「患者固有の形状データに基づく手術手技訓練用シミュレータ」

2012年度論文賞受賞者の紹介

患者固有の形状データに基づく手術手技訓練用シミュレータ

[情報処理学会論文誌 Vol.53 No.1, pp.421-431]
[論文概要]

 患者の解剖学的形態を模擬したモデルを用いて術前訓練が可能なシミュレータを開発し評価を行った.実用化されている手術シミュレータは,構成技術の核となる変形計算に処理時間の制約から質点ばねモデルを用いる必要があり,これに起因する数値計算の不安定性のため,診断CTデータから自由にモデルを作ることができない大きな課題があった.生体変形の非線形性を線形の枠組みで近似する有限要素モデルを計算アーキテクチャに依存しない方法で並列化することにより,モデル形状の複雑さに係りなく計算を安定させ,患者に固有な血管本数,走行状態に適合したモデルを用いた術前訓練が可能となった.


[推薦理由]

 実用レベルのモデルサイズで大変形が可能な有限要素法を並列実装することにより、診断画像データから自由にモデルを作成できるようにした優れた論文である。これにより、患者固有のデータを短時間に作ることができ、今まで困難であった実際の患者に適合したリアルな手術前シミュレーションを可能にした。情報システム分野の論文としての新規性・有用性の高さに加えて、医療技術の高度化に大きく寄与することも見込まれることから、情報処理学会の論文賞に相応しいと判断し、推薦する。

緒方正人 君

 昭和45三菱プレシジョン入社.主にフライトシミュレータとその構成技術であるコンピュータグラフィックス,並列処理等の研究開発に携わり,現在手術シミュレータの研究開発に従事.主管技師長,横浜市立大大学院医学研究科客員教授.IEEE C.S. , ACM各会員.技術士(情報工学),横浜国大 工博.

長坂学 君

 平成13年静岡大学大学院理工学研究科機械工学専攻修士了.同年三菱プレシジョンへ入社し,フライトシミュレータの研究開発に携わり,現在手術シミュレータの研究開発に従事.横浜市立大学医学研究科客員研究員.

乾谷徹 君

 平成20年横浜国立大学環境情報学府修士了.同年三菱プレシジョンへ入社し,コンピュータビジョンの研究を経て,現在手術シミュレータの研究開発に従事.横浜市立大学医学研究科客員研究員.

坂本英男 君

 平成19年山口大学大学院理工学研究科感性デザイン工学専攻修士課程修了.同年三菱プレシジョンへ入社し,現在,手術シミュレータの研究開発に従事.

高波健太郎 君

 平成14年群馬大学大学院工学研究科電気電子工学専攻修士課程修了.同年三菱プレシジョン(株)へ入社し,フライトシミュレータ及び鉄道シミュレータの研究開発に携わり,現在は手術シミュレ-タの研究開発に従事.日本医用画像工学会,電子情報通信学会各会員.

槙山和秀 君

 平成6年横浜市立大学医学部卒.泌尿器外科学,特に腹腔鏡手術を専門とし手術シミュレータの研究開発等に従事.日本泌尿器科学会認定指導医.現在,横浜市立大学医学研究科泌尿器病態学准教授.日本泌尿器科学会,米国泌尿器科学会会員,医博.

窪田吉信 君

 昭和49年横浜市立大学医学部卒,同研究科了,同大助手,南カリフォルニア大学医学部癌センター 研究員を経て泌尿器病態学教授.腎癌・前立腺癌に関する研究,光触媒の医療応用および手術シミュレータに関する研究等に従事.日本泌尿器科学会,米国泌尿器科学会会員.横浜市大附属病院泌尿器科部長,医博.