「次期学習指導要領等に向けたこれまでの審議のまとめ」に関する意見

「次期学習指導要領等に向けたこれまでの審議のまとめ」に関する意見

2016年10月7日
一般社団法人 情報処理学会
会 長  富田 達夫

以下のとおり,2016年10月7日付で6件の意見書を提出しましたのでご報告いたします.
(協力:情報処理教育委員会 初等中等教育委員会)


2016年10月7日
文部科学省初等中等教育局教育課程課 御中
一般社団法人 情報処理学会
会 長  富田 達夫

意見の分類:③ 第2部 1.(2)小学校

意見:
今回あらたに、小学校からプログラミング(的思考)の育成が広く実施されることになったことが、
 ③情報技術を手段として活用する力やプログラミング的思考の育成

 ○ また、将来どのような職業に就くとしても、時代を超えて普遍的に求められる「プログラミ
 ング的思考」などを育むプログラミング教育を通じて、身近なものにコンピュータが内蔵され、
 プログラミングの働きにより生活の便利さや豊かさがもたらされていることについて理解し、
 そうしたプログラミングを、自分の意図した活動に活用していけるようにすることもますます
 重要になっている。…
と示されている。これは大きな進歩であり、我々もこのことを高く評価する。
また
 ○ 具体的には、各小学校において、…プログラミング教育を行う単元を位置付けていく学年や
 教科等を決め、地域等との連携体制を整えながら指導内容を計画・実施していくことが求めら
 れる。
 ○ プログラミング教育を実施することとなった教科等においては…指導内容を具体化してい
 くことが求められる。
と記されており、ただ興味関心を持つ少数の教員や児童だけが学ぶだけのものではなく一般の児童が広く学ぶべきであることが示されている。我々はこの点も高く評価する。
 ただしこの記述では、悉皆で教育する旨の明記が弱い印象を受ける。小学校である以上は例外なく上記のように実施しなければならないことをよりはっきり記し、小学校教育関係者の全員に我が事として受け止めていただくよう表現を改善するべきであると考える。
以上
 

2016年10月7日
文部科学省初等中等教育局教育課程課 御中
一般社団法人 情報処理学会
会 長  富田 達夫

意見の分類:○17 第2部 2.(10)家庭、技術・家庭

意見:
 情報教育は中学校段階においては第一には技術・家庭科技術分野が担う。情報分野は技術であると同時に科学であり、両面の資質・能力がともに大切である。よって技術・家庭科技術分野のうち情報に関する内容においては、単に表面的な意味での技術を学ぶだけでなく、その背景となる科学の理解があわせて大切である。その視点から見て
 ②具体的な改善事項
 i )教育課程の示し方の改善
 ア 資質・能力を育成する学びの過程についての考え方

 ○ 技術・家庭科技術分野で育成することを目指す資質・能力は、
 2)技術に関する科学的な理解に基づいた設計・計画…
と科学的な理解の重要性が強調されていること、また、
 イ 指導内容の示し方の改善

 ○ 技術・家庭科技術分野の指導内容については…
 ・ 技術の仕組みや役割、進展等を、科学的に理解することで、「技術の
 見方・考え方」に気付き…
とやはり科学的な理解の重要性が強調されていることこと、また、
 別添11-6 技術・家庭科(技術分野)の学習過程のイメージ

 技術に関する科学的な理解に基づいた設計・計画
とあるのは、ともに正しい方針が示されているを我々は考える。

また、中学校段階において情報教育を担う教科として
 ②具体的な改善事項
 ii)教育内容の改善・充実
 イ 教育内容の見直し
 (中学校 技術・家庭科 技術分野)

 ○ 技術・家庭科技術分野については
 …なお、急速な発達を遂げている情報の技術に関しては、小学校におけるプログラミング教育
 の成果を生かし、発展させるという視点から、従前からの計測・制御に加えて、動的コンテン
 ツに関するプログラミングや、ネットワークやデータを活用して処理するプログラミングも題
 材として扱うことが考えられる。…
とあることも、中学校教育全体における望ましい情報教育のあり方を考えたときによい方針であると考える。

 しかしながら、情報は技術であると同時に科学でありその両面がともに大切である、ということがよく読み取れない箇所もある。以下の点については示すように改善すべきだと考える。

 ②具体的な改善事項
 i )教育課程の示し方の改善
 ア 資質・能力を育成する学びの過程についての考え方
 ○ 技術・家庭科技術分野で育成することを目指す資質・能力は…
 …課題を設定し、解決方策が最適なものとなるよう設計・計画し、
  ↓
 …課題を設定し、解決方策が最適なものとなるよう科学的な視点から設計・計画し、
以上
 

2016年10月7日
文部科学省初等中等教育局教育課程課 御中
一般社団法人 情報処理学会
会 長  富田 達夫

意見の分類:○20 第2部 2.(13)情報

要旨:
 今回、共通必履修科目として「情報I(仮称)」を設け、すべての高校生が共通して学ぶべき内容としたこと、さらにその上に立った発展的科目「情報II(仮称)」を設けたことに、まず賛意を表する。
 しかし、情報や情報技術が問題発見と問題解決のための有用な手段であることが前面に出されて強調されすぎていると考える。そのこと自体はもちろん正しいが、しかしそれは情報分野の一側面にすぎず、情報について学ぶことが重要である理由は決してそれが唯一主たるものではない。より重要なのは、これからの情報社会においてそこに生きる市民が、自らが生きる社会の重要な構成要素である情報分野に関して正しい科学的な理解を持つことは、市民としてまた職業人として、それ自体が重要なことだからである。
 この点に照らして我々は、
 ② 具体的な改善事項
 ii)教育内容の改善・充実
 イ 教育内容の見直し
において
 ○情報科については、…そのため、具体的には、コンピュータについての本質的な理解に資す
 る学習活動としてのプログラミングや、より科学的な理解に基づく情報セキュリティに関する
 学習活動などを充実する必要がある。
とあるのは、おおいに正しい方針であると考える。
 いっぽう他の部分において、いくつか、「問題発見と問題解決のための有用な手段」のみが強調されすぎていると受け取れる部分がある。このため我々は、「意見」に記した4点を改善すべきだと考える。

意見:
 今回、共通必履修科目として「情報I(仮称)」を設け、すべての高校生が共通して学ぶべき内容としたこと、さらにその上に立った発展的科目「情報II(仮称)」を設けたことに、まず賛意を表する。
 しかし、情報や情報技術が問題発見と問題解決のための有用な手段であることが前面に出されて強調されすぎていると考える。そのこと自体はもちろん正しいが、しかしそれは情報分野の一側面にすぎず、情報について学ぶことが重要である理由は決してそれが唯一主たるものではない。より重要なのは、これからの情報社会においてそこに生きる市民が、自らが生きる社会の重要な構成要素である情報分野に関して正しい科学的な理解を持つことは、市民としてまた職業人として、それ自体が重要なことだからである。
 この点に照らして我々は、
 ② 具体的な改善事項
 ii)教育内容の改善・充実
 イ 教育内容の見直し
において
 ○情報科については、…
 …そのため、具体的には、コンピュータについての本質的な理解に資する学習活動としてのプ
 ログラミングや、より科学的な理解に基づく情報セキュリティに関する学習活動などを充実す
 る必要がある。
とあるのは、おおいに正しい方針であると考える。
 いっぽう他の部分において、いくつか、「問題発見と問題解決のための有用な手段」のみが強調されすぎていると受け取れる部分がある。このため我々は、以下の4点を改善すべきだと考える。

第1点
① 現行学習指導要領の成果と課題を踏まえた情報科の目標の在り方
ii)課題を踏まえた情報科の目標の在り方
○ 情報科は、…
…情報や情報技術を
問題の発見と解決に活用するための科学的な理解や思考力等を育み、…

…情報や情報技術を
問題の発見と解決に活用するための基盤ともなる、情報の科学的な理解や思考力等を育み、…

第2点
iii)情報科における「見方・考え方」
○ この際、情報科は、情報と情報技術に関する理解と技能とを基盤として、問題を発見・解決する能力や態度を育むことを目的としてきており、いわば情報技術の活用による問題の発見・解決の過程…

○ …理解と技能とを基盤として、情報を科学
的に理解するとともに問題を発見・解決する能力や態度を育むことを目的としてきており、いわば情報の科学的理解自体および情報技術の活用による問題の発見・解決の過程…

第3点
② 具体的な改善事項
ii)教育内容の改善・充実
イ 教育内容の見直し
○ 情報科については…
情報と情報技術を問題の発見・解決に活用するための科学的な考え方等を育むことが…

情報と情報技術を問題の発見・解決に活用する基盤ともなる科学的な考え方等を育むことが…

第4点
○ これを踏まえ、「情報Ⅰ(仮称)」においては、…

といった基本的な情報技術と情報を扱う方法とを…

といった基本的な情報の科学技術と情報を扱う方法とを…
以上
 

2016年10月7日
文部科学省初等中等教育局教育課程課 御中
一般社団法人 情報処理学会
会 長  富田 達夫

意見の分類:○20 第2部 2.(13)情報

意見:
本葉では情報科担当教員の養成・採用・研修についての意見に絞って述べる。
我々はまず
 ② 具体的な改善事項
 iii)学習・指導の改善充実や教育環境の充実等
 イ 教材や教育環境の充実
において
 ○ 情報科担当教員について、各都道府県教育委員会等においては、情報科免許状を有する者の
 計画的な採用・配置や現職教員の情報科免許状保有の促進等により、免許外教科担任や臨時免
 許状による担任の解消に務める必要がある。
とある点に賛意を表する。これはきわめて重要な問題であり、国としての強力な施策、例えば正規免許を有する優れた情報科教員の比率の多い自治体には予算的優遇策を講じる、なども必要だと我々は考える。
 また、その新規の情報科教員を養成する大学の教職課程の制度に関しても改善が必要である。教員養成課程においてはここ十数年、「教職に関する科目」が充実される反面で「教科に関する科目」が大幅に削減されており、それが行き過ぎているため情報科を含むあらゆる教科において教科指導力が落ちていると我々は感じている。これを改善し、大学の情報科教職課程において十分な教科指導力を持つ教員が排出されるよう、課程認定の制度の改善などを図るべきである。
さらに
 また、情報科の指導内容・方法に関する研修の充実による担当教員の専門性向上も急務であり、
 国においても各都道府県教育委員会等における研修の充実に資する支援策を講じる必要がある。
に関し、もちろんそのとおりであるが、教育委員会自身がよい情報科の研修を行なうことは質的量的に限界がある。これに関して学協会が支援する用意があり、教育委員会は必要な支援を受けること、国はそれが容易になるような施策を講じることを望む。
以上
 

2016年10月7日
文部科学省初等中等教育局教育課程課 御中
一般社団法人 情報処理学会
会 長  富田 達夫

意見の分類:① 第1部学習指導要領等改訂の基本的な方向性

意見:
 10.実施するために何が必要か -学習指導要領等の理念を実現するために必要な方策-
 (2)学習指導要領等の実施に必要な諸条件の整備
において
 ○ 教員養成においては、資質・能力を育成していくという新しい学習指導要領等の考え方を十
 分に踏まえ、教職課程における指導内容や方法の見直しを図ることが必要である。
と述べられている。これはもとより重要であり適切な提言であるが、これにさらに
 なお、受ける免許によらず情報の科学的な理解を習得するために、教職課程において教育職員
 免許法施行規則第66条の6の「情報機器の操作 2単位」は「情報の科学的な理解 2単位」
 にすることが適当である。
との一文を追加すべきであると考える。
 教員養成において育成すべき資質・能力のうちますます重要になっているものとして、情報分野特に情報の科学的理解についての資質・能力がある。情報教育を第一に担う教員としては高等学校の情報科および中学校の技術・家庭科技術分野の教員がいるが、それ以外のすべての教員についても、
・ 情報教育や教育の情報化は学校教育全体において行なわれるべきものであること。
・ 小学校においてはプログラミング教育が広く行われることとなっているが、それは教科担任制
 ではない多くの小学校教員によって担われること。
・ 高等学校でやむをえず免許外教科担任制度により共通教科情報科を担当する場合に情報の科学
 的理解の能力がとりわけ必要であること。
の理由から、教科学校種をとわず情報の科学的理解は必須の資質・能力である。
 現行法上、免許教科によらず学ぶ教職課程の科目のうち関係するものとしては「情報機器の操作 2単位」があるが、この名称では単なる機器の操作能力のみを学ぶものととらえられざるをえない。このためより望ましい名称として「情報の科学的な理解 2単位」とし、その内容もその名称にふさわしいものを求め、それにより教科学校種によらず情報の科学的理解を育成してゆく必要がある。
以上
 

2016年10月7日
文部科学省初等中等教育局教育課程課 御中
一般社団法人 情報処理学会
会 長  富田 達夫

意見の分類:○24 第2部 2.(17)総合的な学習の時間

意見:
 「総合的な学習の時間」の「具体的な改善事項/教育内容の改善・充実/教育内容の見直し」の一つとして「情報活用能力の育成、プログラミング的な思考や社会との関わりの視点」という項目が設置され(p.330)、その中で情報活用能力の習得、情報手段の操作、及び「プログラミング的思考」を育むための小学校段階におけるプログラミング体験について明確な言及がなされた点に賛意を表したい。特に小学生段階でのプログラミング体験については、限られた時間の中で「探究的な学び」としての実効性を持たせる観点から、「総合的な学習の時間」での実施可能性を明記された点には大きな意味があると考える。
 一方で、最前段の「学習の過程において情報手段の操作もできるようにすることが求められる」という記述においては、「情報手段の操作」について、あたかも一定のアプリケーション操作を行わせればよい(その質は問わない)といった限定的な解釈を導いてしまう可能性を危惧する。この点については、情報関連科目における教育内容との連携を強調する立場から、プログラミングを含めた「情報の科学的な理解に基づく情報手段の合理的な活用もできるようにすること」を求めるべきではないかと考える。
以上