「文書を読む際に漢字字形再学習を促進する誤字形文字の生成・活用手法」
2023年度論文賞受賞者の紹介
文書を読む際に漢字字形再学習を促進する誤字形文字の生成・活用手法
[情報処理学会論文誌 Vol.64 No.3, pp.788-797]
[論文概要]
近年,漢字を読むことはできるが書くことができない「漢字健忘」が社会問題になっている.この問題を解決するために,本論文では文書を読むだけで漢字の字形記憶を効果的に修正・強化することができるようにする手法SwaPSを提案した.SwaPSでは,漢字全体の80%を占める形声字に着目し,形声字を構成する意符と音符の位置を入れ替えることによる字形変形手法によって誤字形文字(PS字形文字)を生成し,これを文書中に混入させる.ユーザスタディの結果,PS字形文字を混入した文書を読むと,正しい字形の文字のみを含む文書よりも漢字字形の記憶が強化され,かつ負荷が増加しないことが確認された.
[受賞理由]
漢字を書く機会が減ってきている現代において,いざ書こうと思った漢字を思い出せずに手が止まることは身近な問題である.本論文では,字形記憶を強化するための誤字形文字生成手法を提案しており,生成した誤字形文字を文章中に混ぜることで,文章を読むだけで漢字の記憶を強化できることを示した.このとき,誤字形文字による読解負荷が増加しないことも確認されており,今後の発展により日常的な活用も期待できる.論文として新規性と有用性がともに高く,論文賞としてふさわしいものと判断し,ここに推薦する.
魏 建寧 君
2013 年北陸先端科学技術大学院大学博士前期課程修了.同年日本サード・パーティ(JTP 株式会社)入社.2021年 JAIST 次世代特別研究員.2023 年北陸先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科博士後期課程修了.2024年日本学術振興会特別研究員(RPD)採用予定. 博士(知識科学).
西本 一志 君
1987年京都大学大学院工学研究科機械工学専攻博士前期課程修了.1999年より北陸先端科学技術大学院大学助教授,2007年より教授.1999年度情報処理学会坂井記念特別賞,1999年度人工知能学会論文賞,ACMマルチメディア2004最優秀論文賞,第14回ヒューマンインタフェース学会論文賞,ほか受賞.博士(工学).本会フェロー.
高島 健太郎 君
2010年東京工業大学大学院社会理工学研究科博士前期課程修了.同年日本アイ・ビー・エム株式会社入社.2016年東京工業大学大学院社会理工学研究科博士後期課程修了.同年東京農工大学大学院工学研究院特任助教.2017年北陸先端科学技術大学院大学助教,講師を経て2023年東京理科大学講師.日本経営工学会,経営情報学会会員.博士(工学).