「視覚特性に基づく高効率映像圧縮伝送システム」

2018年度論文賞受賞者の紹介

視覚特性に基づく高効率映像圧縮伝送システム

[情報処理学会論文誌 Vol.59 No.7, pp.1425-1434]
[論文概要]

 人間の視野における解像度は視野中心で最も高く,周辺部ほど低下する.この視覚特性に基づき,視野周辺の映像の解像度を削減するFoveated Imaging 処理(FI 処理)と呼ばれる画像処理技術がある.本論文では,フルHD 映像を対象に主観的な解像感を維持したまま伝送ビットレートを削減するために,エンコード前の映像にFI 処理を適用した映像圧縮伝送システムを構築している.さらに,このシステムの有効性を評価するために, Degradation CategoryRating法と呼ばれる主観画質の評価手法を用いて,基準映像に対するFI 処理を適用した映像の画質劣化を5段階で評価している.その結果, Degradation Mean Opinion Score(DMOS)の平均値が4.25 と画質劣化が気にならないレベルの画質を維持しつつ,9.2~44.7%の伝送ビットレートの削減効果を確認している.

[推薦理由]

 本論文では,動画像を観るユーザーの注視点付近の解像感を維持しつつ周辺画像の解像度を下げることで動画像の伝送ビットレートを削減する手法を提案している.
さらに,提案手法を適用したシステムをFPGAを使って構築し,そのシステムで評価を行った結果,画質について劣化が気にならないレベルを保ちつつも,伝送ビットレートを削減することに成功している.
提案手法を実システムとして構築したことに加え,有用性の検証結果も優れたものであり,今後の実用化に向けて期待ができる内容であることから,論文賞に相応しい論文として推薦する.

岡田 光弘 君

 2004 年東京理科大学理工学部電気工学科卒業.2006 年同大学大学院修士課程修了.同年(株)日立製作所に入社.画像の高効率符号化及びリコンフィギャラブルコンピューティングに関する研究に従事.情報処理学会会員.

佐藤 拓杜 君

 2013 年東北大学工学部情報知能システム総合学科卒業.2015 年同大学大学院修士課程修了.同年(株)日立製作所に入社.画像処理及びセンサデータからの行動解析に関する研究に従事.情報処理学会会員.

稲田 圭介 君

 1993 年大阪大学大学院工学部通信工学科卒業.1995 年同大学大学院工学研究科通信工学専攻修士課程修了,同年(株) 日立製作所入社,現在に至る.映像信号および符号化処理技術の研究開発に従事.映像情報メディア学会会員.

谷田部 祐介 君

 1999 年 東京理科大学理工学部電気工学科卒業.2001 年同大学大学院理工学研究科修士課程修了.2018 年大阪府立大学大学院工学研究科電気・情報系専攻博士課程修了.現在,(株)日立製作所に勤務.画像圧縮伸張技術,映像認識技術の研究開発に従事.映像メディア学会,情報処理学会会員.

伊藤 浩朗 君

 1990 年横浜国立大学工学部電子情報工学科卒業.1992 年同大学大学院修士課程終了.(株)日立製作所を経て,2017年に日立オートモーティブシステムズ(株)に入社.自動運転システムの開発に従事.映像情報メディア学会会員.

小味 弘典 君

 1992 年大阪府立大学電気工学科卒業.1994 年同大学大学院修士課程修了.(株)日立製作所を経て,2018 年(株)日立産業制御ソリューションズに入社.映像圧縮伸張技術,映像メディア処理の開発に従事.1999~2000 年南カリフォルニア大学客員研究員.映像情報メディア学会会員.