「アドホックネットワークにおけるクオーラムシステムを用いた一貫性管理のためのトラヒック削減について」[情報処理学会論文誌 Vol.49, No.2, pp.615-627]

平成20年度論文賞受賞者の紹介

「アドホックネットワークにおけるクオーラムシステムを用いた一貫性管理のためのトラヒック削減について」[情報処理学会論文誌 Vol.49, No.2, pp.615-627]

[論文概要]

 アドホックネットワークにおいてデータの複製を作成する場合、データ更新の発生により、複製間の一貫性が損なわれる可能性があるため、クオーラムシステムを用いた一貫性管理が有効となる。本論文では、データ更新時の操作に要するトラヒックの削減を目的として、ポインタ情報を用いて複製間の一貫性を管理する方式を提案する。提案方式では、データ更新時に、構成したクオーラム内の一部の移動体が保持するデータのみを更新することで、トラヒックを削減する。また、更新データをもつ移動体に関する情報を、クオーラム内の全移動体に送信することで、複製間の厳密な一貫性を維持する。



[推薦理由]

 アドホックネットワーク内の移動体が保持するデータ複製間の一致性を保つことは重要な課題である。データ更新に対して、どのように複製間の一致性を保持するかが主要な問題となり、これまでに多くの同期方式が議論されてきている。本論文では、アドホックネットワークの特性を考慮して、クオーラム概念に基づいた新たな方式を提案している。従来のクオーラム方式を適用すると、クオーラム内の全複製の更新が必要となるために通信負荷が増大する問題点がある。本論文では、複製のポインタ情報を利用して、クオーラム内の一部の複製のみを更新する方式を提案し、大幅な通信負荷の低減をもたらすことを示している。方式は新規性があり、かつアドホックネットワークでのデータの信頼性のある効率的な利用を可能とするもので有用であり、意義深いものである。

澤井 陽平 君

 2007年大阪大学大学院情報科学研究科博士前期課程修了。同年、株式会社野村総合研究所入社、現在に至る。モバイル環境におけるデータの一貫性管理に関する研究に従事。

篠原 昌子 君

 2009年大阪大学大学院情報科学研究科博士後期課程修了。博士(情報科学)。同年、株式会社富士通研究所入社、現在に至る。2006年日本データベース学会論文賞受賞。モバイル環境における消費電力を考慮したデータ管理に関する研究に従事。日本データベース学会の会員。

神崎 映光 君

 2004年大阪大学大学院情報科学研究科博士前期課程修了。2006年同大学院助教、現在に至る。博士(情報科学)。2008年本学会論文賞、2009年本学会山下記念研究賞受賞。無線ネットワーク、通信プロトコル、分散処理に関する研究に従事。IEEE、電子情報通信学会、日本データベース学会各会員。

原 隆浩 君

 1997年大阪大学大学院工学研究科博士前期課程修了。2004年同大学院准教授、現在に至る。工学博士。1996年本学会山下記念研究賞、2000年電気通信普及財団テレコムシステム技術賞、2003年本学会研究開発奨励賞、2008年本学会論文賞受賞。ネットワーク環境上のデータ管理技術に関する研究に従事。IEEE、ACM、電子情報通信学会、日本データベース学会各会員。

西尾 章治郎 君

 1980年京都大学大学院工学研究科博士後期課程修了。工学博士。1992年大阪大学教授、現在に至る。2007年より大阪大学理事・副学長。電子情報通信学会業績賞、また、人工知能学会、日本データベース学会、電子情報通信学会、本学会(2008年)より論文賞を受賞。データベースシステムの研究に従事。本学会および電子情報通信学会フェロー。ACM、IEEE等8学会の会員。