トランザクションの基本的な考え方

トランザクションの基本的な考え方

研究会論文誌の基本的な考え方

[平成9年12月理事会 論文誌・研究会合同委員会提出資料より]

(1) 背 景 --研究成果公表の方法--

 学会にとって、その学会のカバーする分野の研究成果を学会の名のもとに公表する道を開くことは、会員への重要なサービスの一つである。
情報処理学会には、学会を通した研究成果の公表方法として、全国大会発表、研究会報告・シンポジウム・ワークショップ、論文誌への論文掲載等がある。

  このうち情報処理学会論文誌は、学会の名のもとに研究成果をアーカイヴァルな形で公表できる場であり、またわが国最高の質と最大の発行部数を誇る情報処理 関係学術雑誌として、多くの研究成果を世に問うてきている。最近では、論文誌編集委員会関係者等の努力によってゲストエディタ制度の実施等の改革が進めら れており、学会全体に関わる基幹的・統括的な研究評価の機能を果たす役割はますます大きくなっている。

 また研究会報告等 は、ますます多様化・複雑化しつつ急速に発展している情報関連分野の最前線の研究成果を公表し、研究のその後の進展と興味を持つ人々への広報を図るための 場となっている。研究会報告等の活動を行っているのは調査研究運営委員会がサポートする27の研究会といくつかの研究グループ(平成9年度現在)である。
最近では、それらがカバーする分野は、基礎理論、アーキテクチャ、プログラミング言語、分散システム等の計算機プロパー分野、またマルチメディア、 ヒューマンコンピュータインタラクション、大規模データベース、CG、セキュリティ等の情報環境関連分野、さらには人文科学、教育、音楽、知的財産権等の 人文・社会・芸術・教育分野等広範にわたり、研究成果公表についての方法、基準、読者等もきわめて多彩な方向を要求するようになってきている。特に、情報 環境や人文社会芸術等の分野は、情報関連分野としての研究公表の方法自体確立されていないのが現状である。また、従来の研究論文の形式にあてはまらない研 究公表スタイルが増えてきていることも現在の状況になっている。

  こうした背景を顧みると、研究評価のバックボーンを支える基幹論文誌としての学会論文誌を重視しつつ、その上で、ますます広がってゆく情報関連分野の多様 な研究成果を情報処理学会の名のもとに公表できる場をさらに大きく開いていくことが、研究のフロンティアを開拓し議論を重ねる学会会員の活動の活性化と、 今後ますます多様化・広範化すると思われる情報関連分野を取り込むべき情報処理学会の将来にとって、きわめて重要であると考えられる。
学会の外でも、たとえば学術研究行政を担当する文部省は、学術審議会に新たに情報学部会(情報処理部会ではなく情報工学部会や情報科学部会でもない)を 設置して、わが国の情報学のあり方と推進方策を議論している。科学技術・産業関連省庁もまた、従来の理工系に限らずさまざまな分野 について情報関連研究の推進についてさまざまな努力を重ねている。

(2) 研究会論文誌発行提案への経緯と考え方 -- 新しい多様な価値の創造に向けて --

上 記の状況のもとで、学会将来ビジョン委員会および研究会将来ビジョン委員会における議論を踏まえたうえで、平成9年6月、調査研究運営委員会は研究会論文 誌発行の検討を開始し、研究会の活性化を目的として、各研究会が独自の方法、評価基準によって論文誌(将来は「誌」というような紙媒体だけではなくなるだ ろう)を発行できるようにすることを論文誌編集委員会との合同委員会に提案した。

 合同委員会はこれを受けて、現在の学会論文誌に加え、なんらかの形で研究会の活性化向上に資することを目的に研究会論文誌を発行することを認めることとし、研究会論文誌発行の件が平成9年9月の理事会に提案された。

 同理事会ではこの合同委員会提案を受けて、高橋延匡副会長を委員長とする拡大合同委員会の設置を決定した。

 拡大合同委員会で研究会論文誌のあり方を含めて議論された骨子は概ね以下のようにまとめられる。

 情報処理学会にとって、また情報関連分野にとっても、基幹的・統括的な研究評価による論文の出版を基幹論文誌によって行っていくことは重要である。

  しかし一方で、特にさまざまな分野に通底する情報の概念と方法を扱う情報関連分野では、時代とともにさらに新しい公表のしかたを求め、基幹論文誌とともに 新しい多様な価値を創造していくことが、これからの社会への情報関連研究者の最も重要な貢献の一つであり、またわが国の情報関連分野を代表する情報処理学 会にとっての重要な役割の一つである。

 特にこれからの社会は、従来の情報科学や情報工学に加えてさらに人間と社会をター ゲットにした情報 関連の研究を求めている。情報処理学会は、情報科学・工学のコアから情報のコンテンツ、人間・社会に関連した情報までを広範に扱う学会として、情報に関連 するあらゆる新たな研究活動を内包していけるような新たな学会に生まれ変らなければならない。

 拡大合同委員会では、上のような思想をも含めて議論を重ねた結果、「新しい多様な価値を創造し、しかも価値創造の評価を固定化せずに時代とともに再構成していく組織」が、情報処理学会の新たなあり方であるという合意を得た。
また同時に、若い世代にインセンティブを与え、新たな価値を創造するアクティビティを受け継いでいくことが重要であるとの合意を得た。
その上で拡大合同委員会は、論文誌編集委員会と調査研究運営委員会をともに情報処理学会における新しい多様な価値の創造を直接的に担う部門とみなし、上 記の合意を具体化するための方策の一部として基幹論文誌の改革および研究会論文誌の発行を位置づけることとした。特に基幹論文誌は、基幹的・統括的評価基 準のもとで研究成果を公表する場として重要であること、これに対して研究会論文誌は、基幹論文誌ではカバーしきれないほど多様化・広範化してゆく情報関連 分野の研究成果を公表するためのさらなるアーカイヴァルな場として機能すべきであることが了解された。

 こうして拡大合同委員会は、「新しい多様な価値の創造」への研究会の貢献を支援する研究会論文誌の提案を、情報処理学会の今後の発展にとっても重要なものと認識し、平成10年4月からの実施を平成9年10月の理事会に提案した。

  研究の公表を論文によって行う慣習は、19世紀から20世紀にかけての学会組織の発展とともに制度化が進んできたものであり、多くの学会がいわば自然科学 系に近い形で研究成果を公表するようになっている。しかし、ますます広がりつつある情報関連分野では、従来の科学・工学系の研究成果公表方法がむしろ制約 になってきている場合も多く現われている。

 このことを念頭に置き、情報処理学会は、産業界・学界・その他を問わず、志を高 くして情報関連分野 に新たな学術研究方法の潮流を創るための活動を積極的に行うべきであり、研究成果の公表の方法についても、コンピュータを直接対象とする分野のみならず、 マルチメディア・情報環境・人文科学・社会科学・生命科学・医学・芸術・教育・その他、情報の概念と方法が浸透しつつある分野と、現在の会員だけでなく会 員予備軍まで含めた多様性を考慮して、多様な方法が提示されるようにするべきである。

 情報関連分野の急速な拡大と多様化に対して情報処理学会が真にリーダーシップを持つためには、基幹的・統括的な価値基準を一方に持ちつつ、他方ではさまざまな分野が、多様な価値基準を自ら創造していく努力を重ねることが肝要である。

研究会論文誌の発行はこうした考え方のもとに行われるものであり、論文誌編集委員会のさまざまな努力とあいまって、情報処理学会全体の真の活性化に通じるも のと確信する次第である。

以 上

情報処理学会論文誌の投稿および購読のご案内

ジャーナルとの棲み分けについて [会誌Vol.41 No.4(平成12年4月号)付録会告掲載]

論文誌編集委員会
調査研究運営委員会

  本会では、情報関連分野の急速な拡大と多様化に対応すべく、研究部門(論文誌・研究会)の改革の 一環として、平成10年度より研究会が主体となっていくつかの新しい論文誌(研究会論文誌)を発行してまいりました(『情報処理』Vol.39 No.2参照)。平成11年度に入って各々の論文誌の発行体制も充実しつつあり、また、購読システムも改善されて研究会登録会員以外の皆様にも広くご購読 いただけるようになりました。一方従来の論文誌もさまざまな改革を行い、査読期間の短縮、投稿・採録論文数の増大等、多くの成果をあげております。
こうして、従来からの論文誌と研究会論文誌が相携えて、研究公表と交流の新たな場を提供していくこと が成功裡に走り出していることは、多くの関係者の認めるところとなっております。
今年創立40周年を迎える本会が、21世紀に真のリーダーシップを発揮するためには、一方で基幹的・包括的な価値基準を創りつつ、他方ではさまざまな分 野が多様な価値基準を自ら創造する努力を重ねていくことが肝要です。特に、多様な価値観を許容するとともに新しい多様な価値を創造し、また価値創造の評価 を固定化せずに時代とともに再構成していくことが、本会の新しい行き方でありましょう。新たな論文誌のあり方は、学会のこうした新しい方向を体現するもの であります。
新しい出発の時を迎える創立40周年の節目にあたり、本会では研究部門を中心に検討を重ねた結果、このたび両論文誌をそれぞれ「ジャーナル」、「トラン ザクション」と通称するとともに、両論文誌の性格を、以下のようにより分かりやすく会員の皆様にお伝えすることといたしました。
本会の論文誌をこのような形で発行してゆくことは、本会が将来にわたってカバーしてゆくべき学術的領域の拡がりを考慮して、「多様な価値観の許容」と 「新しい多様な価値の創造」に資することを目的としたものであり、会員の皆様に研究公表と交流の多様な場を提供するためのものであります。条件が整い次 第、多数のトランザクションの発行を予定しておりますので、会員の皆様には目的にあった論文誌を選択いただき、ご投稿、およびご購読いただきたく存じま す。
会員各位のご理解とご協力をお願い申し上げます。

[従来の論文誌]
和文名称 情報処理学会論文誌(通称:ジャーナル)
英文名称 IPSJ Journal
扱う分野 独創性や有用性など従来の伝統的な査読基準で広く情報分野の論文を採録する。境界・複合領域 の論文や新しい研究分野の論文については、新しい価値基準を模索しつつ、積極的に受け入れる。
また、適宜特集号を発行し、境界・複合領域や新 しい研究領域などの積極的な掘り起こしを図るとともに、特定分野の「トランザクション」発行へのインキュベーション的役割を果たす。
[研究会論文誌]
和文名称 情報処理学会論文誌:サブタイトル(通称:トラ ンザクション)
英文名称 IPSJ Transactions on サブタイトル
扱う分野 特 定の研究分野における専門性を重視し、それぞれの分野に応じた多様な論文形式と査読基準のもとに、各分野の新たな発展を先導する論文を採録する。各分野の 発展に資するとともに、研究公表の新たな場として、情報に関わるさまざまな分野における新しい多様な価値の創造を図ることを目標とし、基幹的論文誌として の「ジャーナル」の発行を多様な形で支える役割を果たす。