「秘密分散データベースの構造演算を可能にするマルチパーティプロトコルを用いた関係代数演算」

2010年度論文賞受賞者の紹介

「秘密分散データベースの構造演算を可能にするマルチパーティプロトコルを用いた関係代数演算」

[情報処理学会論文誌 Vol.51, No.9, pp.1563-1578]
[論文概要]

 データベースは個人情報や機密情報を集積しており,そこからの情報漏洩の防止は重要な課題である.従来,データベース内の情報に暗号化や秘密分散を施し,正規の利用者だけにその復号を許す方法が存在するが,正規の検索機能も限定されるという問題があった.本論文では,秘密分散された情報の間の演算がマルチパーティ計算によって実現できる点,データベースの基本的な検索機能が関係代数に帰着する点に着目した.秘密分散された情報の間の関係代数演算をマルチパーティ計算によって実現し,秘密分散データベース上で,データを一度も復号することなく,全ての基本的な検索機能を実現可能にした.



[推薦理由]

 現在広く利用されているモデルのデータベースの利用において,機密性の確保は重要な課題の一つである.一般に,データベースの情報を暗号化及び分散化することによって機密性を確保できるが,それにより,データベースにおける検索処理が制限されてしまう難点があった.この課題を解決すべく,本論文では,秘密分散データベースにおける関係代数演算を可能とするマルチパーティープロトコルを実現した.提案方式の新規性についての高い評価に加え,論文中での安全性,計算量及び通信量の評価により裏打ちされる有用性についても,高く評価する声が数多くあった.よって,本論文を論文賞として推薦する.

志村 正法 君

 2008年電気通信大学電気通信学部人間コミュニケーション学科卒業.2010年電気通信大学大学院電気通信学研究科人間コミュニケーション学専攻博士前期課程修了.現在,株式会社 日立製作所公共システム事業部に勤務.

宮崎 邦彦 君

 1998年東京大学大学院数理科学研究科修士課程修了.同年(株)日立製作所入社.同社システム開発研究所にて,暗号,情報セキュリティなどの研究に従事.現在,同社横浜研究所所属.2006年東京大学大学院情報理工学系研究科博士課程修了.博士(情報理工学).電子情報通信学会会員.

西出 隆志 君

 1997年東京大学理学部情報科学科卒業.同年日立ソフト株式会社入社.セキュリティ,ネットワーク製品の設計開発に従事.2003年南カリフォルニア大学修士課程修了.2008年電気通信大学博士(工学).2009年より九州大学大学院システム情報科学研究院助教.暗号,コンピュータセキュリティ等の研究に従事.ACM,電子情報通信学会,各会員.

吉浦 裕 君

  1981年東京大学理学部情報科学科卒業.日立製作所を経て,現在,電気通信大学情報理工学研究科教授.情報セキュリティ,プライバシー保護の研究に従事.博士(理学).日立製作所社長技術賞(2000年),本学会論文賞(2005年)等受賞.電子情報通信学会,日本セキュリティ・マネジメント学会,システム制御情報学会,人工知能学会,IEEE各会員.