「L-Closure:高性能・高信頼プログラミング言語の実装向け言語機構」

平成21年度論文賞受賞者の紹介

「L-Closure:高性能・高信頼プログラミング言語の実装向け言語機構」[情報処理学会論文誌:プログラミング Vol.49, No.SIG1 (PRO35), pp.63-83]

[論文概要]

 本研究では拡張C言語の仕様として入れ子関数を利用して呼出し元に眠る変数の値への安全で正式なアクセスを可能とするL-closureという新しい言語機構を提案した.本拡張C言語を高水準コンパイラの中間言語に用いれば,負荷分散やごみ集めなど計算中のソフトウェアの動的な再構成・メインテナンスが効率良く実現できる.L-closureの実装技術としては,初期化や保存を呼出しまで遅延させることで,クロージャ生成コストを削減し,アクセスされる変数へのレジスタ割当てを可能とした.本論文ではまた,GNU C コンパイラの拡張によるL-closureの実装の詳細を示した.



[推薦理由]

 当該論文は,実行中のプログラムがその実行スタックの内容に関する閲覧・変更を合法的に行うことを可能とする言語機能"L-closure"を提案するものである.この言語機能により拡張したC言語 XC-Cube を新たに提案し,GCC C コンパイラを基に実装をおこなった.また,その評価においては,L-closureの複数の実装について性能評価がおこなわれ,L-closureのもつ生成・維持コストの削減という利点が示されている.当該論文では,提案の言語機能に学術的新規性があるという点の他にも,新規性のある言語機能の提唱に始まり,処理系の設計と実装,そして,性能評価に至る記述が詳細になされており,この分野における論文の構成としては模範をなすものとなっている.このような理由により,当該論文は論文賞受賞に値するものと判断した.

八杉 昌宏 君

 1989年東京大学工学部卒業.1994年同大学院理学系研究科情報科学専攻博士課程修了.1993年日本学術振興会特別研究員.1995年神戸大学助手.1998年京都大学情報学研究科通信情報システム専攻講師,助教授を経て2007年より准教授.博士(理学).1998~2001年さきがけ研究21研究員.プログラミング言語,並列処理等に興味を持つ.

平石 拓 君

 1981年生.2008年京都大学大学院情報学研究科通信情報システム専攻博士課程修了.2007年~2008年日本学術振興会特別研究員.2008年より京都大学学術情報メディアセンタースーパーコンピューティング研究分野助教.博士(情報学).プログラミング言語や並列計算に興味を持つ.2006年IPSJ Digital Courier船井若手奨励賞.

篠原 丈成 君

 1984年生.2010年京都大学大学院情報学研究科通信情報システム専攻修士課程修了.同年よりメディアマックスジャパン株式会社に勤める.

湯淺 太一 君

 1982年京都大学理学研究科博士課程修了.同年京都大学数理解析研究所助手.豊橋技術科学大学を経て1996年京都大学工学研究科情報工学専攻教授.1998年京都大学情報学研究科通信情報システム専攻教授となり現在に至る.理学博士.記号処理とプログラミング言語処理系に興味を持っている.著書「コンパイラ」ほか.本会フェロー.