「達成度テスト」における情報科試験採用の要望
「達成度テスト」における情報科試験採用の要望
2013年12月11日
一般社団法人 情報処理学会
会 長 喜連川 優
一般社団法人 情報処理学会
会 長 喜連川 優
我々情報処理学会は、現在大学入試センター試験等に代わるものとして検討されつつある「達成度テスト」(基礎・発展)において、情報科の学習に関して適正な内容・水準が維持されていることの評価を含めて頂くことを、ここに強く要望致します。
情報・情報技術は現代社会において重要な役割を果たしており、世界各国は将来の国を担う次世代の教育において情報・情報技術の教育内容を強化しつつある。
わが国においては次世代に対する情報・情報技術の教育を目的として高校に設置されている情報科が設置されており、すべての高校生がその内容を学ぶこととなっている。また、情報科の教育内容はPIACC等で主眼となる問題解決力を重視しており、この意味でも当該教科の教育の充実はわが国社会の次世代における発展にとって欠かせないものと言える。
しかし実際には、情報科の実態として、学習指導要領と大幅に異なる内容が教えられていたり、集中講義など必ずしも適切でない形で時間が配分されていることがある。また、情報科を教える教員についても、本来望まれる専任の教員ではなく、他教科と掛け持ちの教員が、場合によっては臨時免許を受けて教えるなどの現状があり、その結果本来あるべき学習指導が行えていないことがある。
このことには複数の原因があるが、情報科の内容が大学入試センター試験では出題されておらず、また情報科の入試を課している大学も極めて少数であることは、原因の1つであると考えられる。これは、対外的な評価がなされなければ、適正な教育内容・水準をめざすことの意義が生徒・保護者・教員・学校管理者に理解されにくくなるのは当然だからである。
これらの状況に鑑み、我々は表記の事項を関係各位に要望するものである。
以上
(背景説明)
1. 世界各国の情報・情報技術教育とわが国の現状
現代社会における情報・情報技術の重要性は言うまでもないことであり、このことから世界各国では情報・情報技術教育に力を入れている。その中でもプログラミングに代表される情報技術教育は次世代の国力の基礎になるものとして、近年その強化に取り組む国が増えている。たとえばエストニアでは小学校1年生からプログラミング教育を行うことを決めている。また英国・米国などもソフトウェアの操作中心の情報教育からプログラミングや計算的思考(Computational Thinking)などを重視するカリキュラムへの転換を計っている。これに対しわが国では、教育現場にICTを導入することについては多くの活動が行われているが、小学校では情報教育は「各教科や総合的な学習の中で行う」こととなっており、実際にはほとんど行われていない。
2. わが国の情報・情報技術教育の立ち後れ
2013年に第1回の結果が公表された国際成人力調査(PIACC)では、わが国は「読解力」「数的思考力」においてトップの成績であったが「ITを活用した問題解決能力」については10位であった。さらに、「ITを活用した問題解決能力」の試験にはコンピュータ試験が用いられており、紙の調査用紙を選択した受験者は結果から除外されている。わが国の受験者で紙の調査を選択した割合は36.8%であり、OECD平均の24.4%よりかなり多い。これらの結果は、わが国の成人においてコンピュータを使いこなす能力は他国とくらべてかなり立ち後れていることを危惧させるものだと言える。
3. 情報科の内容と位置づけ
わが国の情報科は2003年から新設された歴史の浅い教科であるが、「情報社会を生きる力」を育むことを目標としており、すべての高校生が履修することとなっている(現行学習指導要領では「社会と情報」「情報の科学」各2単位から1科目以上選択必履修)。また、その学習内容には、情報に関わる科学的原理や情報社会の特性などに加え、情報や情報技術を適切に活用した問題解決が含まれ、今日の社会的要請に応えるものとなっている。ただし、十分な専門性を持たない教員が担当する場合、このような内容が十分に教えられず、コンピュータやソフトウェアの操作方法中心の授業がなされてしまうことが多くある。
4. 大学入試における情報科の出題
大学入試センター試験では、おもに工業・商業など高校の専門学科を卒業した生徒を対象とする科目として「情報関係基礎」を実施してきたが、最も多数派である普通科の卒業生の受験には使用できない場合がほとんどである。我々情報処理学会は、わが国における情報・情報技術を専ら扱う最大の学会として、情報科が新設された時点を含め、これまで複数回にわたり、大学入試センターに対して情報科の出題を要請してきたが、このことは現在も実現されていない。
2011年初等にこの問題に関心を持つ研究者有志が「情報入試研究会」を設立し、現在は情報処理学会・情報入試ワーキンググループと合同で活動を進めている。その活動内容は情報科に対する適正な大学入学試験問題の内容とは何かを検討し、具体的な入学試験問題の形で提案することである。このほか、明治大学情報コミュニケーション学科・慶應大学環境情報学部をはじめ、新たに情報入試を開始ないし開始予定の大学学部・学科が複数現れている。このような進展にもかかわらず、世の中全体としては本文に記した通り、情報科は大学入試と無関係な教科であるという認識が大半である。
以上
情報・情報技術は現代社会において重要な役割を果たしており、世界各国は将来の国を担う次世代の教育において情報・情報技術の教育内容を強化しつつある。
わが国においては次世代に対する情報・情報技術の教育を目的として高校に設置されている情報科が設置されており、すべての高校生がその内容を学ぶこととなっている。また、情報科の教育内容はPIACC等で主眼となる問題解決力を重視しており、この意味でも当該教科の教育の充実はわが国社会の次世代における発展にとって欠かせないものと言える。
しかし実際には、情報科の実態として、学習指導要領と大幅に異なる内容が教えられていたり、集中講義など必ずしも適切でない形で時間が配分されていることがある。また、情報科を教える教員についても、本来望まれる専任の教員ではなく、他教科と掛け持ちの教員が、場合によっては臨時免許を受けて教えるなどの現状があり、その結果本来あるべき学習指導が行えていないことがある。
このことには複数の原因があるが、情報科の内容が大学入試センター試験では出題されておらず、また情報科の入試を課している大学も極めて少数であることは、原因の1つであると考えられる。これは、対外的な評価がなされなければ、適正な教育内容・水準をめざすことの意義が生徒・保護者・教員・学校管理者に理解されにくくなるのは当然だからである。
これらの状況に鑑み、我々は表記の事項を関係各位に要望するものである。
以上
(背景説明)
1. 世界各国の情報・情報技術教育とわが国の現状
現代社会における情報・情報技術の重要性は言うまでもないことであり、このことから世界各国では情報・情報技術教育に力を入れている。その中でもプログラミングに代表される情報技術教育は次世代の国力の基礎になるものとして、近年その強化に取り組む国が増えている。たとえばエストニアでは小学校1年生からプログラミング教育を行うことを決めている。また英国・米国などもソフトウェアの操作中心の情報教育からプログラミングや計算的思考(Computational Thinking)などを重視するカリキュラムへの転換を計っている。これに対しわが国では、教育現場にICTを導入することについては多くの活動が行われているが、小学校では情報教育は「各教科や総合的な学習の中で行う」こととなっており、実際にはほとんど行われていない。
2. わが国の情報・情報技術教育の立ち後れ
2013年に第1回の結果が公表された国際成人力調査(PIACC)では、わが国は「読解力」「数的思考力」においてトップの成績であったが「ITを活用した問題解決能力」については10位であった。さらに、「ITを活用した問題解決能力」の試験にはコンピュータ試験が用いられており、紙の調査用紙を選択した受験者は結果から除外されている。わが国の受験者で紙の調査を選択した割合は36.8%であり、OECD平均の24.4%よりかなり多い。これらの結果は、わが国の成人においてコンピュータを使いこなす能力は他国とくらべてかなり立ち後れていることを危惧させるものだと言える。
3. 情報科の内容と位置づけ
わが国の情報科は2003年から新設された歴史の浅い教科であるが、「情報社会を生きる力」を育むことを目標としており、すべての高校生が履修することとなっている(現行学習指導要領では「社会と情報」「情報の科学」各2単位から1科目以上選択必履修)。また、その学習内容には、情報に関わる科学的原理や情報社会の特性などに加え、情報や情報技術を適切に活用した問題解決が含まれ、今日の社会的要請に応えるものとなっている。ただし、十分な専門性を持たない教員が担当する場合、このような内容が十分に教えられず、コンピュータやソフトウェアの操作方法中心の授業がなされてしまうことが多くある。
4. 大学入試における情報科の出題
大学入試センター試験では、おもに工業・商業など高校の専門学科を卒業した生徒を対象とする科目として「情報関係基礎」を実施してきたが、最も多数派である普通科の卒業生の受験には使用できない場合がほとんどである。我々情報処理学会は、わが国における情報・情報技術を専ら扱う最大の学会として、情報科が新設された時点を含め、これまで複数回にわたり、大学入試センターに対して情報科の出題を要請してきたが、このことは現在も実現されていない。
2011年初等にこの問題に関心を持つ研究者有志が「情報入試研究会」を設立し、現在は情報処理学会・情報入試ワーキンググループと合同で活動を進めている。その活動内容は情報科に対する適正な大学入学試験問題の内容とは何かを検討し、具体的な入学試験問題の形で提案することである。このほか、明治大学情報コミュニケーション学科・慶應大学環境情報学部をはじめ、新たに情報入試を開始ないし開始予定の大学学部・学科が複数現れている。このような進展にもかかわらず、世の中全体としては本文に記した通り、情報科は大学入試と無関係な教科であるという認識が大半である。
以上