「印鑑と電子印鑑の歴史と類似性の分析」(Vol.42,No.8)

平成13年度論文賞受賞者の紹介

「印鑑と電子印鑑の歴史と類似性の分析」(Vol.42,No.8)

[論文概要]
 インターネットの普及に伴い拡大している電子商取引の安全性を確保するための基本技術が電子印鑑(米国ではデジタル署名)である。その電子印鑑をさらに使いやすく、安全なものにするため、(1)印鑑と電子印鑑に関し、それぞれの歴史と基本機能、登録と証明方法、不正使用方法などを調査し、(2)その上で、それらの類似性と相違点を比較分析した。その結果、電子印鑑の(1)証拠能力持続に関する信頼性の向上対策や、(2)捺印の実感欠如対策等が重要な課題であること等を明らかにするとともに、研究の報告づけを行うことができた。

[推薦理由]
 電子政府の実現が進む昨今, PKI(公開鍵暗号基盤)は電子社会の要である. そのPKI上の主たる応用である電子印鑑(デジタル署名)は, 主に電子商取引での使用を目的とした技術で, 取引当事者が, 取引内容を承知し, 改ざんが行われていないということを証明する. 今後, 電子投票など様々な応用が見込まれる重要な技術である. 本論文は, 現在の印鑑と電子印鑑技術について, それぞれの歴史的背景を示し, 機能,登録や証明および無効化,不正等の点についての比較および考察を行った. さらに, 今後の課題を論じ, 本研究分野における研究の指針を示した. 現在のセキュリティ技術を熟知した著者等によるこれらの指針は, 信頼性が高く, 有用である. 今後の本研究分野の核となる論文である.

佐々木 良一君  昭和46年東京大学卒業。日立製作所システム開発研究所にてネットワーク管理やセキュリティ等の研究開発に従事。同研究所第4部部長や、主管研究長などを経て2001年4月より東京電機大学工学部教授。工学博士(東京大学)。昭和58年電気学会論文賞受賞。平成10年電気学会著作賞受賞。著書に、「インターネットセキュリティ入門」岩波新書1999年等。

宝木 和夫君 1977年東京工業大学大学院修士課程修了。同年、日立製作所入社、システム開発研究所に配属。以降、システム安全性の研究に従事し、このテーマで、1986年、東京大学より工学博士号取得。その後、衛星放送暗号方式、楕円曲線暗号、その他、情報セキュリティ技術の研究開発に従事。現在、同研究所7部(セキュリティシステム研究部)部長、また、政府調達暗号CRYPTREC委員会委員などを兼務。著書は、ファイアウォール(昭晃堂)、インターネットセキュリティ(オーム社)など。