「フェロモン・コミュニケーションによるロボット群の協調運搬」
2012年度論文賞受賞者の紹介
フェロモン・コミュニケーションによるロボット群の協調運搬
[情報処理学会論文誌 数理モデル化と応用 Vol.4 No.4 pp.10-18]
[論文概要]
蟻は,フェロモン用いてコミュニケーションすることが知られており,その社会は高度に洗練されている.このコミュニケーションは,フェロモン・コミュニケーションと呼ばれている.群れは,個体の内部状態を遷移させることによって総体の状態を複雑に変化させることができ,外的な問題に対して柔軟に対応する.本論文では,我々はロボット群に焦点を当て,そのロボット群が化学物質を用いて協調運搬を実現する.新規に設計した群行動アルゴリズムによって現実のロボット群は餌を蟻の巣に模した場所まで協調運搬する.我々は,ロボット群が餌を発見して巣に持ち帰るまでの時間(タスク解決時間)に注目し実験をした.その結果,環境中の個体密度が低いときにフェロモン・コミュニケーションが有効に働くことを発見した.そして,システムのロバスト性や柔軟性を評価する実験,アルゴリズムの効果を検証した.
[推薦理由]
ロボット間のコミュニケーションは,有線・無線通信を用いることが一般的であった.本研究では,アリやシロアリなどの真社会性昆虫が行っているフェロモン・コミュニケーションというシンプルなモデルを用いて相互コミュニケーションを実現し,安価なロボットを開発し,実機実験を実際に行っている.実験の結果,環境中の個体数が増加するとフェロモン・コミュニケーションを用いることの有効性が薄れることを示した.この結果は,自然界のアリの行動と一致する点があるという興味深い結果を出したというところに研究としての完成度の高さを
本編集委員会は認めた。
藤澤隆介 君
昭和55年生.平成21 年3 月電気通信大学大学院電気通信学研究科知能機械工学専攻博士後期課程修了.平成21 年4 月から八戸工業大学(機械情報技術学科) 助教となり,現在に至る.主に,群行動アルゴリズム・群ロボット・群知能などの研究に従事.平成20 年情報処理学会 第71 回数理モデルと問題解決研究会プレゼンテーション賞,平成22 年第58 回工学・工業教育研究講演会 JSEE 研究講演会発表賞工学・工業教育研究講演会,平成22年度八戸工業大学教育論文賞を受
賞.IEEE,情報処理学会,日本ロボット学会,計測自動制御学会などの会員.博士(工学)
今村光 君
昭和59年生.平成21 年3 月電気通信大学大学院電気通信学研究科知能機械工学専攻博士前期課程修了.群行動アルゴリズムを用いた群ロボットの研究・開発に従事.平成21 年4 月から株式会社デンソー勤務.
松野文俊 君
昭和32年生.昭和61 年大阪大学大学院基礎工学研究科博士課程修了.大阪大学,神戸大学,東京工業大学,電気通信大学を経て,平成21 年4月から京都大学(工学研究科機械理工学専攻) 教授となり,現在に至る.主に,ロボティクス・制御工学・レスキュー学の研究に従事.1993 年度システム制御情報学会論文賞,2001 年度・2006 年度計測自動制御学会論文賞,2001 年度同学会武田賞,2006 年度船井情報科学振興賞,2009 年日本機械学会ロボメカ部門学術業績賞などを受賞.IEEE,日本ロボット学会,計測自動制御学会などの会員.工学博士.