「遠隔ユーザのジェスチャの可視性を向上させる手法の提案と評価」

2011年度論文賞受賞者の紹介

「遠隔ユーザのジェスチャの可視性を向上させる手法の提案と評価」

[情報処理学会論文誌 Vol.52, No.1, pp.97-108]
[論文概要]

 対面協調作業においてテーブル上の作業領域の共有が有効であることが示されている.遠隔においても同様な環境を実現することが望まれており,これまでに遠隔地間でテーブル面を共有する様々なビデオシステムが提案されてきた.しかし,遠隔ジェスチャは二次元映像として表示されるために見逃されやすい上,見えていたとしてもジェスチャ映像が実物や人の手などに隠れて見えなくなってしまう状況が頻発する.本論文では,このような不可視性に関する問題を緩和するための手法として,Remote Lagを提案する.Remote Lagとは,一瞬前の遠隔ジェスチャの映像を現在の映像に重ねて表示する手法を指す.本研究では,Remote Lagの効果を検証するために,Remote Lagを表示した条件と表示しない条件における遠隔作業指示を比較する実験を実施した.実験データを分析した結果,ユーザがRemote Lagを用いることによって不可視の状態から遅延なく復帰できる場面が多数発見された.また,Remote Lagを表示させた条件では作業者による質問や指示者の指示発話が減少するなどの効果が認められた.




[推薦理由]

 遠隔でのテーブルトップインタフェースを介した共同作業において,遠隔ジェスチャを不可視にする2つの要因である,(1)注意の離脱,(2)オクルージョン,を明らかにして,これらの問題を緩和するためにRemote Lagという手法を提案した論文である.提案手法の有効性を確認するために,発話効率,認知的な負荷という尺度で被験者による評価を行い,その効果が統計的に有意であることを示すとともに,今後の課題と発展の方向性も明らかにしている.全体的に丁寧に記述されており,得られた知見の有用性と合わせて論文としての価値が高いことから,論文賞候補に相応しいと判断した.

山下直美 君

 2001年 京都大学情報学研究科数理工学専攻修士課程修了.同年より日本電信電話株式会社入社,コミュニケーション科学基礎研究所研究員.2006年,京都大学情報学研究科社会情報学先行博士後期課程修了.博士(情報学).CSCWやHCIの研究に従事.平成23年度情報処理学会長尾真記念特別賞を受賞.

梶克彦 君

 2002 年名古屋大学工学部電気電子工学科卒業.2007 年同大学大学院情報科学研究科博士課程修了.博士(情報科学).同年 NTT コミュニケーション科学基礎研究所リサーチアソシエイトを経て,2010 年より 名古屋大学大学院工学研究科助教.遠隔ビデオコミュニケーション,屋内位置推定,Webアノテーションに関する研究に従事.

葛岡英明 君

 1992年東京大学大学院工学系研究科情報工学専攻博士課程修了.博士(工学).同年筑波大学構造工学系講師.現在,筑波大学システム情報系教授.日本バーチャルリアリティ学会理事,ヒューマンインタフェース学会理事.CSCW,HRI,VR,その他HCIの研究に従事.

平田圭二 君

 1987年東京大学大学院工学系研究科情報工学専門課程博士課程修了.工学博士.同年NTT基礎研究所入所.1990〜93年(財)新世代コン ピュータ技術開発機構(ICOT)に出向.2011年より公立はこだて未来大学教授.NTTではビデオコミュニケーションシステムt-Roomプ ロジェクトを率いる.平成13年度論文賞,2005〜07,2011〜本会理事,フェロー.現在,数理音楽学に興味を持つ.

青柳滋己 君

 1965年生.1988年東京工業大学理学部情報科学科卒業.1990年3月同大学大学院理工学研究科情報科学専攻修士課程修了.同年,日本電信電話株式会社入社.現在,同社コミュニケーション科学基礎研究所に所属.複合メディア情報処理の研究に従事.電子情報通信学会,情報処理学会,日本ソフトウェア科学会各会員.