「Heterogeneous Multi-Computer Systemにおける重力効果を含む宇宙輻射流体計算」(Vol.43,No.SIG6(HPS5))

平成14年度論文賞受賞者の紹介

「Heterogeneous Multi-Computer Systemにおける重力効果を含む宇宙輻射流体計算」(Vol.43,No.SIG6(HPS5))

[論文概要]
 HMCS (Heterogeneous Multi-Computer System)は,汎用と専用の両タイプの超並列計算機を並列ネットワークによって結合したハイブリッドシステムであり,それぞれの特徴を活かした従来の枠を超えた処理性能をもたらす.我々は,超並列計算機CP-PACS (614GFLOPS)と,重力計算専用計算機GRAPE-6 (8TFLOPS)を結合したHMCSプロトタイプを実装し,自己重力を含む輻射流体シミュレーションという,極めて複雑な銀河初期形成シミュレーションを世界で初めて行った.この結果,同システムがユーザに対する簡便なプログラマビリティをもたらしつつ,非常に高い計算性能を提供することを確認した.

[推薦理由]
 本研究では,重力効果を含む宇宙輻射流体計算を行うために科学技術計算用超並列計算機CP-PACSと重力計算専用計算機GRAPE-6を結合し,Heterogeneous Multi-Computer System (HMCS)を構築して,その性能を評価している. LSI技術の進歩と低廉化により専用計算技術に期待が集まっている現在,専用計算技術と汎用計算技術の融合は,広く将来の高性能計算機システム構築に寄与しうる重要な研究テーマである.また本論文は,実応用に供される大規模システム構築の記録であり,高い信頼性が認められる労作である.論文の端々から読み取れるように,この種の大規模システム構築では多くの現実的困難や試行錯誤を乗り越えなければならない.その意味でも敬意を払われるべき論文である.

朴 泰祐君  1984年慶應義塾大学工学部電気工学科卒業.1990年同大学大学院理工学研究科電気工学専攻後期博士課程修了.工学博士.同大学理工学部物理学科助手,筑波大学電子・情報工学系講師を経て,1995年同助教授,現在に至る.並列処理アーキテクチャ及び性能評価,ハイパフォーマンスコンピューティングの研究に従事.電子情報通信学会,日本応用数理学会,IEEE各会員.

牧野 淳一郎君  1990年東京大学大学総合文化研究科博士課程修了,博士号取得.東京大学教養学部助手,同教養学部助教授を経て,現在東京大学大学院理学系研究科天文学専攻助教授.専門は理論天文学,特に球状星団,銀河中心などの高密度恒星系の進化.1995, 1996, 1999--2001年ゴードンベル賞受賞.1998 年日本天文学会林忠四郎賞受賞.

須佐 元君  1994年京都大学理学部卒業後,1997年京都大学理学研究科物理学宇宙物理学専攻で理学博士取得.2000年4月より筑波大学で助手,2002年4月より立教大学理学部物理学科専任講師.専門は宇宙物理学の理論的研究.特に輻射流体の問題としての銀河および第一世代天体の形成を研究課題としている.

梅村 雅之君  筑波大学計算物理学研究センター教授.昭和32年生.昭和62年北海道大学大学院博士課程修了.理学博士.昭和63年国立天文台助手.平成5年筑波大学計算物理学研究センター助教授.平成14年より現職.専門は理論宇宙物理学.特に宇宙輻射流体力学による銀河形成,宇宙構造形成の研究に従事.

福重 俊幸君  1996年東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻で学術博士取得.1996年4月より6月まで日本学術振興会特別研究員.1996年6月より東京大学大学院総合文化研究科助手,現在に至る.専門は宇宙物理学の数値シミュレーションを使った研究,そのための専用計算機の開発など.1996年および 1999--2001年ゴードンベル賞受賞.

宇川 彰君  東京大学理学部物理学科,同大学院理学系研究科を経て,1977年理学博士.81年東京大学原子核研究所助教授.84年筑波大学物理学系助教授.90年同教授.98年より筑波大学計算物理学研究センター長.素粒子物理学の数値シミュレーションによる研究を専門とし,CP-PACS計画以来計算機開発にも従事.日本物理学会会員.94年仁科記念賞受賞.