,オープンデータの活用事例として,特に,地域と人が結びつく活動を紹介し,その結びつきは,オープンデータが持つドキュメント性に由来するものであることを示唆している.つまり,本研究は,コミュニケーションの媒体としてドキュメントを捉える考え方に基づき,オープンデータの新たな利用価値を提示した研究であると考えられ,今後の発展が大いに期待できることから,山下記念研究賞に推薦する.
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●長期的な状態依存性を考慮した移動軌跡からの目的地予測
[マルチメディア,分散,協調とモバイルシンポジウム(DICOMO2016)(2016/7/6)](モバイルコンピューティングとパーベイシブシステム研究会)
endo

遠藤 結城  君 (正会員)

2012年3月 筑波大学大学院システム情報工学研究科 博士前期課程 修了.
2012年4月 NTT研究所 入社.
2016年8月 筑波大学システム情報系 助教.
現在に至る.この間,
2017年3月 筑波大学大学院システム情報工学研究科 博士後期課程 修了.博士(工学).

[推薦理由] 本論文では,訓練データに基づき携帯電話や車両の移動軌跡からその目的地を予測する手法を提案している.目的地予測のためには長期的な移動状態を考慮することが重要であるが,訓練データとして得られる移動軌跡は,経路長が異なっていたり,僅かな経路の違いが存在するため,データのスパース性が問題となる.提案手法では,Recurrent Neural Network (RNN)を用いて学習を行うことによって,この問題を解決する.タクシーおよび個人ユーザの移動軌跡の実データを用いて性能評価を行っており,従来手法と比較して高い精度で目的地予測が実現できることが示されている.以上のように本研究は実データの特性を考慮した実用性の高い手法を考案しており,山下記念研究賞にふさわしい特に優秀な論文として推薦する.
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●Preliminary Investigation on Using Deep Learning to Evaluate Toothbrushing Performance with Smartphone Audio
[2016-MBL-81(2016/12/9)](モバイルコンピューティングとパーベイシブシステム研究会)
korpela

Joseph Korpela  君 (正会員)

2014年9月 University of California Los Angeles, Master of Science, Computer Science.
2016年4月 Research Fellow (DC2) for Japan Society for the Promotion of Science.
2017年3月 Left above position.
2017年3月 Osaka University, PhD, Information Science.

[推薦理由] 本論文では,歯磨き行動におけるストロークタイプや磨いている場所および時間をスマートフォンで記録した音によって推定し,歯磨き行動の適切さを自動評価するための手法を提案している.特に,提案手法ではDeep Neural Networkを用いることで,従来の行動評価で必要とされてきた専門家による特徴量設計の手間を省いている.これによって,専門家は訓練データの行動に対してスコア付けをするだけで良くなり,容易に行動評価を実現することができるようになる.本手法は歯磨き行動以外にもスポーツやヘルスケアなど様々な分野に応用が期待でき,自動での行動評価を実現するにあたって応用範囲の広い研究である.以上の理由から,山下記念研究賞にふさわしい特に優秀な論文として推薦する.
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●まぜるな危険準同型暗号
[コンピュータセキュリティシンポジウム(CSS2016)(2016/10/11)](コンピュータセキュリティ研究会)
emura

江村 恵太  君 (正会員)

2004年3月 金沢大学大学院自然科学研究科 博士前期課程 修了.
2004年4月 株式会社富士通北陸システムズ 入社.
2010年3月 北陸先端科学技術大学院大学情報科学研究科 博士後期課程 修了.
2010年4月 北陸先端科学技術大学院大学高信頼性組み込みシステム教育研究センター 研究員.
2012年4月 情報通信研究機構 研究員.
2014年10月 同 主任研究員.
現在に至る.

[推薦理由] 準同型暗号に関する関連研究をわかりやすくまとめており,準同型演算の制御をキーワードベースで実現する仕組みを作る目的,実現する問題が自明でないことなどが整理されている.さらに,カイ二乗検定への応用に関する検討や実装評価により現実的な時間で動作することを示しているなど,応用への検討も高いレベルでなされていると感じた.なお,本論文に安全性証明の詳細なども加えたフルバージョンは重要なセキュリティ系国際会議 AsiaCCS 2017に投稿され採択されている.
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●標的組織の内部情報を有する攻撃者を前提としたセキュリティアプライアンス評価
[コンピュータセキュリティシンポジウム(CSS2016)(2016/10/13)](コンピュータセキュリティ研究会)
tanabe

田辺 瑠偉  君 (正会員)

2012年 横浜国立大学工学部電子情報工学科 卒業.
2014年 横浜国立大学環境情報学府情報メディア環境学専攻博士課程前期 修了.
2017年 横浜国立大学環境情報学府情報メディア環境学専攻博士課程後期 修了.博士(情報学).
同年 横浜国立大学産学官連携研究員.現在に至る.
情報セキュリティ,特にネットワークセキュリティの研究に従事.
2016年 JIP特選論文,CSS2016コンセプト論文賞受賞.
情報処理学会会員.

[推薦理由] 本研究は,サンドボックス型のセキュリティアプライアンスを対象とし,標的組織の内部情報を有する攻撃者がセキュリティアプライアンスを回避可能であるか検証を行い,サンドボックスとユーザ環境の差異に着目することで回避可能であることを示している.また,回避を防ぐために,どのような対策が必要であるかを示している.この研究で示された回避の問題点とその対策の必要性は,高度化するマルウェアの攻撃方法への対策として,重要な示唆を与えるものであり,実用性も高い研究成果である.
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●公共施設における人流誘導のための動的案内サインの検討
[2016-UBI-50(2016/5/29)](ユビキタスコンピューティングシステム研究会)
kataoka

片岡 春乃  君 (正会員)

2006年 電気通信大学電気通信学部人間コミュニケーション学科 卒業.
2008年 電気通信大学大学院電気通信学研究科人間コミュニケーション学専攻 博士前期課程 修了.
同年 日本電信電話(株)情報流通プラットフォーム研究所 入社.
2015年 電気通信大学情報理工学研究科総合情報学専攻 博士後期課程 修了.博士(工学).
現在 日本電信電話(株)サービスエボリューション研究所.
情報処理学会,電子情報通信学会各会員.
2012年ICIN Best paper award,2014年日本セキュリティ・マネジメント学会論文奨励賞各賞受賞.

[推薦理由] 本研究では,公共施設などにおけるヒトの誘導を目的とし,動的案内サイン「プロジェクションサイン」を提案している.実際に羽田空港において事前調査を行い,表示内容,位置,表現形式を検討するとともに,投影実験をおこなって空港利用者に対するアンケート調査を行なった.そして,調査結果の詳細な分析を行い,ユーザの母国語と提示言語が誘導に影響することや,その一方で,60歳以上の高齢者にはあまり影響がないことを明かにした.また,混雑状況に対する動的な提示内容の変化が混雑の平準化に寄与する可能性を示した.調査結果の分析手法や得られた結果は,ユビキタス技術によるヒトの行動変容に対する研究手法やその基礎的な知見として非常に価値が高い.よって,本研究を山下記念研究賞の受賞候補として推薦する.
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●テレメトリングのためのRADIUSメッセージングの一考察
[2016-IOT-33(2016/5/27)](インターネットと運用技術研究会)
 

松本 直人  君 (正会員)

 

[推薦理由] この発表では,インターネット上でごく少量のデータを転送するために利用されるMQTTプロトコルに対して,ユーザ認証と暗号化を伴ったデータ転送手段としてRADIUSプロトコルを用いることを提案し,両者を比較している.提案方式ではRADUISプロトコルのユーザ認証の仕組みをメッセージ送信手段として利用することで,ユーザ認証から暗号化およびメッセージ送信までの手順を大幅に簡素化することに成功している.また,実践的な環境での動作検証を実施して提案手法のデメリットも明らかにするなど,読者に有益なデータを提示している.以上の理由により推薦する.
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●イベントネットワークにおけるsyslogを用いた異常検知手法の提案と実データを用いた評価
[インターネットと運用技術シンポジウム(IOTS2016)(2016/12/1)](インターネットと運用技術研究会)
abe

阿部 博  君 (正会員)

1999年3月 北海学園大学人文学部英米文化学科 卒業.
2003年3月 北陸先端科学技術大学院大学情報科学研究科情報システム学専攻 博士前期課程 修了.
2003年4月 株式会社インターネットイニシアティブ 入社.
2014年4月 株式会社IIJイノベーションインスティテュート技術研究所 所属.
2015年4月 北陸先端科学技術大学院大学情報科学研究科 博士後期課程 入学.
2016年10月 国立研究開発法人情報通信研究機構 協力研究員.
2016年12月 第9回インターネットと運用技術シンポジウム(IOTS2016)優秀論文賞・優秀学生賞 受賞.
2015年よりInterop TokyoのShowNet NOCメンバーに参加.
クラウドコンピューティング,並びに大規模データ処理基盤の研究開発に従事.

[推薦理由] この発表では,大規模なイベントネットワークにおけるsyslogを利用したネットワーク管理において,syslogの内容を全く解釈せず行数のみから異常を検出するという新しい着眼点による運用監視手法の改善を提案している.また,評価対象としたイベントネットワークは機材数や機種数が非常に多く,有効性を実証する対象として適切である.偏差の取り方についての考察を行っていることも評価できる.このような場合そもそも正規分布する事象とは考えにくいため,このような評価・考察は重要であると考える.以上のような理由で推薦する.
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●ジョニーはまだ暗号化できない?:暗号化とユーザビリティに関する研究の調査
[2016-SPT-18(2016/5/13)](セキュリティ心理学とトラスト研究会)
midorikawa

緑川 達也  君 (学生会員)

2016年3月 東邦大学理学部情報科学科 卒業.
2016年4月 東邦大学大学院理学研究科情報科学専攻 博士前期課程 入学.
現在に至る.

[推薦理由] 本論文は,暗号化とユーザビリティに関する研究がどの方向に向かうかを予測するという調査を基にした報告である.1999年のWhittenとTygerによる論文により始まったと言える暗号化とユーザビリティの研究に対し,その後発表された多くの論文を分析し,分野の発展具合を示した.また,調査した結果を基にして考察された今後の方向性予測は,新たな分野に光をあてて他の研究者に目を向けてもらう優れた機会となった.当該分野における波及効果も大きく,とくに優秀な論文として,推薦したい.
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●Identity Confirmation to Issue Tickets using Face Recognition
[2016-CDS-16(2016/6/2)](コンシューマ・デバイス&システム研究会)
okumura

奥村 明俊  君 (正会員)

1986年 京都大学大学院工学研究科 修士課程 修了.
同年 日本電気(株)入社.自然言語処理,音声翻訳,コミュニケーションロボットの研究開発に従事.
1992年~1994年 南カリフォルニア大学客員研究員としてDARPA機械翻訳PJ参加.
2007年 第21回独創性を拓く先端技術大賞経済産業大臣賞.
2009年 情報処理学会平成20年度喜安記念業績賞.
2010年,2015年,2016年人工知能学会現場イノベーション賞.
現在,NECソリューションイノベータ㈱執行役員,工学博士.

[推薦理由] 提案した顔認証システムを大規模イベントに適用し,実運用における評価を行った実績について高く評価する.システムとしての完成度及び有用性が高いことから,実サービスへの導入という観点でも今後の発展が期待できる.また,CDS研究会から推薦する内容として相応しいことから,推薦する.
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●影内部映像に対するインタラクションの提案
[マルチメディア,分散,協調とモバイルシンポジウム(DICOMO2016)(2016/7/7)](デジタルコンテンツクリエーション研究会)
iwasaki

岩崎 妃呂子  君 (学生会員)

2014年 愛知工業大学情報科学部メディア情報専攻 入学.
現在,コンピュータグラフィクスとカメラ,Kinect,各種センサを用いたインタラクティブデジタルコンテンツに関する研究に従事.

[推薦理由] 本論文は,実物体にプロジェクタで映像を投影しながら実物体の影内部にも映像を投影して,それらの映像とのインタラクションを実現するシステムを提案したものである.このシステムでは,実物体を傾けることで実物体およびその影内部の映像が傾きに応じて動いたり,ユーザが自身の影で映像の中に手を入れて映像内の物を取り出すといった,まるでテレビの中に自分の手を入れるような体験をすることができる.システムの発想が非常にユニークであり,デジタルサイネージなどの応用も十分に考えられる.DICOMO2016では優秀論文賞を受賞するなど,システムの新規性や有用性も認められている.以上のことから,本論文を山下記念研究賞として推薦する.
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●高齢者の多様な体感を考慮した空調制御のための発話行動センシング
[2017-ASD-7(2017/2/17)](高齢社会デザイン研究会)
kiriyama

桐山 伸也  君 (正会員)

1997年 東京大学工学部電子工学科 卒業.
2002年 東京大学大学院工学系研究科情報工学専攻博士課程 修了.博士(工学).
2002年 静岡大学情報学部 助手.助教,講師を経て,2010年より同准教授.現在に至る.
人間のように多様で柔軟な問題解決ができる気の利いた情報システムの開発を目指し,自然知能の観察に基づく人工知能研究に従事.人工知能学会 コモンセンス知識と情動研究会 主査.日本子ども学会 理事.

[推薦理由] 本研究では高齢者は加齢に伴い身体感覚特性が多様化する高齢者一人ひとりに快適で健康的な空調サーピスを提供するために,高齢者の体感特性の個人差を考慮した空調制御方式の開発を進めている.具体的には体感情報の入力と各種センサによる客観情報を統合し,住空間に関する常識知に基づく推論に基づいてユーザの心的状況理解を行い,空調制御を行うシステムを構築している.これまでの検討で,同じ室温・機器環境でも会話への参与度の違いにより体感が変化する可能性が示唆されている.発話に着目した行動センシングにより,話題への興味の度合いや「眠気」などの心的状態を推定できる可能性が示唆されたことを報告しており,将来性が期待できる研究である.
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メディア知能情報

●無限木構造隠れMarkovモデルによる階層的品詞の教師なし学習
[2016-NL-226(2016/5/17)](自然言語処理研究会)
mochihashi

持橋 大地  君 (正会員)

1998年 東京大学教養学部基礎科学科第二 卒業.
2005年 奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科 博士後期課程 修了.博士(理学).
ATR音声言語コミュニケーション研究所研究員,NTTコミュニケーション科学基礎研究所研究員を経て,
2011年 統計数理研究所 数理・推論研究系 准教授,現在に至る.
専門は統計的自然言語処理および統計的機械学習.

[推薦理由] 従来のHMMや無限HMMが隠れ状態をフラットな構造として扱っていたのに対し,本稿では隠れ状態を階層構造として推定可能とするiTHMMを提案し,階層的な品詞の教師なし学習を可能とした.提案法は,自然言語処理はもとより情報科学一般の様々なタスクに適用できるHMMの本質的な拡張であり,多くの研究者にとって有用性が高い.また,実験・分析において多様な観点から有効性が検証されている点,実応用を見据えた半教師あり学習への拡張についても検証されている点,分かりやすさに十分配慮して書かれている点を合わせて鑑みても,論文としての完成度が高く,山下記念研究賞に値する.
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●地方自治体間の情報共有を目的とした大規模合意形成支援システムの有効性 -AICHI街づくりデザインリーグを事例とする-
[2016-ICS-185(2016/12/13)](知能システム研究会)
fukamachi

深町 駿平  君 (正会員)

2015年3月 名古屋工業大学建築・デザイン工学科 卒業.
2017年3月 名古屋工業大学大学院工学研究科社会工学専攻 博士前期課程 修了.
2017年4月 清水建設株式会社 入社.

[推薦理由] 本発表では,愛知県内の地方自治体職員が参加する社会実験「AICHI街づくりデザインリーグ2016」を対象として,著者らが開発を行ってきた大規模合意支援システムにおける新たな取り組みとその有効性・課題が述べられている.本発表では,新たに開発されたコアタイム機能と投稿評価機能の有効性について,事前実験により議論フェイズごとの議論の推移や議論構造についての分析がなされたほか,実際に社会実験に参加した自治体職員らへのアンケート調査に基づく分析からその効果についての分析と考察が行われている.以上のように,本発表は知能システム技術を広く社会に適用した事例研究として大変興味深い内容であり,ここに本賞受賞にふさわしい発表として推薦する.
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●プロジェクタ投影光の時間積分に基づく運動情報の映像化
[2016-CVIM-204(2016/11/10)](コンピュータビジョンとイメージメディア研究会)
sakaue

坂上 文彦  君 (正会員)

2006年3月 岡山大学大学院自然科学研究科 博士後期課程 修了.
2006年4月 名古屋工業大学大学院工学研究科 助手(2007年より助教).
2017年4月 名古屋工業大学大学院工学研究科 准教授.
現在に至る.この間,
2011年3月~2012年3月 カーネギーメロン大学客員研究員.
博士(工学).
主にコンピュータビジョン,コンピュテーショナルフォトグラフィ,パターン認識に関する研究に従事.
情報処理学会,電子情報通信学会,各会員.

[推薦理由] 本論文は,プロジェクタから特殊にコード化された光を物体に対して投光することで,物体の運動を識別する技術を提案している.この技術では,カメラや人間の視覚などの観測系が一定時間の光を積分した情報を取得していることに着目し,時間的にコード化された光を物体に対して投光することで,物体の運動に応じて観測系に対して異なる画像を観測させることが可能であることを示している.これは,カメラやコンピュータを用いずに光の投光のみで運動を識別するというコンピュータビジョンの新たな可能性を示すものであり,本分野の研究の進展に大きく貢献するものである.以上より,本論文は平成29年度山下記念研究賞にふさわしいと考え,ここに推薦する.
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●超音波振動による物体表面の法線方向の変化を利用した粘弾性の推定
[2017-CVIM-206(2017/3/10)](コンピュータビジョンとイメージメディア研究会)
aoto

青砥 隆仁  君 (正会員)

2010年3月 立命館大学情報理工学部メディア情報学科 卒業.
2012年3月 奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科情報システム学専攻 修士課程 修了.
2015年12月 奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科情報科学専攻 博士課程 修了.博士(工学).
2016年1月-2017年3月 奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科 博士研究員.
2017年4月-現在 国立情報学研究所 コンテンツ科学研究系特任研究員.
コンピュテーショナルフォトグラフィ・コンピュテーショナルイメージングの研究に従事.

[推薦理由] 本研究では,力学的特性である粘弾性を,物体表面で観測される陰影情報の変化を用いて推定する手法を提案している.対象物体の粘性を非破壊で推定するためには,対象物体に与える応力を小さくする必要があるが,それによって生じる微小変位の計測は困難であった.本研究は,観測が困難なほど微小な変位を逆に利用し,これを変位がなく法線方向のみが変化しているとみなすことで,法線方向の変化による陰影情報の変化を粘弾性推定の手掛かりとして活用しようというこれまでにない発想の研究であり,コンピュータビジョンによる計測の新しい方向性を示した.以上より,2017年度山下記念研究賞にふさわしい論文として推薦する.
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●データ従事者の育成を目的としたデータ・リテラシー教育の試み
[2016-CE-135(2016/7/2)](コンピュータと教育研究会)
chubachi

中鉢 直宏  君 (正会員)

2000年 政策・メディア研究科 修士課程 修了.修士(政策・メディア).
2007年 東京工業大学大学院社会理工研究科 博士課程 単位取得後退学.
2007年 東京工業大学情報理工学研究科 COE技術補佐員.
2008年 東京工業大学社会理工学研究科 補佐員.
2008年 青山学院大学附置情報科学研究センター 助手.
2014年 島根大学教育・学生支援機構教学企画IR室 助手.
2016年 帝京大学高等教育開発センターIR推進室 助教.現在に至る.
情報処理学会,教育工学会,情報システム学会各会員.

[推薦理由] 本研究では,大学の一般情報教育において,データベースを学習するにあたって,情報システムにおけるデータベースの役割を理解するとともに,データ従事者として,入力するデータへの質について理解を促す学習方法の開発を試みたものである.データベースの構造設計に続く,登録データの「質」に焦点を当てた教育であることが新しく,評価できる.また,データ従事者のリテラシー教育に関する発表であることも貴重であり,実践した学習方法も効果的であると思われ,これからの情報教育に必要な内容の実践研究であったと考える.
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●俯瞰カメラと移動ロボットを用いたフィードバック制御系の可視化の試みと評価
[2017-CE-138(2017/2/12)](コンピュータと教育研究会)
hikita

疋田 真一  君 (正会員)

2002年 大阪大学大学院基礎工学研究科 博士後期課程 修了.博士(工学).
2002年 広島市立大学情報科学部 助手.
2007年 同大大学院情報科学研究科 助教.
2013年 大阪電気通信大学工学部 講師,現在に至る.
人間の空間知覚と運動制御,画像計測とその応用に関する研究に従事.

[推薦理由] 本発表は俯瞰カメラを用いて移動ロボットを目的位置に誘導する制御システムを作成し,フィードバック制御系の直感的な理解を促す教材の開発と評価を行っている.ソフトとハードの両面から行った実践的な研究であり,フィードバック制御に用いられているマーカーの検出方法等についても,安価な機材を用いて様々な大学で導入しやすい方法を提案していることから質の高い内容になっている.また,この研究は,現在中学校技術科の授業で導入されている計測・制御の学習に新しい考え方を取り入れる可能性を示しており,今後の初等中等教育における計測制御教育の発展に寄与すると考えられる.
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●学習を動機付けに利用した前近代災害史料のクラウドソーシング翻刻
[人文科学とコンピュータシンポジウム(じんもんこん2016)(2016/12/11)](人文科学とコンピュータ研究会)
hashimoto

橋本 雄太  君 (正会員)

2008年3月 京都大学文学部情報・史料学専修 卒業.
2010年3月 京都大学大学院文学研究科情報・史料学専修 博士前期課程 修了.
2010年4月 株式会社内田洋行 入社.
2013年4月 京都大学 大学院文学研究科 情報・史料学専修博士後期課程 編入.
2015年7月 The Alliance of Digital Humanities Organizations (ADHO) Bursary Award.
2016年5月 情報処理学会人文科学とコンピューター研究会 奨励賞 受賞.
2017年4月 大学共同利用機関法人国立歴史民俗博物館テニュアトラック助教.
現在に至る.

[推薦理由] 本研究は,人文科学における研究推進のため,歴史資料の翻刻に対するクラウドソーシングを適用した実践的なアプローチを示したものである.従来の歴史資料の翻刻では「くずし字」解読の難しさとともに,参加者の動機付けが難しいという問題が存在した.本研究では,この問題に対して人文学コンテンツを対象とした学習支援サービスを組み込むことにより解決を試みたものであり,その着眼点が優れている.また,アプリケーションの設計・実装が標準的な技術を適切に利用した妥当なものになっていると同時に,実際に多くの参加者を集めクラウドソーシング翻刻に関して具体的な成果を得たことは高く評価できる.本研究は,人文情報学の新しい未来を切り拓き,卓越した成果が期待できる研究である.
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●調・コード・音高・スペクトログラムの階層ベイズモデルに基づく多重音解析
[2016-MUS-112(2016/7/30)](音楽情報科学研究会)
ojima

尾島 優太  君 (学生会員)

2016年3月 京都大学工学部情報学科 卒業.
2016年4月 京都大学大学院情報学研究科知能情報学専攻 入学.
現在に至る.
情報処理学会学生会員.

[推薦理由] 本論文では,音楽音響信号中に対する多重音高推定問題に対して,音高の背後に存在するはずの調やコード進行を考慮することにより,推定精度を改善する手法を提案している.従来は,ピアノロールから音楽音響信号が生成される過程を表現する音響モデルのみを用いるのが一般的であったが,本研究では,調・コードからピアノロールが生成される過程表現する音楽文法モデルを新たに導入している.これら二つのモデルを階層ベイズモデルとして確率的に統合し,音響信号だけから両者を一挙に教師なし学習することにより,音高推定と同時にコード進行に関する文法的な法則を自動で獲得することに成功している.理論的に見通しがよく,技術的にも優れているため,山下記念研究賞に強く推薦する.
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●Strummer:インタラクティブなギターコード練習システム
[2017-MUS-114(2017/2/27)](音楽情報科学研究会)
ariga

有賀 竣哉  君 (正会員)

2015年3月 東京大学工学部電子情報工学科 卒業.
2017年3月 東京大学工学系研究科電気系工学専攻 修士課程 修了.
2017年4月 株式会社ドワンゴ 入社.
現在に至る.

[推薦理由] 本論文では,ギターの練習において,単調な繰り返し練習によるモチベーションの低下を回避するため,ユーザの好みを反映しつつ,簡単かつ重要な楽曲から順番に練習することを可能にするギター練習支援システムStrummerを考案している.音響信号解析により,ユーザが演奏したコードは自動認識され,正しく演奏できたかを自分で確認することができる.予備的な被験者実験の結果に基づいて,コードの押弦・遷移難易度を適切に設計することで,ユーザの感覚とよく合致するコードや楽曲の重要度を計算することを実現している.GUIを用いた被験者実験の結果,提案システムの有効性を示している.このような堅実なアプローチは高く評価できるため,山下記念研究賞に強く推薦する.
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●方向依存活性化関数を用いたDeep Neural Networkに基づく識別的音源定位
[2016-SLP-112(2016/7/30)](音声言語情報処理研究会)
takeda

武田 龍  君 (正会員)

2006年3月 京都大学工学部情報学科 卒業.
2008年3月 京都大学大学院情報学研究科 修士課程 修了.
2011年3月 京都大学大学院情報学研究科 博士後期課程 修了.博士(情報学).
同年 株式会社日立製作所 入所.
2014年10月より大阪大学産業科学研究所 助教.現在に至る.

[推薦理由] 本論文では,ディープニューラルネットワークを用いた識別的な音源定位法を提案している.従来法は尤度に基づいて位置推定を行うものが多く,雑音レベルや距離,音源数に応じて各種パラメータを注意深く設定する必要があり,高い性能を維持することが難しかった.本論文は,複素構造を直接扱う方向依存活性化関数の設計と,方向情報を統合する階層的なネットワークの導入という2つの新しい要素から成り立ち,対象環境のデータを用いることで従来法よりも頑健な位置推定が可能となることを示した.また,位置推定が難しいとされる残響環境でも効果を上げている点で優れている.以上の理由により,山下記念研究賞にふさわしい論文として推薦する.
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●カーリングAIに対するモンテカルロ木探索の適用
[ゲームプログラミングワークショップ2016(2016/11/6)](ゲーム情報学研究会)
ooto

大渡 勝己  君 (正会員)

2014年 東京大学教養学部生命・認知科学科認知行動科学分科 卒業.
2015年 大分県庁臨時職員.
2017年 東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻広域システム科学系 修士課程 修了.

[推薦理由] 本論文は,デジタルカーリングという連続空間を扱うゲームにモンテカルロ木探索を基にした行動決定手法を提案したのである.モンテカルロ木探索を連続空間に適用する場合,行動空間と状態空間の連続性に対処する必要があり,囲碁などにおけるモンテカルロ木探索よりも技術的に難しい問題になっている.本論文では,状態空間を再帰的に分割し,空間的な近さを行動価値の近さに反映することと,カーリングの知識と機械学習によって作成したシミュレーション方策を用いることで,効率的なモンテカルロ木探索を実現している.対戦実験によりその有用性を示したのみならず,実際のカーリングAI大会でも好成績を収めるなど,この分野の研究に大きく貢献している.
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●複数立体スケッチの組み合わせによる空間再構成の試み
[2016-EC-41(2016/8/5)](エンタテインメントコンピューティング研究会)
tomohiro

友広 歩李  君 (正会員)

2014年 情報処理推進機構 未踏IT人材発掘・育成事業 開発者.
2015年3月 公立はこだて未来大学システム情報科学部情報アーキテクチャ学科 卒業.
2017年3月 公立はこだて未来大学システム情報科学研究科 修了.
2017年4月 ヤフー株式会社 入社.
現在に至る.

[推薦理由] 本研究は,異なる視点から別々に描かれたスケッチから対象オブジェクトや空間の3次元情報を再構成するシステムの実用例に関して報告している.論文においては,単一のユーザによる複数スケッチに対する事例だけではなく,複数のユーザによる複数スケッチを用いたプロトタイプの評価も行っている.この結果,複数ユーザによる協調的な作業において,ユーザ同士のアイディアや気づきを直感的に共有可能なVR空間が構築可能であることを示唆している.VR空間内における体験や知識の共有を促すクリエイティブなコンテンツの萌芽という意味で,本研究の学術的価値は高く,山下記念研究賞受賞にふさわしいと判断する.
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●サッカーのネタバレが観戦者の態度に及ぼす影響
[2017-EC-43(2017/3/11)](エンタテインメントコンピューティング研究会)
shiratori

白鳥 裕士  君 (学生会員)

2017年3月 明治大学総合数理学部先端メディアサイエンス学科 卒業.
2017年4月 明治大学大学院先端数理科学研究科先端メディアサイエンス専攻 博士前期課程 入学.
現在に至る.

[推薦理由] 本研究は,テレビなどを通したスポーツ観戦において,Web情報などで意図せずに試合結果などを知ってしまう「ネタバレ」が,視聴者の観戦態度にどのように影響するのかを調査した研究である.実験においてはサッカーの試合を対象として,アンケートを用いて被験者の興奮度や緊張感に関して調査を行い,統計解析の結果「ネタバレ」によって観戦者の緊張感に有意に差があったことを報告している.様々な競技スポーツのネット観戦が普及している今日において,事前情報がコンテンツのエンタテインメント性のどの要素に影響するのかという本研究の試みは汎用性が高く,評価に値する.以上から,山下記念研究賞受賞にふさわしいと判断する.
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●Towards Unified Model of Spatio-Temporal Mental Orientation: Neurophysiological Correlates of Temporal Reference Point Function
[2016-BIO-47(2016/9/28)](バイオ情報学研究会)
soshi

曽雌 崇弘  君 (正会員)

1994年 慶応義塾大学文学部哲学科 卒業.
2007年 東京都立大学大学院人文科学研究科 博士課程 修了(神経言語学).
2007年 国立精神・神経センター精神保健研究所 流動研究員.
2010年 情報通信研究機構未来ICT研究所脳情報通信研究室 専攻研究員.
2012年 熊本大学文学部総合人間学科認知心理学専攻 研究員.
2014年 国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所 常勤研究員.
2017年 阪大ベンチャー企業 PRIN Co., Ltd. 研究開発部門.
2017年 情報通信研究機構脳情報通信融合研究センター脳情報工学研究室 研究員.
現在に至る.
言語、認知、知覚、ならびに痛覚を含むヒトの脳情報処理に関する研究開発に従事..

[推薦理由] 本研究は,自然言語処理時の心的なtemporal orientation(過去の記憶と将来の予測を相互に繰り返すような現象)に関わるneural correlates(ある現象と活性度が有意に相関する脳領域)を調べるために,認知課題の設計とその実験中の脳波計測を行ったものである.これまで課題設定が困難だった,temporal orientationに対して,日本語の複文構造における主節と従属節の時制に着目し,その整合性を判断させる認知課題を設計した点は,新規性が高い.また,その時の脳活動を記録・解析したことによって,この心的処理に関与する脳領域を明らかにしたことは学術的にも意義が高い.よって,賞の授与に値する研究発表であると考え,本発表者を推薦する.
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●大学のプログラミング教育のためのルーブリックの検討
[2016-CLE-19(2016/5/21)](教育学習支援情報システム研究会)
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渡辺 博芳  君 (正会員)

1986年 宇都宮大学工学部情報工学科 卒業.
1988年 宇都宮大学大学院工学研究科 修士課程 修了.
1988年 栃木県庁(栃木県工業技術センター)・技師.
1991年 帝京大学理工学部・助手.現在,同教授.
1999年 博士(工学).
2003年 帝京大学ラーニングテクノロジー開発室を兼務.現在,同室長.

[推薦理由] 本論文は,PBL,反転学習,少人数制指導などを導入したカリキュラム設計の中で,課題の設定と学習者の自己評価のためのルーブリックの提案と予備調査結果を報告している.ルーブリックの活用は,受講者が自身の理解を把握しながら主体的に学習を行えることを目指して様々な教育現場で取り組みが活発になっているが,本論文では,プログラミング教育におけるルーブリックを対象としており新規性が高い.有効性についても,帝京大学工学部情報電子工学科の教育現場を対象とした検討・実験が行われており,学習履歴に基づく学習支援の基礎となる重要な取り組みとして,他大学においても高い波及効果が見込まれるだけでなく,様々な他の教育過程へも展開が期待できる点で有用な報告である.さらに,プログラミング教育が初中等教育でもより積極的に導入されようとしている中で,プログラミング教育の実施や評価のための道具として役立てられる可能性が有り,有益な試みである.
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