「チャネル間相関を用いた多チャネル信号の可逆圧縮符号化」 [論文誌Vol.46, No.5, pp. 1118-1128 (2005)]

平成17年度論文賞受賞者の紹介

「チャネル間相関を用いた多チャネル信号の可逆圧縮符号化」 [論文誌Vol.46, No.5, pp. 1118-1128 (2005)]

[論文概要]
 歪みを許さずに元の信号を完全復元できる可逆圧縮符号化法において圧縮率向上のために,多チャネル時系列信号を対象に,各チャネルごとの時間領域の線形予測残差信号のチャネル間相関に基づく適応的差分を柔軟に利用する方法を提案した.通常の2から8チャネルの音響信号,256チャネルの脳磁計信号を対象に本手法の符号化実験を行い,2チャネルを対にした従来のジョイント・ステレオ符号化より圧縮率を最大約3%改善できることを示した.本手法を元にして改良した技術が,国際標準規格であるISO/IEC MPEG-4 Audio Lossless (ALS) の要素技術として組み込まれている.

[推薦理由]
 本論文は、チャンネル間相関を用いた多チャンネル信号の可逆圧縮符号化の新しい方式を提案している。提案方式は、相関の高い多チャンネル信号の中から、特に相関の高いチャネルを選び、そのチャンネル間の予測残差信号の差分をエントロピー符号化することで圧縮率をさらに高めている。相関の高いチャンネルの探索方法にも工夫を凝らし、また探索処理低減に関しても検討すると共に、提案方式を多チャンネル音響信号や脳磁計出力に適応し、その効果を検証している。また、本論文で取り上げている研究は、大学側で方式提案を行い、企業側で標準化活動を行なうという産学連携を活かした研究活動を進めてきている。方式提案から標準化活動という産学連携型の研究推進における意義も大きいと考え、論文賞に推薦する。

鎌本 優 君 2003年 慶應義塾大学理工学部物理情報工学科卒業.2005年 東京大学大学院情報理工学系研究科システム情報学専攻修士課程修了.同年 日本電信電話株式会社入社.信号処理,情報理論に関する研究に従事.現在,NTT コミュニケーション科学基礎研究所勤務.日本音響学会,電子情報通信学会,情報理論とその応用学会各会員.

守谷 健弘 君 1980年 東京大学大学院工学系研究科計数工学専攻修士課程修了.同年 日本電信電話公社入社.音声音響信号の符号化の研究開発に従事.1989年 工学博士.同年 AT&Tベル研究所客員研究員.現在,NTT コミュニケーション科学基礎研究所人間情報研究部長,NTT R&Dフェロー.IEEE (fellow),日本音響学会,電子情報通信学会,情報理論とその応用学会各会員.

西本 卓也 君 1993年 早稲田大学理工学部卒業.1995年 同大学大学院理工学研究科修士課程修了.1996年 京都工芸繊維大学工芸学部助手.2002年 東京大学大学院情報理工学系研究科助手.音声対話システム,福祉情報工学,擬人化音声対話エージェントの研究に従事.電子情報通信学会,日本音響学会,人工知能学会,ヒューマンインターフェース学会各会員.

嵯峨山 茂樹 君 1974年 東京大学大学院工学系研究科計数工学専攻修士課程修了.同年 日本電信電話公社入社.ATR自動翻訳電話研究所音声情報処理研究室長,北陸先端科学技術大学院大学教授を経て,2001年 東京大学教授.現在,同大学大学院情報理工学系研究科教授.音声・音楽・文字・エージェントの信号処理・情報処理の教育研究に従事.博士(工学).電子情報通信学会,日本音響学会,SICE,IEEE,ISCAなど各会員.