「RNA Pseudoknotted Structure Prediction Using Stochastic Multiple Context-Free Grammar」

平成19年度論文賞受賞者の紹介

「RNA Pseudoknotted Structure Prediction Using Stochastic Multiple Context-Free Grammar」

[論文概要]
 RNAの2次構造を文脈自由文法(CFG)でモデル化し、2次構造予測を文法の構文解析に置き換える試みが行われてきた。一方で、塩基配列上で塩基対を表す弧が交差するシュードノットと呼ばれる部分構造が存在し、CFGでは記述できないことが知られている。本論文では、CFGの自然な拡張である多重文脈自由文法(MCFG)を確率モデルに拡張して、確率最大の導出木を求めるアルゴリズム及び確率パラメータ推定アルゴリズムを設計した。また、上記構文解析アルゴリズムを用いて、シュードノットを含むことが知られているRNA配列に対して2次構造予測を行った結果、高い予測精度を示した。

[推薦理由]
 近年、RNAの生体内における重要性が再認識されるに従い、その構造予測がバイオインフォマティクスにおける重要な課題となってきているが、本論文ではシュードノットつきRNA二次構造予測という問題に対し新たなアプローチを示している。具体的には、この問題のモデル化のために、多重文脈自由文法に確率を導入した確率多重文脈自由文法を提案し、その構文解析アルゴリズムおよびパラメータ学習アルゴリズムを与えている。さらに、実際のRNA二次構造データを用いた計算機実験を行い、その有効性を示している。このように本論文ではバイオインフォマティクスにおける重要な課題に対して、新たな理論的アプローチを示し、その有効性を計算機実験により示しており、独創性と有用性を兼ね備えた論文となっている。よって本論文を論文賞に推薦する。

加藤 有己 君  2002年同志社大学工学部電気工学科卒業。2007年奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科博士後期課程修了。博士(工学)。同年、日本学術振興会特別研究員PD。現在、京都大学化学研究所バイオインフォマティクスセンター特定研究員。バイオインフォマティクスに関する研究に従事。

関 浩之 君 1982年大阪大学基礎工学部情報工学科卒業。1987年同博士後期課程修了。工学博士。同年大阪大学基礎工学部助手。同講師、助教授を経て、1994年奈良先端科学技術大学院大学助教授。1996年同教授、現在に至る。形式言語理論、ソフトウェア基礎理論に関する研究に従事。1997年度情報処理学会論文賞受賞。

嵩 忠雄 君 1958年大阪大学工学部通信工学科卒業。1963年同博士課程修了。工学博士。同年大阪大学工学部助教授。1966-1994年大阪大学基礎工学部教授。1992-1998年奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科教授。 1998-2003年広島市立大学情報科学部教授。1975年IEEEフェロー。1999年シャノン賞受賞。2007年逝去。