「高齢者介護施設におけるコミュニケーションチャンネル確立過程の分析と支援システムの提案」

平成21年度論文賞受賞者の紹介

「高齢者介護施設におけるコミュニケーションチャンネル確立過程の分析と支援システムの提案」[情報処理学会論文誌 Vol.50, No.1, pp.302-313]

[論文概要]

 実験状況下では, コミュニケーションの自然な開始の仕方は見ることが出来ない, 一方で, 人とインタラクションをするロボットを開発するためには, その問題をクリアーしなければならない. そのために, 複数人が共在する高齢者介護施設において, 社会学の一領域であるエスノメソドロジー的視点で, 自然なコミュニケーション開始場面を調査した. そこで得られた知見をリソースにロボットを開発し, その印象評価実験を行ったところ, 開発されたロボットがユーザに対して安心感や親近感を与えることがわかった. この成果は, 開発されたロボットの有効性と, 領域横断的研究の意義を同時に示している.



[推薦理由]

 本論文は研究の内容と研究の実施手法の2つの側面で優れている.まず研究内容において,従来の人-ロボット研究の大半が相互行為そのものの手続きに注目してきた中,本研究は人と人の相互行為が始まる前の手続きを明らかにしている点で新規性が高い.また,その結果に基づいてロボットの制御手法を提案し,実験によってその有効性を確認することに成功しているという点で研究の完成度も高い.研究の実施手法に関しては,国内では数少ない社会学者と工学者による本格的な共同研究例であり,人々の分析,その結果に基づいたシステムの開発,実験に基づくシステム評価という手順が明確に示されており,同様の研究手法を志す研究者のための良い事例となっている.以上の理由により,本論文を論文賞に推薦する.

秋谷 直矩 君

 2007年埼玉大学大学院文化科学研究科修士過程終了. 2009年埼玉大学大学院理工学研究科博士後期課程終了. 博士(学術). 2008-2009年日本学術振興会特別研究員を経て、現在埼玉大学21世紀型公共性と地域共同体研究センター研究員, 立教大学社会学部兼任講師. 専門はエスノメソドロジー, 相互行為分析, ワークプレイス論. 日本社会学会, ACM他各会員.

丹羽 仁史

 2008年埼玉大学大学院理工学研究科博士前期課程修了.在学中,コンピュータビジョン,ヒューマン・ロボット・インタラクションに関する研究に従事.現在,富士重工業(株).

岡田 真依

  2010年埼玉大学大学院文化科学研究科修士課程修了. 在学中, 社会学, エスノメソドロジー, 会話分析に関する研究に従事.

山崎 敬一

  埼玉大学教養学部教授.博士(文学). 専門は社会学,エスノメソドロジー,会話分析,CSCW,CHI,ロボットヒューマンインタラクション.主な著書として『モバイルコミュニケーション』(編著 大修館2006年),『社会理論としてのエスノメソドロジー』(ハーベスト社2004年).『実践エスノメソロジー入門』(編著 有斐閣2004年).『美貌の陥穽(第2版)』(ハーベスト社2009年).

小林 貴訓

 2000 年電気通信大学大学院情報システム学研究科修士課程修了.2000-2004年三菱電機(株)にて,ソフトウェア生産技術の開発に従事.2007年東京大学大学院情報理工学系研究科博士課程修了.博士(情報理工学).同年より埼玉大学理工学研究科助教.コンピュータビジョン,ヒューマン・コンピュータ・インタラクションに関する研究に従事.

久野 義徳 君

 1977年東京大学工学部電気工学科卒業.1982年同大大学院工学系研究科博士課程修了.同年,(株)東芝入社.1987~1988年カーネギーメロン大学計算機科学科客員研究員.1993年大阪大学工学部電子制御機械工学科助教授.2000年より埼玉大学工学部情報システム工学科教授.工学博士.コンピュータビジョン,知能ロボット,ヒューマンインタフェースの研究に従事.

山崎 晶子 君

  1991年東京都立大学社会科学研究科社会学専攻修士課程修了, 公立はこだて未来大学情報システム科学部講師・准教授を経て, 2008年より東京工科大学メディア学部准教授. 会話分析, 相互行為分析, エスノメソドロジー, ワークプレース論. 日本社会学会, ACM会員.