「MPLSを用いた広域分散I Xの実現」(Vol.43,No.11)

平成15年度論文賞受賞者の紹介

「MPLSを用いた広域分散I Xの実現」(Vol.43,No.11)

[論文概要]
 著者らは,IX(Internet eXchange)にMPLS(Multi-Protocol Label Switching)を適用した次世代IXアーキテクチャMPLS-IXを提案してきた.IXは複数のISP(Internet Service Provider)間での相互接続を実現し,効率的にトラフィック交換を行うことを目的として運用されている.MPLS-IXでは,IXに接続するISP がMPLSによる仮想的なパスを確立し,データリンク層に依存しない相互接続環境を提供する.さらに,MPLS-IXでは,柔軟なIXトポロジを構築することが可能であるという特徴を持つ.本稿では,MPLS-IXを用いて階層型IXを実現し,地域IXなどの既存のIXを相互に接続することにより,広域分散IXを実現する手法について提案する.本稿で提案する手法は,既存のリソースを有効に活用し,既存のIXにおける相互接続に影響を与えることなく,広域分散環境での相互接続を可能にする.

[推薦理由]
 本論文の意義は、ネットワーク技術研究分野における最初のMPLS-IXの提案にある。MPLSは、元々、IPネットワークのパケット伝送高速化のために開発され、IETFにおける検討を経て2001年に標準化され、多くのISP等によって採用されている。一方、わが国では、90年代末期から地域内のネットワーク利用環境改善の見地から地域IXの必要性と問題点に関する議論が盛んに行われてきた。このような背景のもとで、この提案が生まれた。従来のIXの運用では、経路情報を交換する複数のASの間でL2LANを共有する必要があったが、MPLS-IXでは、これが広域分散IX網に代わる利点をもち、上記の地域IXの議論への解決策を提供し、また商用IX網サービスを含め、多くの活用展開が期待される。

中川 郁夫君  1968年8月26日生。1991年東京工業大学理学部数学科卒業。1993年東京工業大学大学院総合理工学研究科システム科学専攻修士課程修了。同年(株)インテック入社。同社研究所にてネットワーク管理、大規模経路制御技術、次世代インターネットに関する研究に従事。2002年(株)インテック・ネットコア取締役。理学修士。

江崎 浩君  1963年1月生。1987年九州大学大学院工学研究科修士課程修了。同年(株)東芝入社。1998年東京大学情報基盤センター助教授。2001年東京大学大学院情報理工学系研究科助教授に就任。MPLSおよびIPv6に関する研究開発に従事。WIDEプロジェクトボードメンバー。IPv6普及・高度化推進協議会専務理事。電子情報通信学会会員。工学博士(東京大学、1998)。

菊池 豊君  1992年東京工業大学大学院博士課程単位取得退学。同年より同大学情報工学科助手。1997年より高知工科大学情報システム工学科助教授。地域指向型のインターネットトラフィック交換の研究を行う。情報処理学会DSM研究会幹事。KPIX実験研究協議会会長。博士(工学、東京工業大学、1994)。

永見 健一君  1992年東京工業大学大学院理工学研究科修士課程修了。同年(株)東芝入社。IETF MPLS WGで標準化活動を行い、CSRおよびMPLSに関するRFCを提出。東芝開発センターでMPLSおよびIPv6の研究に従事。2002年(株)インテック・ネットコア入社。工学博士(東京工業大学、2001)。